六話:悪魔の遊技場2
誰よりも早く、誰よりも冷静に、誰よりも端的にA様が口を開いた。
「いえ、私たちが創造したのは"人間"という種族だけです。あなた達"白き翼ある者"は想像しておりません」
「な⁉︎ そんなバカな⁉︎ 我々"白き翼ある者"はあなたが存在する後に生まれた! ではいったい誰が我々をお創りになられたのですか⁉︎」
「......わかりません」
男のことばに圧倒されてか、少ししてからA様は口を開き一言だけ呟いた。そのときの表情は暗くてはっきりと見えなかった。
同時に男はおかしな感情に苛まれ、すこし険しい表情をしていた。
それもそうだ。自分たちは誰かによって作られたのは確かなのに、その製作者が不明だというのだ。しかし作られたのには必ず意味がある。なのにそれさえも分からないおかしな存在、それが"白き翼ある者"だったのだ。
「ーーもう一つだけ......もう一つだけ質問よろしいでしょうか?」
男の声が小さく震えている。
「よろしいですよ」
A様にはさっきまでの暗い表情はすでになく、依然として目に輝きを持っている。
「我々"白き翼ある者"は、いったい何のために作られたのですか?」
「ーーわかりません」
「では! 我々はなぜ存在しているのですか⁉︎」
「..................」
沈黙が走る。A様やそばにいる"創設者"は依然として男の目をしっかりと見つめている。
その反面、男の心臓はやや早めの鼓動を男の胸に刻み、荒がる息が部屋一面に広がる。まるでステレオスピーカーのようにとても広く、より盛大に。
「はぁはぁ............ンッ............クソッ」
男にはこんなことを聞いても意味がないことは自分が一番わかっていた。しかし、到底聞かずにはいられなかった。答えが欲しいのに答えがないもどかしさが男を蝕みました。
「何のために作られたのか、何のために存在しているのか、確信を持って正解を答えることはできない。しかし、あなた達"白き翼ある者"と我々がお互いに協力することで現在の世界が成り立っているのも事実です。なぜなら、我々は人間に調節干渉する力はありません。せいぜい、光を与える、幸せを与えるといったことだけです。しかし、それが"人間"を正しい方向に必ず導けるというわけではありません。そのためあなた達の力が必要なのです。あなた達がいなければ誰が"人間"を正しい方向に導くのですか? あなた達が行う全ての事柄が"人間"を正しい方向に導くことにつながるのです。 ーーこの際、存在意義を自身で作ってみることはいかがですか?」
男は黙って聞いていました。正直にいうとそれが正しいことなのかは分かりませんでした。しかし、それが一番の解決策であると男の脳が感覚的に言っているのを男はなんとなく感じていことは事実です。
その後、男は調査をしながらもこのことを記録に残し、全ての民へ向けて言葉を届けました。
A様が我々"白き翼ある者"を創作したのではないこと。
我々は何のために存在しているのか。
我々が誰かに対して今できることはなにか。
それが、人間界に降りるきっかけであり、そのことによって男はこの世界の真髄を知ることになり、絶望することになります。
なぜならーー
♦♦♦
「......ま、............さま、..................お客様」
聞き取れなかった声が少しずつ聞こえてくる。フーマンがゆっくりと顔をあげると、少し顔を覗き込むようにさっきの店員さんが問いかける。
「............はい。どうかされましたか?」
「休憩されているところすみません。とても集中してらしたのでお声を掛け辛かったのですが......もう閉店の時間でして」
「あ......すみません」
読みかけの本をそっと閉じあたりを見回すと、外はすでに日は落ちており、等間隔に設置されているライトの光とその光に当てられた建物や道路が一際際立って見える。また、密集するほど行き交っていた人々は消え、数人の親子連れと、少しの学生やサラリーマンが出口に向かって歩いて行く。
(もうこんな時間か......)
フーマンはゆっくりと深呼吸をする。
「わざわざお手数をおかけしてしまいすみません。あ、あとコーヒーやアップルパイに何も手をつけていなくてーー」
「あ! このアップルパイ、少しお預かりしてもよろしいですか?」
「......ええ」
言葉を遮ると店員さんはヒョイとお皿を持ち中へと入って行く。
「お待たせしました!」
「これは......?」
「アップルパイです!温め直したのでぜひお持ち帰りください! コーヒーもご一緒に!」
店員さんは紙袋の中を覗かせるかのように少し開けて説明した後で、片手で袋の取手を持ち、もう一方の手で底を支えながらゆっくりと紙袋を前に差し出す。
(どうりで少し暖かいと思った。しかも綺麗に包装されている)
包まれたアップルパイからは生暖かい熱気が感じられ、それに反応してか急にお腹がギュルギュルと声をあげる。
「そんな......悪いですよ」
「いえいえ、せっかく注文してくださったのに、食べずに残すなんてもったいないですよ! それに、これを食べて美味しいと思ってくださったならまた来てくださいね!」
そう言いながらグイッと紙袋を差し出す。
「......では、お言葉に甘えていただいて帰ります。わざわざありがとうございます」
フーマンは一言お礼を言うと席を立ち出口へと向かった。
出口に着くと、そこにいた警備員の「こちらです」といわんばかりの仕草が真っ先に目に入る。しかし同時に近くに置かれていた、悪魔の遊技場と書かれたパンフレッが目に映る。フーマンはそれを手に取るとすぐにモールを出た。
その瞬間、モールのライトが次々と消えていくのがわかった。
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