序章
ひとつだけ質問がある。あなたにとっての「友達」とはなんなのか。青春の象徴か、それとも自分の存在意義の確認材料か。なんにせよ、あなた達にはそれぞれ自分にとっての「友達」とは何か、おぼろ気ながらでも定義付けているものがあるだろう。
じゃあお前はどうなんだって?ふむ、そうだな…一言で言い表すなら「トラウマ」、だな。
× × ×
俺はバスに揺られながらうたた寝をこいていた。本来なら自転車で来る予定だったのだが、今日はあいにくの雨だった。高校生活の記念すべき第一日目だと言うのに。…いや、正確には二日目だな。
入学式は昨日で、今日から正式に授業が行われる。とはいっても最初だからほとんどがガイダンスだろうし、一限はみんなの自己紹介のために先生が時間をとってるらしい。…自己紹介…ハァ。
とか思っていると、急に車内がうるさくなり始めた。どうやら混んできたようだ。見ると、七十代ぐらいのお婆さんが隣の二人席に乗ろうとしていた。しかし先に乗っていたと思われる男はそれに気づかず、むしろ気づいて寝たフリをしたように見えた。それを見た俺は瞬時に隣の荷物をどかし、お婆さんに声をかけた。
「あの、隣どうぞ。」
「え?いいのかい?ありがとねぇ。」
「いえ、当然のことですよ。それに、悪いのはうたた寝してて気づけなかった俺の方ですし。」
「あらあら。よくできた子ねぇ。立派だわぁ。」
「ありがとうございます。」
基本、老人やその他大人を相手にする場合は優しくフレンドリーに、しかし付かず離れずの位置で接するのが一番だ。まず、誉められたら単調に礼を返す。
「あなた、兄弟とかは?いるの?」
若干個人情報に引っ掛かりそうな話題にたいしては、できるだけ時間をかけた上で一番当たり障りの無さそうな回答をする。
「あー…えっと、まぁ妹がいます、かね。」
「はぇ~そりゃしっかりものになるわけだぁねぇ。」
そして相手が次の一手を出してくる前にその場から脱出する。
「あの…すみません。もうすぐ降りるので。いいですか。」
「あーはいはい。ごめんなさいねぇ。それじゃあね。」
「あ、はい。失礼します。」
終わり。後は相手の手の届かないところまで来ればよし。
『はい、次は~多ヶ築高校~多ヶ築高校~で、ございます』
目当ての場所に到着したことを確認した俺はすぐにブザーを鳴らした。
降りると、すぐ目の前に大きな建物がそびえったているのがわかる。ここが俺がこれから通う高校だ。
上履きに靴を履き替えて教室へと向かうと、既に何人かはもう来ていた。一人暇潰しにゲームをするもの。入学してすぐ仲良くなったものとおしゃべりするもの。包帯の巻かれた右手の手首を押さえながら、何やらブツブツ言っているもの。様々だった。
俺はそんな人たちを横目で見ながら、一番端の俺の席へと向かう。ま、俺にはどうでもいいことだしね!
あぁ、俺の席がここでよかった。これは名前と自分の運に感謝だな。誰にも注目されず、一番見つけにくく、かつとても居心地のいい場所。こんなにいい物件に最初にありつけたのは実によかった。
俺はこの席を一通り堪能したあと、鞄から一冊の本をとりだし、朝のHRまで待つことにした。
本を1/3程消化した頃には、もうクラスの全員が登校完了していた。
それからすぐに担任が来て、HRが始まって終わった。さて、次はついに自己紹介の時間だ。うまく、そして狙い通りにいくことを祈ろう。
更新スピードの遅い私ですが、この作品についてはそこそこなスピードで更新できると思います。よければご意見を。