私は生きてる
また、朝が来た。
高良は重たい身体をなんとか起こしてベッドから這い出す。1限から授業があるため着替えを済ませて朝食も取らずに家を出た。大学へと向かういつもの道をただひたすらに無心で歩く。
「神代!おはよ!!」
後ろからやたらテンションの高い挨拶をしてくる羽鳥に苛立ちを覚えながら振り返る。
「おはよう」
「どうしたよ、テンション低いなぁ」
お前のテンションが高すぎんだよ!、とは言えず苦笑いをする。
羽鳥は大学生になってから学部とサークルが同じで会うたびにやたらとテンション高く絡んでくる。ちなみに所属しているサークルは音楽サークルで人数は20人弱だ。みんなそれぞれ楽器をしたり、歌ったり、バンドを組んだりしている。高良と羽鳥はバンドを組んでいる。
「神代、最近全然サークルに顔出さないけど忙しいのか?」
「まあね」
別に忙しいわけではない。一華が亡くなって以来全てのやる気を失ってしまったのだ。今はかろうじて大学に通い、バイトへ行き生活しているが食生活は崩れているし、休日はほぼ何をするでもなくただボーッとしている。
「今、バンドの活動がないからってたまには顔出せよ。みんな最近お前が来ないから心配してるんだぞ?何か悩み事でもあるのか?」
「本当に忙しいだけだって。今週中には顔出すよ」
今はそっとしといて欲しい。
「そういえばサークルに新しい奴が入ってさ。田川舞紘って言うんだけど、めちゃくちゃ美人なんだよ。年は俺らと一緒なんだけど学年は一つ下で最近まで病気で入院してたらしい」
羽鳥は聞いてもいないことをべらべらとよくしゃべる。高良は羽鳥の話を適当に返事しながら聞き流す。
「うわっもうこんな時間!じゃあ、俺こっちだから。絶対に顔見せろよな!」
そう言って嵐のような羽鳥は走り去っていった。
高良も授業が始まるまでに後5分しかないことに気づいて教室まで早足で歩く。
このときはまだ高良の人生が変わっていくことなど誰も知らなかった。