101
「………」
今まで聞こえてきていた声とはまるで違う声色に、ギルベルトはとても驚いていた。
今までの性格とはまるで違う、そもそも声色を認識したのも最近ではあるが明らかに別人と分かる性格の違いはギルベルトに混乱をもたらした。
『はぁ、全く……。何故人形遊びが好きなのか理解に苦しむ。清く諦めて次に進む事はしないのか』
「人形遊び?」
『……は?』
「人形遊びとはどういう意味だ?」
『ふむ、どうやら俺の声が聞こえているようだ。ではお前はどう思う、男が人形遊びなど馬鹿げているとは思わないか』
頭を動かすと、声はその本から聞こえてくるようだった。
まるで意思をもったような本にギルベルトは思わず片膝をついて話に耳を傾ける。
この本から聞こえてくる声は、この『運命』との分かれ道となると心の奥深くで理解していたからだ。
一先ずは先程の問いに答えることが先決だろうと、ギルベルトは口を開く。
「確かに、人形遊びは《ごっこ遊び》だから……」
『ああ、それだ。よくレシーが言っていた。『まるでごっこ遊びのようです』と』
「レシー?」
『レティシー姫を知らないか?』
本から語られた姫名前にはまるで聞き覚えが無かった。
今までの歴史について授業での成績は悪くないとはいえ、隅々まで覚えているわけでは無い。
後で調べようとギルベルトは思った。
「いや……聞いたことが無いな」
『ふむ、そう言えば隣国の姫だったな。結果的に嫁いで来たわけでもないから知らなくて当たり前だな』
目で見えるわけでもないが、聞こえてくる声からその者が指を顎に当てて物を考える仕草が伺える。
不思議な物だと思っていると、何か重要な事を忘れている気がした。
『ギルベルトと言われていたな。先ほど女が学園長なる者と話すと言っていたが問題はないのか?何となく慌てていた気が……』
「レティ!!!」
そしてギルベルトは学園長の部屋まで駆け出したのだった。
___________
「という感じで、今までの意識喪失が嘘のように無い状態なんだ」
「それ入れ替わったりしないのですか」
「何というか、全く別の人間だと理解したからもう問題ない気がするんだ」
思い返せば、ギルベルト様は女にだらしないクズのような人物だったのだ。ギルベルト様の母アナリア様の話によれば、そういった行為をした後にちゃっかり記憶を消して色々楽しんでいた『女の敵』だったらしいので、ここまで誠実に私に好きだと言ってくるギルベルト様はレアなんだと思う。
私を襲うよう囁いていたギルベルト様の中の人間とギルベルト様が『別の人間』だと彼自身、気がつくことが出来たのは、私の事をある程度は他の女の人とは別の感情を持って見てくれていて、どうでも良い人間とは違うのだと言われているようで、少しだけ嬉しくなる。
「ん?何?」
「いえ、ギルベルト様が以前女の敵であった事を思い出したまでです」
「……嫌な歴史を思い出させないでくれ」
「しかもまだ何年も経っているわけではありません。歴史と名乗るには早いかと」
「久々に厳しい事を言うね」
ただ、何故他の女の人とは違うと思われることが嬉しいかについて考えることは止めておいた。
お読みいただきありがとうございます!