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レティシア視点に再度戻りまする
私は毎日いつもよりも1時間遅くまで、扉の前には『調合中開けるべからず』と札を下げて調合していた。
それはもう真剣に行っているためクラスメイトにタイマーを借りて時間を知らせなければいつまでも調合を続けてしまう事だろう。
それにしても……私の調合のやり方が上級者用の作り方だとは思わなかった。以前読んでいた調合の本を読み返してみると、表紙と中身が違っており、中身の題名は『かなり上級者向け、なかなか薬を飲まない子供のための薬作り』とあった。図書館から借りたとはいえ、中身が違うなんて酷いものだと思う。
書いてある事が難しかった訳である。
最近新たに初級の薬の作り方を見ると、全然やり方が違う。
とは言え、初めからの作り方が乗っていたので頑張って練習したら出来るようになったし、なんなら粒状の方が高く売れるとの事なので良しとしよう。
ギルベルト様はあの後すぐにご自宅に行かれたらしい。
何日か見かけていないし噂も聞かないのでこの学校に来ていないのだろう。
私としては集中できて万々歳のため問題ないが、学校の貴族の人達や女子生徒達が悲しみにくれた顔をしているのはどうにかしてほしい。
幸いにもこの学校ではパートナーを殺し始めるサバイバルな人は居なかったが、貴族様が居ないだけでこれだけ暗い学校になるとは、やはり影響力が凄い人というのは存在するのだなーなんて思っておく。
予約されていた薬は全部作り終えた。
明日はこれを販売しに行って、明後日からはギルベルト様の薬を作る。
あの日からずっと、未来のことを考えていた。
私は一体どうなってしまうのか、恐らく今まで生きてきた人生では想像もつかない未来になる事しか分からず、不安だけが残る。
「はぁ…………」
とりあえず今日は帰ろうと鞄を手にして寮へと向かった。
___数日後
ギルベルト様が突然薬学室へ入ってきた。
看板をかけていたはずなのにと思っているとにこやかな顔で私に尋ねてくる。
「どれくらいできた?」
「100粒くらいです」
「じゃあまずそれだけ欲しい」
「……分かりました、何か急用でも?」
「ああ、西の森に出たヒドラを倒しにいく」
「ヒ!?」
急に現れたかと思えば、ヒドラを倒しに行くから私の薬が欲しいという。
驚きのあまり私は腰を抜かしてその場に座りこんだ。
「おっと、大丈夫かい?」
「だ、大丈夫、いや、大丈夫なんですか?!?」
効果を保証しないで渡すというのにヒドラを倒す場所に持っていかないでほしい。ヒドラとは大型の魔物で、魔剣士が10人がかりでやっと倒せると言われる、私としては強い魔物だ。
「大丈夫だよ。ヒドラなら1人で倒したこともある。あの時は14歳だったからギリギリだったが」
「……ああ、へぇ、そうなんですか」
なるほど、目の前にいる人はかなりお強い方だった事を忘れていた。
14歳という事は5年ほど前のことだ。そこで倒せていたというなら今なら普通に倒せていて間違いないはず。
「まぁ、近年魔物達が強くなってきて比較にはならないけどね」
「ええーじゃあなんで大丈夫って言ったんですかぁ」
とりあえず、行く前にしっかりと効果をチェックするように伝えて渡して追い出す。
と言っても、効果については自分で試しているので問題ないはずだ。
どうやって試すって?
普通に飲んでみたり、腕をナイフで切ってから薬を飲むだけ。それでなにも起きず、傷が治ったら問題なしと判断して売っている。そもそも本に書いてある通りに作っているのだから治るレベルが変わる位だろう。
因みに、病気の為の薬も使っており、自分が風邪の時に飲んで治ったやつはメモして作成してある。
いつかこれを売って商売するつもりだ。
ただ、腕をナイフで切った程度の傷を治す薬はであって、ヒドラから受けた火の火傷を消せる保証もない。
果たして大丈夫なのだろうか。
「…………だめだ、今日は作れる気がしない。実験の方を進めよう」
私は新しく作ってみた薬を手に、軽い痺れの出る毒を腕に塗るべく間違いがないように部屋に鍵をかけた。
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