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最高の結末へ~転生おばあちゃんの奮闘記~  作者: やまたけのもっさん
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オレオルシュテルンから此方にやってきたという三人の子供の噂は、以前から耳に入っていた。

「壁」を越えるなんて、並大抵の魔法使いが出来ることではない。


その事実だけで並外れて優秀であることの証明であり、それはグランツヘクセにおいては何よりの価値でもある。

この国において、魔法使いとしての力量は全てを決める基準と言ってもいい。


つまり、その子供達は価値のある子供。有望な魔法使いとして遇されるべき存在。

それ故に、親族であるとされる者達はこぞって保護を申し出たそうだが、本人達の意思と国王陛下の許可があり、国王陛下の庇護下で暮らすことになったらしい。


恐らく、大人達は揉めたのだろうけれども、それは今はまだ子供であるわたくしが口を挟むことではない。

わたくしは公爵家の令嬢として相応しい行いを心掛けている。


ロシュ・エリュトロン。

赤の公爵の娘として恥じないわたくしであることが、何よりも大切。

だけれども、流行や噂に疎いようでは周りに置いていかれてしまうので、それなりの情報収集はしていた。


三人の内の二人は有名な家の血縁があると分かっているが、一人だけ血縁者が割り出せない子供がいるそうで。

その一人というのが瞳も髪も黒だというのだから、驚きである。


この国でより「色」が濃い者が尊ばれる。

実際、色が濃い者ほど魔力が強く、魔法使いとして優秀になる傾向にあるからだ。


そして、特に黒は大変尊い色とされている。

それは、国王陛下がただ一人愛したのが強大な魔力を有する黒髪黒瞳の乙女だったからだと言われている。


王家の血は王妃様の子供、孫、曾孫……脈々と受け継がれて今日まで至るが、今まで王妃様と同じ黒髪黒瞳の者は殆ど生まれず、稀に生まれた黒髪黒瞳の子供は王妃様と同じく強大な魔力を有していた。


黒は王家の色、というのが昔から根付く常識であり、黒という色を持つのは一種のステータスでもある。

血縁が見つからないにしても、その子供は優秀なはずで、噂でもそのように聞いた。


まだ一人歩きを始めたばかりのような幼児。

その割に大人びていて、物静か。魔法はまだ使えないが、内に秘めた魔力は膨大、と聞こえてくるのはその程度。


今、最も話題になっていると言ってもいい人物だ。

もう少しくらいは知っておいて損は無い、そんな風に思っていた所に子供向けのパーティーの招待状が届いた。


内容としては噂の三人の交友関係を広げる為とあったので、迷わずに参加を決め、ドレスを新調。

完璧な状態でパーティーへ赴いて、さて、渦中の人は何処かと探し歩けば、分かりやすく孤立していたのは想像より余程小さな女の子。


地味だが質の良いドレスを纏ったその子は確かに、混ざりものなしの綺麗な黒髪黒瞳。

なるほど、これなら王家の血筋と言われてもおかしくはないが、先ずは声を掛けなくては。



「あ~ら! あなたが例のオレオルシュテルンから来た子供? 何だか随分とみすぼらしいわねぇ」



正直に言えば、そうなのだ。

別段、おかしな格好をしているわけでもなく、見た目はわたくしの取り巻きの誰よりも愛らしいと言ってもいいのに



「色は黒でもぱっとしませんわねぇ。あなた、本当に王家の血を引いていますの?」



真偽が定かではない噂話ではあるが、あえて口にしてみる。

どう反応するかをじっくりと観察していたが、その小さな女の子は話をするどころか、ぴくりとも動かないのである。


もしかして、話が難しすぎたのかと思って



「随分小さくていらっしゃるのね。おいくつ?」



分かりやすくて答えやすい話題を出してみたが、それでも反応は返ってこない。



「ねえ、あなた。もしかして、言葉が不自由でいらっしゃるの? わたくしの言っていることが理解できていらっしゃらないのかしら?」



もしかして、と思ったがこれにも反応はない。

ただ、大きな瞳をぱちくりとしているだけで、そこには理解の色が見出だせず、やはり噂は噂に過ぎないのだと分かった。



「あらあらまあまあ。噂はあくまでも噂ということですのね。王家の血を引く優秀な子供と聞いておりましたけれど、どうやら間違いだったようですわ」



少し、ほんの少し言い過ぎた気がしないでもなかったけれど、ここでようやく反応があった。

特に感情のない顔で頭を下げる女の子に何となくむっとして



「あなたにパーティーは早すぎたのね。もうお部屋に帰ってお休みになった方がよろしいのではなくて?」



きつい言い方になったが、わたくしは間違っていないはず。

会話が成立しない相手とパーティーを通じて友好を深めるなど、限りなく困難だ。

周りがこの子に合わせるにしても限度というものがある。

下手に場を白けさせるよりは、まだ大人しく部屋に戻る方が良い。


黙りこくった女の子は表情一つ動かさず、ただわたくしを見上げている。

妙な沈黙が気まずく、女の子の視線がいやに刺さるので、何となく落ち着かない心地になっていると辺りがざわめきだし



「ミル!!!」



葡萄色の髪と瞳。整った顔立ちの男の子は女の子をそう呼んで、わたくしと女の子の間に割って入ってきた。



「僕の妹に何のご用ですか」



トゲのある言い方はどうにも相手はこちらに非友好的らしい。ならば、遠慮をする必要はない。



「まずは名乗ってはいかが?」

「僕はツヴァイ。妹の名前はミル。それで、あなたは誰?」



あなたは誰、なんて初めて聞かれた。

わたくしのことを知らない者が目の前に現れたのは、これが初めて。こんなことが起こるなんて思いもしなかったし



「あらあらまあまあ!! なんて不躾なんでしょう! その色、モーヴの家の子でしょう? 色も何も似ていないのに、妹ですって? よくもまあ、分かりやすい嘘をつくものね」



特徴的な色からどこの家の出なのかは言われなくても分かる。

モーヴと言えば水と治癒の魔法に長けていることで有名だが、あそこの家に王家の血どころか。それに近しい者が入ったこともない。


ミルと呼ばれた女の子の「色」は明らかにツヴァイと名乗った男の子とは違う。

兄妹でこうも違う「色」になるとすると、親のどちらかがモーヴの色を持ち、どちらかが王家の色を持っていることになるが、王家の血筋はグランツヘクセから出たことはない。


つまり、あり得ないことなのだ。

だというのに



「答えになってないし、ミルは僕の妹だ!」



それこそ理由にならない思い込みを言葉にするツヴァイの顔は怒りで染まっている。

子供の癇癪など怖くもないが、面倒ではあるので肩を竦めて見せた。



「まあ、怖い。声を荒げないでいただける? それはそうと、わたくしの名前が知りたいのね……でしたら、教えて差し上げるわ。わたくしはロシュ・エリュトロン。赤の公爵と言えばお分かりになるかしら?」



名乗ってしまえば、もう後は分かるだろう。

赤の公爵を知らない人間なんて、グランツヘクセには居ないのだから。


周囲を取り巻く人間もわたくしのことを知っていて、距離こそ取っているが、離れてはいかない。

話の流れが気になっているのか。そうでなければ、ツヴァイの身内や今日出来た取り巻き達だろう。


心配そうに見つめていることに気付いた様子もないツヴァイは



「そんなの知らない! ミルをいじめるなら誰であっても許さないから!!」



あまりの言いように一瞬呆気に取られたが



「いじめるだなんて、人聞きが悪い! 一人ぼっちでいらっしゃるから、話しかけて差し上げただけですわ」



そうでしょう? とミルという女の子に話しかけてみれば、素直にこっくり頷く。



「うん」



欲しかった答えに思わず笑みがこぼれたが、どうやらツヴァイの方は思惑とは違ったようで、背中に隠していた妹(仮)に頻りに話しかけ、何と黙りこくっていたミルはしっかり返事をしていた。

つまり、この子は喋れないのではなく、喋らなかったのである。



「あら! あなた、お話が出来るの? でしたら、何故、先程から黙っていらしたの?」



当然、聞くしかない。

どうしてなの、と問いただすが、今度もまた口を閉ざしてしまうのが焦れったい。


更に問いかけを重ねようとしたところで、ざわめきが聞こえてきて、何だろうかと顔をそちらに向けたら恐ろしく顔が良い少年が此方に歩み寄ってきていた。



「ツヴァイ、ミル。どうした」



多くの人を引き連れながらやって来た輝く白銀の髪と空色の瞳を持つ少年に、ツヴァイが何事かを身振り手振りで訴えている。

きっと、わたくしのことを悪く言っているに違いない。


そう思いながら、その場に留まっていると空色の瞳が此方に向いた。髪も瞳も淡い色だというのに、目が離せなくなるほどに美しい。

今まで見た誰よりも魅力的な容姿を前にして、ぶわっと顔が熱を持った。


一目見た瞬間の衝撃は、生まれてから一度も経験したことがないもので。表にこそ出さなかったが、わたくしは混乱していた。下手に今、口を開くと何かしらの失言をしてしまいそうで唇を引き結んだ時、少年は口を開いた。



「私はアインス。こちらのツヴァイとミルの兄です。この二人に何か用件があるのですか?」



温度の無い声だった。あからさまな敵意などはないが、友好的とも言えない、そんな声だった。



「あ、あの……わたくし……」

「用件が無いのであれば、弟と妹を連れて行っても良いでしょうか? 同じ年頃の友人を作る良い機会ですので」



あっという間に弟妹と共に背を向けて去っていってしまう。

待って、と言いかけたけれど、何を待てというつもりだろうか。感情に任せて口を開かないでいられたのは幸いだった。

まだ熱い自分の頬に触れる。異性相手にこんな風になるのは初めてのことで、どうしたら良いか分からない。


気持ちを落ち着ける時間が必要だと感じて、一先ず飲み物で喉を潤し、遠巻きにあの三人組の様子を眺める。

弟のツヴァイは余程妹のミルが大切なのだろう。見るからにと言うべきか、見せつけていると言うべきか。分かりやすくミルにべったりで、兄のアインスの方は特に感情を見せないが、それでも弟妹に気を払っているのが分かる。

一方、妹のミルは幼い子供にしては不自然なほどに感情の起伏が見えず、遠くから見ているだけでも口が重いようだ。


一通り観察している間に、徐々に三人の周りには人が集まり始める。皆、噂の三兄弟に興味があるのだ。

そうして近付けば、その容姿の端麗さに惹き寄せられ、2杯目を飲み干す頃には人垣が出来上がっており、しまったと心の中で悔やむ。

今から人垣を掻き分けていくなんて、余りにも必死すぎて笑いの種にされかねない。かと言って、人垣が引くのを待っていては、彼等と言葉を交わすことも出来そうにない。


どうしようか、と思案しながら人垣の近くにまで近付く。人垣は厚い。年齢層は老若男女様々だけれど、より耳につくのは少女達の黄色い声だ。はしゃいだ雰囲気が離れていても感じ取れる。


これはパーティーの終わりまで離れそうにない。

そう判断はしたものの、このまま何も行動せずにいるのも悔しい。

わたくしが一声道を開けるように言えば、大体の人間はわたくしに道を譲るのだが、今回はそうして力で従わせる様を見せるのは良くない気がする。


取れる手段を一つずつ頭の中で潰していく最中に、視界に黒が入ってきた。

この場で一際小さい体躯でよく人垣を抜けてきたものだ。辺りを見回す小動物のような動きを見て、これは好機と近くに居た給仕にあるだけの菓子を二人分、皿に盛ってくるように言う。すぐに菓子がぎっしりと並んだ皿が二つ揃い、これで良しと声を掛ける。



「少しよろしくて?」



大きな瞳がぱちくりとしている。それ以外に動きを見せずにぼんやりとしていて焦れったくて、目の前に菓子の載った皿を突き付けると、わたくしと皿を交互に見ているので



「先程はゆっくりとお話出来なかったでしょう? 殆ど、あなたは話もしなかったし……こちらを頂きながら、お話を聞かせてくださらない?」

「なんのはなし?」

「何のって……それはまあ、あれですわ。あなたのこととか、あなたのお兄様のこととか」



というよりアインスの話が聞きたいのだとは、ちらとも思わせない優雅さを忘れない。

理解を示し頷いて皿を受け取るので、わたくしの判断は間違いではなかったようだ。子供や女性は菓子を好むものなので、これでわたくしの印象も良いものになるはず。


少し良い気分になって、菓子を口にする合間に話し始めて気付いたのだが、ミルは話し出すのに時間がかかるだけで多少待てば言葉が出てくるようだった。恐らくは幼いなりに考え、言葉を噛み砕いているのだろう。そちらにばかり気がいっているようで、せっかくの菓子を一つ二つで手を止めている。



「こちらに来てからは、どのように過ごしておいででしたの?」

「しろでべんきょう」

「あら? スクールには入らなかったんですの?」



平民であれ、貴族であれ。学べる年齢になれば、国内のいずれかのスクールに入学するのがグランツヘクセの民にとって当然のこと。ミルが幼い見た目に反して学べるだけの状態なのであれば、レベルに見合ったスクールに入るべきだろう。

オレオルシュテルンではどうかは知らないが、グランツヘクセでは優秀な者は飛び級も可能なので、今から入学となると早すぎるかもしれないが受け入れは十分出来るはず。



「今からでも入学先を探してみてはいかが? わたくしの通っているスクールではあらゆる学問を学べますわ。見学にいらっしゃいます?」

「にいさんが、わたしとおにいちゃんにはまだはやいって」

「アインス様が?」

「にいさんはむこうでスクールをそつぎょうしているから、スクールにはいるつもりはないって」

「あら、まあ」



わたくしと同じ年頃なのに、もうスクールを卒業しているなんて、問題なく進学していれば未だ学生の身分のはず。つまり、アインスはずば抜けて優秀であるのに違いない。幼すぎるミルにはその凄さが分かっていないのか、淡々と話すばかりだが、魔法使いとしても学ぶ者としても素晴らしい才がある。

容姿の美しさも相俟って、年頃の令嬢達がはしゃぐのもーー品があるとは言い難いがーー仕方がないだろう。

空になった皿をメイドに渡して、すぐに菓子の盛り付けられた新しい皿を受け取る。甘い菓子を口に運び



「優秀ですのね、アインス様は」



そう言うと、ミルはこっくりと頷き、じっと此方を見上げる。この子の独特な間はどう受け止めれば良いのか。感情が読み取れない深い黒に覗き込まれると、少し落ち着かない。沈黙の居心地が悪くてぽつぽつと質問をすれば、言葉少なな答えが返ってくる。


オレオルシュテルンとは長らく交流が無く、少なくともわたくしの耳には殆ど情報は入ってこない。分かっているのは、グランツへクセから少なくない数の民がオレオルシュテルンに移住し、その多くがグランツヘクセに帰ってきていないこと。

「壁」を越えられた魔法使いはアインス、ツヴァイ、ミルの3人だけという、せいぜいその程度。詳しい話は聞いたことがないし、何となくだが口にすべきではないという空気を感じる。


だが、ミルから話を聞く限りは特に不自由なく暮らしていたようであるし、魔法使いであっても魔法を使わずに生活出来るというオレオルシュテルンでの暮らしに皆が適応出来たのだろう。不思議な話ではあるが、魔法のない暮らしというのはそれなりに便利であるというので、その暮らしも悪いものではないのかもしれない。


わたくしはグランツヘクセから出たことがないので、他の国の在り方を聞くのはなかなかに楽しい。なるほど、思いの外しっかり答えることが出来るのだから、ミルの評価は正しかったのかしら? 口元を汚さず、食べ零しなどはしないので行儀は良いのだが、小さな手が抱える皿からは少ししか菓子が減っていない。話し掛け過ぎたからか、元からあまり食べられないのか。


尋ねる内容もほぼ無くなった頃合いで、そもそものパーティーの目的と見た限りのミルの現状に気が付いた。聞けば答えるが、自ら話題を振る様子がない幼子は兄達が側に居ない間、パーティーで孤立していた。

話し掛けたいという者も居たのだろうが、見た目の幼さにそぐわない静か過ぎる存在は近寄り難かった、というのは想像がつく。まだ愛想というものをこの子は知らないのだろうし、それを矯正される年頃でもない。


だが、それでは周りが近寄れない。少なくとも、今回のパーティーでミルと話したのはわたくしだけ。これからのことを思えば、わたくしのような理解ある者との交流はこの子の為になるはずであるし、わたくしもこの子から得る情報は無駄にはならないはず。


ならば、



「そういえば、このパーティーではあなた方のお友達を作るのが目的なのでしたね」

「そう、らしい」

「でしたら、わたくしがあなたのお友達になって差し上げてもよろしくてよ」

「え」

「あら? 何かご不満でも?」



ミルの顔が僅かに変わった。ほぼ無表情だった顔が微妙に驚いたようなものになっている。わたくしのような高貴な淑女の友人が出来るのが恐れ多いというところかしら? 良いのよ、わたくしは身分や年齢の差があろうとも、優秀であれば差別などしない。だから、交友関係はそれなりに広いし、友人の中にはミルとそれなりに年の近い少女も少ないながら居る。


皿を綺麗に空にしてから、力付けるつもりでしっかりと小さな掌を握り締めるが、ミルはあまりこの申し出がどれだけ自分にとって有用なものかが分かっていないようで、ぼんやりとしている。これでは、これからこの国で尊い者として暮らしていくのに苦労しそうだ。わたくしがきちんと導いてあげなければならないだろう。


興味はあるが、自ら話し掛けることが出来ず遠巻きに此方を観察していた取り巻き達を側に呼び、ミルを紹介してあげる。正直互いに若干、扱いに困っているようだったが、わたくしが間に入って会話を誘導してあげれば、取り巻き達はわたくしとミルを中心にして話に花を咲かせ始めた。


じっくりと時間を掛けるが、きちんと返事が出来るミルに対して話し掛けるのが少しは気軽になったようだ。あちらこちらから声を掛けられ、一生懸命というのがぴったり合う様子で話すミルを気分良く見守る。


これなら、わたくし達は上手く付き合っていけるに違いない。

別れ際に次はあなたの兄達とも一緒に話をしようと提案してから、家路に着いた。


今日はなかなか良い縁を繋げたのではないかしら?

幼児相手にも忍耐強く相手が出来るわたくし自身の度量の深さに満足しながら、その日はいつもよりぐっすりと眠れた。

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