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最高の結末へ~転生おばあちゃんの奮闘記~  作者: やまたけのもっさん
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同性の友達、というものが今生初めて出来てから幾らか経つ。真っ赤な髪とぽっちゃりボディに感心するほど自己肯定感が高いロシュは発言通り、可能な限り取り巻きを引き連れて私にーーというより、多分、アインスにーー会いに来てくれる。


話をする相手が全肯定してくれるツヴァイやメイドさん達。何事も基本は肯定して受け入れてくれるアインスと、私達の様子を気に掛けて稀に話す場を設けてくれる国王陛下という、かなり限られた人達だった私にとって、華やかな少女達との付き合いは思いの外大変だった。


何せ、今まではそこまで考えずに居ても、会話を上手く繋いでくれる相手としか殆ど話したことがなかった。オレオルシュテルンでは、自分で言うのはあれなのだが、幼い子供が少ない場でなんやかんや可愛がられて過ごしていたから、基本的にイエスかノーさえきちんと答えていれば困らなかったのだ。


だが、花盛りの少女達は会話を楽しむものとしている。受け答えを続けるだけの興味や面白さ、目新しさを求めているし、勿論自分から提供するそれも考えて発言する。

ロシュがどのように私を紹介してくれたのか。詳細は知らないが彼女の取り巻きの少女達はいずれも年の離れた私を対等の相手として扱ってくれているので、いつもの幼いから、まだ小さいから、という言い訳が通用しない。


主に聞かれる兄達の話はまだ何とかなるけれど、オレオルシュテルンでの生活は話せる範囲に悩むし、ましてやドレスや化粧品やスイーツや、といった話題には頑張ったらついて行けるなんてことはない。



「ミル様の今日のドレスもとても素敵ですわね。どちらで仕立てられたのかしら?」



そう言われましても。

日々のお着替えをメイドさん任せにしている私に分かることとは?


別に意地悪で聞かれているわけではなかろうが、かなり返事がしにくい。にこにこと可愛らしく微笑む少女達に囲まれて、どうしたものかと視線を爪先に落とす。

優秀だと周りに褒められて育てられているというのに、ちょっとしたお喋りにここまで困るとは思いもしなかった。記憶をフル回転させて、自分が着ているドレスのブランドって??? と考えてはいる。考えてはいるのだ。


なかなか答えられずにいると、会話が不自然に途切れる。空気がほんのり重くなる。まずい、と焦りが出てくる。焦っている間にロシュが話題を変えてくれる。また新しい話題に華やぐ場に居た堪れなくなり、そうしているとまた声を掛けられて、また困る。


上手くいかなくて頭の中がぐんにゃり。

こんなことは今までになくて、どうしたらいいのかと思うばかりで解決策が見当たらない。


誰も責めたりはしないが、答えられないと失望されているのではないかと不安になる。

甘やかしてくれる兄達や大人達と、対等に接してくれる同性相手とではプレッシャーが桁違いだ。


少女達と接するようになってから、自分が今までどれだけ周りに甘えていたのかを自覚した。何をしなくても愛され、可愛がられ、気に掛けられて。当たり前のようにそうしてもらってきたし、出来ないことより出来ることを見つけて褒められるのが当然で。


何より辛いのは魔法が使えないこと。

少女達は力の強さは違えども、何らかの魔法を習得している。その少女達に対等に扱ってもらう私も勿論魔法が使えるものとして、最初の頃は話をされていた。


けれど、実際には私は魔法を使えない。

オレオルシュテルンではクルクに。グランツへクセに来てからは専門の教師に教わっているにも関わらず、僅かな兆しさえも現れない。

ここは魔法使いの国で、魔法が何より尊ばれるのだというのをこの世界に生まれる前から知っていたというのに、現状が如何にまずいのかを考えずにいた。


私はまだ幼い。

それでも、この国では私ぐらいの年頃で魔法が使える子供は居なくはない。だから、少女達は何気なく聞いたのだ。



「ミル様はどの魔法がお得意?」



使えない、と咄嗟に答えられずに俯いた。

使えるのが当然だと雰囲気で察し、そう答えたらどうなるのかを想像した。皆が出来ることを自分が出来ないというのが、とにかく辛い。


勉強が出来る。刺繍が出来る。家事は全般出来る。

でも、そんなことはこの国では大切ではない。

私は優秀ではない。その事実が頭を押さえつけるようだった。



「できない」



その一言をどうにか振り絞ると、分かりやすく少女達は哀れむ表情を浮かべ



「少し気が早い質問をしてしまいましたわ。ごめんなさいね、気になさらないで」



兄達が言うのとは温度が違う。

出来ないのが当たり前ではない、出来るのが当たり前。

少女達は間違っていない、私が間違っていた。


指先が冷たい。少女達が帰っていく後ろ姿を見る時が、一番安心した。次はいつ来るのだろう。楽しみではなく、憂鬱だった。


ツヴァイはいつも心配してくれた。



「誰かに意地悪されてない? 何か嫌なことされた?」



誰も意地悪ではないし、嫌なことをされているのでもない。魔法が使えず、話題にもついて行けない私が悪いだけ。

黙って首を横に振ると、ツヴァイはいつも抱き締めてくれる。この時ばかりはメイドさん達から何かを言われることもない。


子供の体温は温かく、ツヴァイの優しさは心地良い。

掛けられる言葉はいつも前向きで、今出来ないことはいずれ出来ることだと、柔らかい気持ちで包んでくれる。


アインスは頭を撫でてくれた。



「辛いなら、いつでも言うと良い。何とかする」



頼れば、本当に何とかしてくれるのだろうと分かる。

アインスはいつでも守ってくれるから、きっと不可能ではないのだと思う。それがどういう方法なのかは分からないけれど。


頼れば応えてくれる兄達。

一言辛いと言えば、彼等は私を助けてくれる。

簡単なことだ。一言でいいのだから。


今生だけなら5年程度しか生きていない。

知識が無くても、愛想が無くても、片手で足りる程度しか生きていないのだから仕方ないと言われるのを受け入れてきた。


本当は何十年分の知識があるのに。

経験があることは出来る。前世でやってきたことなら出来た。

それを褒められて、優秀だと言われるのを受け入れてきた。


兄達を頼って、出来ないことだと押し通したら、二度と一人で立てない。そんな気がして、口を噤んだ。

手段はある。やってこなかっただけ。頼るべきは兄達にではない。


メイドさんに私のドレスが何処で仕立てられたのか。今の流行りは何かを聞いた。

この質問にメイドさん達は丁寧に答えてくれた。覚えきれなければ、何度でも聞いたし、いつだって付き合ってくれた。



「おひい様はご立派です」



いつもお世話をしてくれるメイドさんはにこにこと笑って。

出来なくてもいい、小さいから仕方ない。そんな類の言葉は使わないでくれて、嬉しかった。


少しずつ、返せる答えが増える。

気まずい時間が減れば、ちょっと会話が楽しくなる。

出来ることが増えたという自信が付けば、魔法についても出来るのでは、と期待が持てた。


まだ頑張れる。

本当に駄目な時は、覚悟して兄達に頼ろう。

最後の手段を手元に、私は精一杯やるつもりだ。












「ミル様って、本当に幼くていらっしゃるのね」

「まあ! ご本人が頑張っていらっしゃるのに、そんな風に言ってはお可哀想だわ」

「でも、本当のことでしょう? 何も知らなくてお可愛らしいこと」

「噂では素晴らしい魔法使いだと聞いていたけれど、あんなに小さな子供に無理に期待をしてもね」



くすくすと小さな笑い声が響く。

わたくしが一言言えば、この笑い声は止む。

分かっていたけれど、あえて口にしない。


ミルは魔法が使えない。

はっきりとあの小さな子供は出来ないと言った。


黒髪に黒い瞳、美しい兄達、大勢のメイド、国王陛下の城で暮らす幼子。

あの子は特別なのだ。そういう扱いを受けている。

そうなると当然、それなりの理由が必要になる。


幼いながらに落ち着いて椅子に座って勉強が出来る。繊細な刺繍を施した、アインスとツヴァイに贈るというハンカチは素晴らしい出来だった。同じ年頃の子供よりも行儀も良い。


でも、魔法は使えない。

そう分かると私の取り巻きである少女達は分かりやすくミルへの態度を変えた。

グランツヘクセで魔法は最も重要なもの。使えるようになってから、ようやく1人の人間として認められる。


つまり、ミルは1人の人間として扱うのに値しないという評価を少女達に下された。

早い決断には様々な理由がある。特別な子供の欠点、気になるあの人に愛される妹が出来損ないである証拠、大勢のメイドに傅かれる女の子への嫉妬。


華やかな囁きに含まれる棘は細いが、鋭い。

ちやほやと持て囃されていると認識されているミルに対して、少女達の目は他の何より厳しかった。


分からないでもない。想像は出来る。

わたくしも公爵令嬢としての立場があり、相応の立ち居振る舞いが求められてきた。どちらの考えも同調出来ないわけではない。


少女達からしてみれば、魔法が使えない子供が自分達とはかけ離れた厚遇を受けているのは面白くない。

ミルにしてみれば、幼い故に周りから許されているのが当然。


流石にミルが劣っている、不相応だと口にする者は居ない。

それでも、会えばここぞと毒を注いだ甘い声で意地の悪い話題を投げ掛ける。答えられない質問をして、出来ないでしょう? 気にしなくてもいいのよ?

そう言って、幼子を弄ぶ姿は醜悪。観るに耐えないが、そういう面もあるのが人間というものだ。


特に尊い身分の少女達は気位が高い。そうあれと教わり、その為に努力し、大人になってより良い生活を送れる結婚相手を見つけなければならない。

誰もが理想を叶えられるのなら、穏やかに生きられるだろうが結婚は1人としか出来ない。椅子は一つ、そこに座りたければ他を蹴落とすしかない。


目下、年頃の令嬢がその相手として見ているのがアインスだ。

色が薄いのが難点だが、魔法使いとしては優秀で容姿は端麗。名のある家の子だというのだから、その存在を知らない令嬢は居ないだろう。


また、まだ幼いがツヴァイも注目されている。

現時点で天使のように愛らしく、子供ながらに魔法使いとしても評価されており、将来が期待出来るという。


そんな兄達に可愛がられている妹、というのはあまり面白い存在ではないということだろう。

聞き出せる情報はきっちり聞き出すが、ミル個人に関しては湿度の高い嫌がらせを止めない。


程度の低さが分かる行いを、わたくしはただ見ている。

一度対等と認めた相手を見定めるには良い機会。この程度の悪意に挫けるようであれば、付き合い方も変わる。

ミルの幼さも鑑みて、腰を据えて結果を待つつもりでいたのだが、特別とされるだけあると言うべきか。ミルは成長した。


ついて行けるはずもない話題に少しずつついてくるようになった。答え難いだろう問い掛けにも答えるようになり、俯きがちだった顔は、少女達に向けられるようになった。

黒く深い色の瞳に一瞬戸惑う少女は一人二人ではなかった。


魔法が使えないという最大の欠点は残るが、それ以外であの子に刺さるものはない。

それだけではなく、時折アインスやツヴァイが出向いてくるようになったのも大きい。特にツヴァイは少女達に分かりやすい敵意を向ける。力ある者の敵意というのは鋭く、以前のように微笑みながら相手の頭を抑えつける言葉を発する少女は激減した。


それこそ、初対面ではツヴァイに本当に分かりやすく噛み付かれたわたくしの方がどの少女よりも親しげに話し掛けられる始末。

アインスも他の少女に比べて、わたくしと話すことが多い。


なるほど、この2人にとってミルはそれだけ価値があるのだと再認識して、わたくしは変わらずミルと対等の関係を保つ。

間違いなく、この子は特別。己の価値をこの子はちゃんと示した。


早合点した少女達は内心悔しがっているだろう。

今になって掌を返すにはあまりに遅いし、今更態度を変えるのはプライドに関わる。

いずれ、ミルが魔法を使えるようになれば、周囲との差は歴然となる。それまで、頑張って嫌みを繰り返すのか。それとも、自分より年下の女の子に取り繕うのか。


わたくしは見ているだけ。

蹴落とさなくても、勝手に落ちていく取り巻きの代わりはいくらでもいる。わたくしは価値を見誤らない。

何故なら、赤の公爵令嬢なのだから。











最近はあまり困る事が無くなった。

魔法の話題になるとロシュが話を変えてくれるし、何故かちょくちょくツヴァイとアインスが顔を出すようになり、少女達が固まってしまう、ということが増えた。


美少年の突然の登場は年頃の女の子の心臓に悪いのだろう。

というか、同性同士の話題の中に異性が交ざってきたら、それはそれはやりにくいに違いない。

ツヴァイはちょっとしたことで私を自分の背中に隠すし、アインスが少女達に向ける話題は難解な社会問題や歴史についてだったりするのでついて行ける子が居ない。

ロシュはそれなりに受け答え出来るのが流石というべきだろうか。取り巻きに囲まれる令嬢というのは一味違うということか。


ツヴァイとも普通に話すようになり、アインスと話せるとロシュは嬉しそうに頬を薔薇色に染める。

いつの間に仲良くなったのかはよく分からないが、仲の良い子が増えるのは良いことである。


頑張った甲斐もあり、話題について行けるようになった私もそれなりに周りに馴染めているのでは?


特に年の近い女の子達とは会話が弾む。

まだまだ年上の少女達と同じとまではいけないが、同じくらいの年の女の子であれば十分話せるようになったのだ。

そうして女の子達と話している間は、他の少女達から話し掛けられることがないというメリットもあり、なるべく女の子達と話すようにしている。


逃げではない、自分が対応出来る相手を見定めていると言って欲しい。

自分のレベルは分かっているんだ……微笑みながら呪文みたいな化粧品の名前言えないもの。



「ミル様、今日のドレスも素敵ですわね」

「ありがとうございます。こちらはわたしがぬったものです」

「え!?」



そう、私は困ってばかりの頃からドレスを一着縫っていたのだ。ミシンが無いのでちまちまと手縫いで時間を掛けて。出来上がりが良かったのもあるし、メイドさん達には絶賛され、ツヴァイには手放しで褒められ、アインスからは珍しく抱き上げられ、ぐるぐるその場で回ってから、ゆっくり降ろされ、いつもより長めに頭を撫でられた。


それだけ褒められるのだから、これは自信を持ってもいいかも、と初めて友達に発表したら、思っていたより驚かれた。

それもそうか。ハンカチの刺繍も結構驚かれたし。

せいぜい5歳がドレスを縫い上げるのはちょっとした事か。



「ご……ご自分で縫い上げられたのですか?」

「はい」

「職人ではなくミル様が? お一人で?」

「はい」

「…………」



絶句。

そこまで? と思って、自分のドレスを改めて見る。

素材はメイドさんから「こちらがよろしいかと」と手渡された青の生地。ボタンやリボンは付けなかったが、気が済むまで刺繍を施した。ほぼ不休で縫っていたので、途中でメイドさんに止められそうになり、授業中のツヴァイやアインスの元へ転がり込んでまで縫った。


ちなみにお咎めはない。

ツヴァイは「ミルは本当に裁縫が上手だね」と褒められるだけだったし、アインスは「大人しいのだから、別にいい」と隣の席に座らせてくれた。

兄達は大分私に甘い。


ちくちくやりながらもメイドさんから話題を吸収してもいたし、自分の授業の時は針ではなくペンを持っていたし。

この身体に慣れてきたのもあって、作業スピードは上がったので思っていたよりも早く仕上がった。

ドレスを縫うなんて前世でもやった事がなかったので、やり遂げた時の達成感は初体験。



「まあ、ミルは腕が良いのね」



ロシュが言うなら文句なく良い出来のはず。

嬉しくなって、こっくりと頷くとロシュはにこりと笑って、



「それだけの腕があれば、いつかウェディングドレスも縫えるのではなくて?」

「うぇでぃんぐどれす……???」

「わたくしの結婚の時はお願いしようかしら」



流行に詳しく位も高いロシュにそう言って貰えると嬉しいやら、恥ずかしいやら。

照れ照れしていたら、少女達もしげしげと私のドレスを見て「あら……」「まあ……」とあらあらまあまあ言い始めたので、おやおやと周りを見回す。


縫いやすい生地だったんだよね、何製か分からないけど。

糸も使い放題選び放題だったし、私は自由時間が多いし。

やり始めてみて良かったな、いっぱい褒められたし。


その日は夕食の際に、その事をツヴァイとアインスに話したら



「「……ウェディングドレス?」」



と綺麗にハモっていた。

どうしたんだい、一体。

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