少年は困惑する3
とりあえずすっきりした顔でトイレから出てきて一言、よし、かえろう!とのたまった妹に、常備しているリップクリーム(メンソール配合)を両目の下にスッ、スッと滑らすように塗ったあと教室に送り届けた耕作は、自身の教室へ向かった。
クラスメイトとのあいさつはない。
1人だけ例外である幼馴染は教室にいないようだった。
耕作が席に着くと途端にそわそわし始める。
妹につられて尿意を催したわけではない。ラブレターが気になってしょうがないのだ。
(俺に……ラブレター?)
生まれてこの方告白はおろか、ラブレターなど貰ったことはない耕作。イケメンの無駄遣いというか、妹欠乏症なる奇病をたまに発症するので周りからは残念な人のイメージが強いせいで、恋愛対象として見られることが無かったのだが。
しかしこの男、重度を超えた極度なシスコンではあるが、恋に無関心なわけではない。
かわいい子や美人には当然目を惹かれるし、豊満な胸は見ないふりしてチラチラ見る。
そんな思春期真っただ中の少年にラブレターなんぞ届いた日には……。
(中身を確かめてみよう)
こっそりと周りから体で隠すように、その中身を開いた。
━━━━四島浩平君へ
突然のお手紙ごめんなさい。
あなたにどうしてもお伝えしたいことがあります。
直接呼び出すことは恥ずかしくてできそうにないので、お手紙にしました。
今日の放課後17時に、屋上で待ってます。
夢見貴奈より━━━━
ほ・ん・も・の・だ!!
耕作は机の影でガッツポーズをした。
高校三年の春、これから受験シーズン到来で遊ぶ時間が減るとはいえ、彼女ができたならこんなに嬉しいことはない。
高揚から顔が若干赤くなっているが、周りからは気付かれる様子はなかった。
彼がボッチだからだ。
……唯一の例外を除いて。