少年は困惑する1
チュチュチュンチュンと春の子鳥のさえずりが、朝の快晴に恵まれた通学路に清涼な空気を醸し出す。
爽やかな雰囲気の中、ぐでんぐでんにとろける、まるで電子レンジで熱されたチーズの様に青年の背中にへばりつく少女。
2人は紺のブレザーに赤いネクタイとリボンをそれぞれ襟元につけているが、その有り様は全くと言っていいほど違う。
結び目、締め方と女の子の方はだらしないというしかない。
ゆるゆるで斜めになっていて、人様に見せられないほどのふにゃふにゃな顔も合わさっているため、まるで彼女が誰も入ることの無い鍵の閉め切った部屋に安心しきっているように錯覚する程だが、そこは通学路。他の生徒も同じように登校している。
「ねーえ~、お兄ぃー」
「ホイホイ、何かな、兄の背中の上で二度寝をキメようとしている愛しい妹様?」
周りの奇異の視線を意にも介さず会話する兄妹は、制服をまるで学校案内のパンフレットにでも載っているようにキッチリと着ている兄の方も異常だということを証明している。
「おうちかえりたい」
「バカ言うなよ妹様~?引きこもり体質のお前は体重が軽いから、背負っても何とか登校できるが、今引き返してもっかい学校へ行くとなると完全に遅刻だからなぁー?」
「わたしを置いていけば間に合うのでは?」
「なんの為にお前を背負っているというのだ」
「昨日の夕方からFPSをシコシコやり続けて、疲れたーもー、とか言ってたら、外人プレイヤーがボイスチャットに入ってきて、何言ってんだコイツ、とか思っちゃうくらいに聞き取れない流暢というか訛りみたいなのが酷い英語で延々と喋った挙句に、チームが負けた瞬間にキレやがって鼓膜破壊されかけて、スラング混じりのファンメでめっちゃ煽られるし、他の仲間には送られずにわたしだけに送ってたみたいだしぃ、はぁ!?とか思ってイライラして、あーやっぱFPSやるやつなんでろくな奴いねーな!とか思ってたら、こっちが疲れてるのを見計らっていたかのように、ブラックコーヒーと手が汚れない個包装のお菓子を持ってきて、『良かったら休憩にしないか』とか、人様から見たら微妙かもしれないけれどわたしから見たら超絶イケメンなお兄が、頭も良くない、友達もいない、運動だけはそこそこできる癖にゲームにドハマリして外に全く出たがらない超絶美少女妹に、やっぱりクソシスコン童貞こじらせシスコンお兄は学校へ行かせようとわたしを無理矢理背負ってぼっちの辛さをまるで洗濯板に服の代わりに顔をゴシゴシ洗うがごとく体験させて、更なるぼっちの高み、ヒキコモボッチにさせようとしてるんでしょ?」
「なっっっっっっが!さっきまで眠そうだったのによく喋るなぁ!つか俺を褒めてんのか貶してんのかどっちだ!」
この奇天烈な光景は実際のところ、ただ学校へ行きたがらないゲーマー妹を強制連行しているという図になる。
ちなみに少女はボッチと自称しているが、仲のいい友達はいて、さらに言えば妹は兄に甘えているだけだ。
そんな彼女は顔を赤らめながらボソボソと兄の耳元で囁く。
「ねえ、本音言っていい?」
「どうぞ」
「妹、漏らしちゃいそう(はぁと)」
「ああああ、無駄な話なんぞせずにはよ言えええええええ!!」
途端に走り出す兄。
人1人背負いながらのダッシュはどうしても重みのせいで上下に衝撃が入る。
それは限界間近の膀胱に毒沼に入るがごとく一歩一歩着実にダメージを与え、確実に黄金ダムの寿命を縮めた。
「お、おふ、おほぉー!お兄、優しく、お、お、おぉほー!」
「無理に決まってんだろ、二者択一だ!走る、オア、出す!」
「……あ」
「…………」
「んふ」
「……おいおいおい!」
ブルブルと震えながら恍惚の表情を浮かべる妹。
「大丈夫だよ、お兄」
「あ、焦らせるなよ……」
「地獄に落ちる時も一緒だよ?」
「その台詞は今聞きたくなかったなぁ!!」
ギリギリ間に合いました。
いきなり汚くてごめんなさい。
こういうネタはあまり使わないように……した、いです?
あ、あとスペースが使えるようになったので1Pも読みやすく編集しました!