十話:試合の始まり
フーマンは、カツカツカツと音を鳴らし一段ずつ階段を上っていく。進むに連れて少しずつ光が目に差し込むのを軽く腕で覆いながらゆっくりと進む。最後の一段を踏み、腕をどかして光を受け止めると、そこにある大きな青空とそれを囲む大衆が目に入る。
舞台の周りを囲むように観客から大きな歓声があがる。一向に病む気配がない雑音は、ただの雑音ではなくまるでフーマンを歓迎しているように思えた。そしてこの歓声こそが大会の開幕の証であり、これが大会であると直接耳に訴えているかのように、フーマンは感じていた。
この風景、鳴りやまぬ歓声に当てられ、思わず口に出る。
「これが......大会,,,,,,」
フーマンは小さく呟く。
フーマンにとってこのような大会に参加したことは人生で初めての経験だった。
ゆえに、脳と体に反して思わず声を出してしまったのだ。
今まで天界で数えることができるくらいは大会に出たことはあったが、これほどまでに盛大な大会は一つもなかった。なぜなら、いくら天界といえども人間界との人口を比較すれば圧倒的に人間界の方が多いからだ。
理由はいたってシンプルである。人間と天使では繁栄速度が違うからである。
人口が多ければ多いほど、それに伴って規模が大きくなることの方が多い。人口が少なく、また栄えている所の方が稀だ。
フーマンにとって、人間界と天界での大きな技術の差を垣間見た瞬間であった。
舞台は直径5メートルほどだろうか、舞台と観客の間には約10メートルほどの間隔が空いており、そこは芝生のような柔らかいもので敷き詰められていた。フーマンはそれを踏み進みながら舞台へ上がり中へと進んでいく。舞台へ上り中央に向かうようにして歩いていくとピタリと動きを止める。どうやら自身の定位置に到着したらしい。
フーマンの頭、胴、腕、足、全ての部位がまるで睨むかのように正面を向いている。正面といっても、約2メートルくらい離れた距離ではあるが、切島が見下すようにして立っていた。なぜ2メートルも離れているかというと、その2メールの間には大きな長方形の形をした机が置かれているからである。
フーマンは舞台に立ってから改めて気づく。自分と切島以外の参加者が見当たらないことに。どうやら同じような舞台がいくつもあり、会場に割り当てられているようだ。一体どのような試合をすのか見当もつかない。
「つぶせー!」
「ああ、あのルーキー、可哀そうに......」
「また、アイツのショーが見られるぜ~‼」
「切島バンザイ!」
「あの新人、終わったな」
「よ! ルーキー! 頑張れよ~」
歓声は鳴りやまない。観客はそれぞれが自身の応援したい参加者を一所懸命に応援することだろう。フーマンを応援する声がフーマンの耳へと届く。しかしそれ以上に切島を応援する声がフーマンの耳を塞いでいく。
「なんだぁ? 怖気ついて逃げた方がよかったんじゃねぇのかぁ?」
「お前の方こそ、泣く結果になっても知らんぞ」
「ハハハァ! だぁれに向かって言ってんだぁ? 俺様の事を知らねぇようだから冥土の土産にお教えてやる。俺様はなぁ! 〝百獣の番長〟という名で恐れられているくらい有名なんだぜ!」
「はぁ、ソウデスカ」
「ふんっ。俺様の強さをまだ理解していないようだなぁ! 実力はトップクラスだということを今にでも見せつけてやる!」
様子をうかがっていたのか、たまたまタイミングが合っただけなのか、舞台の外から審判を務める一人のスタッフが声を上げる。
「これより、一回戦目を始めます! 本舞台では互いの合意により、悪魔の遊技場での試合となります! では、始め!」
ゴ~~~ン!
同時に開始のゴングが響き渡る。
いよいよ試合が始まるようだ。フーマンは、右足を少し後ろに下げ、腰を軽く落とすことで何が来てもいいように身構える仕草を取る。
「ハハハァ! そうビビんなって! すぐ終わるからよぉ!」
切島は、ネックレスのようにぶら下げていたUSBメモリーを引きちぎるかのように外すと、思いっきり足元に向けて刺す。
「こいよ! 悪魔!」
その刹那、刺さったUSBメモリーから目も開けられない程の輝きが放たれる。すると、一瞬にして黒い壁が出現し360度全ての視界がそれにより遮られしまう。
「なっ......」
フーマンは驚いて当たりを見回す。
黒い壁は、まるで舞台の地形沿うように聳え立ったいる。ただ壁が高いだけではない。今まで太陽に照らされ美しく輝いていた青空も、すっかり暗く塗りつぶされており、いつのまにか立っていた床も舞台のタイルから黒一色に変わっていた。
ドーム状に広がる壁の中央から黒と灰色の煙が交互に顔を出す。その煙は空間を切るように現れ、球を描くように徐々に大きく膨れ上がる。まるで地上から見上げた時の太陽みたいな大きさをしていた。
その煙が少しずつ晴れていくにつれて、中から何かの物体が部分ごとにあらわになっていく。最初に腕、足、胴体、首、最後に顔のように。
よく見ると、体は宙に浮いており羽のようなものは一切見当たらない。また、身体の構造が到底人間とは思えないほどの異形な姿をしており、決めつけは頭の上についている二本の角だ。これらの要素が人間でも天使でもない未知の生物だということを示している。
フーマンは驚きで半ばショートしてしまった頭を無理やり回転させる。
(なんだこいつは⁉ 天使⁉ いや羽がないし天使はこんなドス黒い色をしていない。なら人間か⁉ いや、人間にはそもそも自身を空に浮かす能力は備わっていないはず......くっ訳が分からない......冷静になれっ)
『ーー俺を、呼んだか?』
悪魔が囁く。その声を聞き取れはするものの、届く声には違和感が付く。まるでエコーがかかっているような音をしており、人によっては耳障りな音に聞こえるような低くて不可解な声が壁に当たる。
『さて、切島大我よ。プレイヤーを選択しろ』
「ハハハ! あいつだ! そこにいるフーマンを指名するぜ!」
『承知した』
悪魔は淡々と話しを進めていく。
『では、さっそくゲーム決めと行こうか。ゲームはーー』
「ッ待て!」
フーマンは無理やり悪魔の声を遮る。
『なんだ? フーマンよ』
「ふぅーー俺は今回初めてこのゲームをする。だからいくつかの質問に答えてほしい」
『なるほど、いいだろう。話せ』
「では一つ目。お前は誰だ? 見るからに人ではない生物と見受けられるのだが?」
『ふむ。俺は壱、このゲームの審判を務めるゲームマスターだ。そして、お前は俺を人間ではないと言ったがその通りだ。俺は人間ではない、天使でもない、ただとある目的のために作られた〝悪魔〟だ』
「悪魔......。ではその目的とはなんだ?」
『それは答えられない。言えない契約になっている』
「そうか、では二つ目。お前は審判だといったな? お前はコイツのUSBメモリーから呼び出されて出てきた。コイツを絶対に擁護しないという証拠は?」
『ふむ。難しい質問をするな。ならこれを見るがいい』
壱は左手を前に出した。するとフーマンと切島の目の前に辞書のように分厚くはないが雑誌のように薄くもなく丁度コミックのような量のハードカバーが盛大に表れる。
『それを手に取り読むがいい。それは悪魔やプレイヤーに対しての契約内容、すなわちルールがこの本の中に全て記載されている。これらを全て一から説明するのは面倒だ。それを答えるには口で説明するよりも直接自分自身の目で見てみる方が早いだろう』
「すまない。助かる」
フーマンは本に記載されている内容を読んでいく。
===========================
契約内容
❶悪魔は公平な審判を務めること。
❷悪魔は一方もしくは複数のプレイヤーに対して自らの助言や手助けを行なってなならない。
❸悪魔は答えられる質問には必ず答えなければならない。
①プレイヤー及び非プレイヤーはゲームが完全に終了するまで遊技場の外へ出ることはできない。どれだけ丈夫な重火器や戦車を用いようが出ることはできない。
②遊技場内でのプレイヤー間の接触を禁ずる。
③遊技場内にいるプレイヤー及び非プレイヤーは自殺または殺害を行うことを禁ずる
④各プレイヤーは必ずゲーム内容のルールに準じてゲームを行う。禁止行為に相当する場合は審判が事前に介入し、それを禁止する。
⑤各プレイヤーには必ず一つ能力が付与される。
⑥遊技場内での各能力には使用制限、使用回数が伴い、それ以上の能力を酷使することはできない。
⑦各プレイヤーは勝負前に、同等の価値のものをかけることができる。ただし、病気や死、身長、年齢などの身体に関わることはかけることができない。
⑧負けたプレイヤーはかけたものを必ず譲渡、使用しなければならない。
===========================
フーマンは一通り読み終わると、背表紙を軽く掴み本を閉じた。
「なるほど。この契約内容があるからお前は公平でなければならないと言うわけか」
『そうだ』
「理解した。さあ、ゲームを始めよう」
『ーーでは、これよりゲームを始める!』
壱は右手を前にかざす。そうすると悪魔専用なのか、辞書のようなどでかい本がどこからともなく急に目の前に出現した。本が光り出すと同時に中のページが高速でパラパラパラパラッとオートでめくられていき、一つのページで止まる。
『今回行うゲームはーー〝悪霊行進〟だ』
最後まで閲覧してくださりありがとうございます。
差し支えなければ、評価やブックマークをお願い致します。
少し下にスクロールしていただくと【☆☆☆☆☆】がありますので、【★】〜【★★★★★】の間でお好きな数をタップしていただくと評価できます。
あと、感想やレビューもいただけると嬉しいです。
その感想やレビューを参考にして、皆様と一緒により良い作品にしていきたいと思います。
よろしくお願い致します。