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『お前は私の物になれば良いんだ!』
レシーは耳の奥に残るその声を聞かないように必死に耳に手で蓋をした。
レティシアとギルベルトに勇者について聞かれたとき、恐怖が体を支配して、声色だけでも緊張を悟られてしまうと思い、気がつけば好きだったアギィトスの話をたくさんしてしまっていた。
リヒュタインはとても恐ろしい人だ。
アギィトスにフォローの言葉を告げられた後すぐにリヒュタインへと変わった瞬間、押し倒されて首を絞められた。
そして、従わなければ殺すと脅され争う力のない私はただ従うしかなかった。
魂が入れ替わったからと魔力量が増えるわけではなかった。
前と同じ、魔法は癒す魔法以外は殆ど使用できない。
この勇者と名乗る男からは逃げることなど不可能だったのだ。
途中で寝泊りをする事になった森では、勇者が私に襲いかかり服を脱がされて犯されそうになった。
途中でアギィトスに変わらなければ最後まで行われていた事だろう。
酒に酔っていたとはいえ、あまりにも非道だとアギィトスは慰め、リヒュタインは酒によって寝ているから起きないと言ってレシーが寝るまで側についていた。
だから、レシーは森が苦手なのだ。
レティシアには姿は見えないようで安心した。手の震えが止まらず、思考が上手くまとまらない。
正直一度話しを止めてもらえて良かったと安堵したほどだ。
ほっとため息をついてレティシアの後を辿ろうとすると、急にレティシアは振り返ってこう告げてきた。
「レシー、レシー」
『は、はい』
「あんまり無理しなくていいからね。まぁ、乗っ取られるのは嫌だから早く解決出来るならしたいけど、無理させたいんじゃないから」
『…………』
そこまで言うと、レティシアは王宮の中に足を踏み入れていた。
緊張するーという小さな呟きが僅かに聞こえてくる。
レシーはつい『フフ』と笑いを漏らしていた。
彼女は、今まで繰り返し生まれてきた自分の魂とは全くの別物のような気がしている。
もしかしたらこの、何度も蘇る呪いも、断つ事が出来るかもしれない。
レシーは微笑みながらレティシアの後を辿った。
魂なのに…後を、辿る…?
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