シン君の自由研究
シン君は朝ごはんを食べたあと、学校の宿題をすることにしました。
「夏休みに自由研究をやってきてください」
先生がそう言っていたので、シン君は自由研究をすることに決めました。
「何をけんきゅーしようかな」
少し考えて、シン君はお父さんに聞いてみることにしました。お父さんは書斎でお仕事をしています。
「お父さん、ちょっといい?」
「今、忙しいんだ」
お父さんは真剣な顔でコンピューターと向き合っています。コンピューターの画面には、シン君にはわからない難しい文字がたくさん並んでいます。
「どうして忙しいの?」
「お仕事をしているからだよ」
「どうしてお休みなのにお仕事をするの?」
「家族を幸せにするためだよ」
お父さんは、ため息をつきました。
「仕事が忙しくて、家族と遊ぶ時間がない」
シン君は書斎を出て行きました。
今度はお姉ちゃんに聞いてみることにしました。お姉ちゃんは洗面所でお化粧をしています。
「お姉ちゃん、ちょっといい?」
「今、忙しいの」
お姉ちゃんは鏡に向かって、口紅を塗ったり香水のビンを開けたりしています。シン君にはよくわからない、色んなお化粧のビンを開けたり閉めたりしています。
「どうして忙しいの?」
「お化粧をしているからよ」
「どうしておけしょうをするの?」
「カレとのデートを楽しむためよ」
お姉ちゃんは、ため息をつきました。
「お化粧するのが忙しくて、カレとデートする時間が短くなっちゃうわ」
シン君は洗面所を出て行きました。
今度はお外に出てみることにしました。道路を歩いていると、人ごみの中で、選挙のために演説をしている人がいました。シン君はその人に聞いてみようと思いましたが、秘書の人に止められました。
「すいません、ちょっといいですか?」
「先生は今、とっても忙しいんです」
先生、と呼ばれた人は、一生懸命マイクを握って話しています。シン君には難しくてよくわからない言葉がたくさん出てきます。
「どうして忙しいの?」
「選挙演説をしているからです」
「どうしてえんぜつをするの?」
「選挙に勝って、政治をもっとよくしたいからです」
秘書の人は、ため息をつきました。
「選挙に勝つのが忙しくて、いい政策を考える時間がありません」
シン君は人ごみから離れて行きました。
公園に向かって歩いていると、道の向こうからクラスメートのアイちゃんがやってきました。
「おはよう、アイちゃん。ちょっといい?」
「おはよう、シン君。今、忙しいの」
アイちゃんは手提げバッグを持っています。バッグの中にはノートや筆箱などといった、お勉強の道具がたくさん入っていました。
「どうして忙しいの?」
「塾に行かなきゃいけないからよ」
「どうしてじゅくに行くの?」
「学校のテストでいい点取るためよ」
アイちゃんは、ため息をつきました。
「塾の勉強が忙しくて、学校の宿題をしている時間がないわ」
アイちゃんはさっさと行ってしまいました。
「なんだかみんな、忙しいんだなぁ」
シン君は立ち止まって考えました。
「立派な大人になろうと思ったら、何かに忙しくならなきゃいけないのかぁ?」
すると……。
「お〜い、シンく〜ん!」
幼馴染のケンジ君が走ってやってきました。手にはサッカーボールを持っています。
「公園でサッカーやろうよ!」
シン君は少し考えて答えました。
「今、忙しいの。宿題をするのに忙しくて、宿題をするのは、早く宿題を終わらせて遊ぶためなの」
そして、ため息をつきました。
「宿題が忙しくて遊ぶ時間がないや」
「何を言ってるのかわかんないよ。早く遊ぼ」
シン君は忙しくなるのをやめました。