九話:開始の合図
大きな音と共に開催の合図が鳴り響く。会場は大盛り上がりだ。しかしその裏腹に、大きな歓声が控室まで届いてくる中、控室では冷たい雰囲気が漂う。見たところ参加者はすべて集まっているように見える。ざっと見る限り14人いる、恐らくこれで全てだろう。互いが互いを牽制しているため、ピリピリしているようだ。
決してビビって縮こまっているわけではないが、フーマンはあまり目立たないように椅子に座っていた。フーマンの瞳には大会のこと、いやUSBメモリーを試すことしか見えておらず。そのためただ面倒なことを避けたい一心だった。
しかし、だからと言って一回戦目の相手を見ない理由にはならない。“出るからには勝つ”。そう思いながら自身の持つ対戦カードを一瞥した後、対戦相手の方へと目を向ける。
(私の一回戦目の対戦相手はさっきのデカブツ。名前は切島大我。準優勝したことがあると言っていたが果たして本当なのだろうか? そして最も気掛かりな点が一つ。さっき突き飛ばされた時、確かに私は踏ん張れた、いや踏ん張ったはずーーしかし実際は踏ん張ることができなかった。何かカラクリがあるのだろうか? 少し注意しておく必要があるな)
突然、霧島がフーマンの方へ向く。フーマンは内心「やべっ」と思ったが顔には出さず、終始にらみ続ける。
霧島はズンズン歩く。他の参加者をまるで見えていないかのように交互に両肩をぶつけながら。
霧島はフーマンの目の前でピタリと止まると、仁王立ちで且つ座っているフーマンを見下すように響き渡るほどの大きな声を出す。
ピリピリしていた雰囲気が一点に集中する。まるで参加者全員の感情をひとまとめしたみたいに。
「おい! ハハハッ! 俺様の相手はさっきのチビか! お前じゃ俺様には勝てねぇよ、今すぐ尻尾を巻いて逃げな!」
「......果たして、どうかな? 実際に戦ってみないとわからないのではないか?」
「あん?ふざけんじゃーー」
「あそうだ、お前ホルダーか? ホルダーならやるぞ、悪魔の遊技場」
フーマンは切島の威嚇にピクリとも動じず、話を遮って言葉を被せる。
「ーーあ? ハハハハハハハハッ! お前みたいなチビがホルダー? 随分と威勢がいいじゃねぇか!」
突然控室の扉がガチャっと開くとスタッフがひょっこりと現れる。「静粛に! 間も無く一回戦が始まります。参加者は各自指定の位置へ移動を開始してください」と言うスタッフの声が部屋中に響き渡ると、今までピリピリしていた雰囲気が外へ漏れていく。
「おい、チビぃ。大勢の観客が見ている中で盛大にボコボコにしてやる。ハハハッ! 泣き顔が目に浮かぶぜ‼︎」
「フッ、去り際の台詞としては随分と雑魚そうな台詞だ。そっくりそのまま返してやるよ」
切島が参加者に紛れて消えていく。部屋をを見回すと冷たい雰囲気は完全に外へと流れており、さっきまでとは全く違う雰囲気が一つがこちらに近づいてくる。巧妙で繊細に隠された雰囲気。冷たい雰囲気の中、一度も顔を出さず今までずっと身を潜めていたのだろう。フーマンは比べ物にならないほど圧倒的な実力の差を感じた。
「大きく啖呵を切ったね。ま、あんな雑魚に勝てないようじゃ、絶対私には届かないよ。じゃ、決勝で会おうね」
「ああ、決勝で会おう」
右手を見るとは小さく震えていた。怖いからではない。USBメモリーを試す。そこではどんな試合戦いが待っているのか、その中で自分がどれだけ戦えるのか。フーマンはそれを知りたくて仕方がなかった。
(落ち着け。戦いは逃げない。なんでもいい、戦いの中で多くの情報を収集するのだ)
優しくこぶしを握り締め、自分に言い聞かせるフーマン。大きく深呼吸をしたあと、小さな声で「よし」と呟く。
フーマンは控室前で立っているスタッフに向かって「すみません、今行きます」と言いながら部屋を出ると、小さく見える遊の背中を追うようにして舞台へと向かった。
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