第71話 『聖剣フラガラッハ』は実は聖剣じゃなかった???
前回までのあらすじ!!
アリッサからこの世界の『CPRシステム』について教えてもらった。まぁ簡単に言えば、質屋のシステムだ。
天音が持つ魔王を倒すことができると言われる唯一の武器、聖剣フラガラッハを「ご飯の為だから~」っと言う理由で質入れのため、アリッサに鑑定してもらうことになったのだった。
「じゃあ、ちょっと見させてもらうよ」
アリッサはそう断わりをいれると、まず最初に剣の外見から鑑定し始めた。
「……うん。外見も綺麗だし、無駄な宝石なんかの装飾品もないから、こりゃ確実に年代物の実戦向きの剣だね。アンタら一体どこでこれを手に入れたのさ? かなり値が張ったんだろ?」
「ほっ」
アリッサの言葉に少しだけ安心した。ひとまず外見は合格のようだ。さすが武器屋の主である。外見を見ただけですぐに『剣』の本質を見抜いていたようだ。
そしてアリッサの鑑定の邪魔にならぬよう、小声で静音さんに話しかけた。
「(静音さん静音さん。そういえば天音に剣を渡したのって静音さんなんだよね? あの剣はどこで手に入れたの?)」
静音さんが天音に剣を手渡したのは知っていたが、何故その剣を静音さんが持っていたのか、その理由までは知らなかった。
「(あれですか? あれは元々畑で鍬の代わりに使って…………いえ、あれは『代々勇者様だけが持てると言われたい気分で受け継がれてきた伝説の剣』なのです。だからこの世界の管理人であるこのワタシが、前回勇者であった方から『次の勇者が現れたら、それとなく渡してね♪』っと言われ預かり、天音お嬢様と出遭った際にお渡ししたのです)」
「…………」
(……ごめん。前半があまりにも強烈すぎて、何にも喋れなくなった。もうショッキングすぎて、静音さんが後半で何言ってたのかまったく理解できなかったわ!!)
どうやら伝説の聖剣フラガラッハは、以前は畑で使われていたらしい。
「(えっ? 何この聖剣は畑を耕す道具として使われてたの!? ……それって大丈夫なのかってか、剣って真っ直ぐなんだから逆に使いづらくなかったのかよ!! あと何で天音と出会った事がマイナス表現の『出遭った』になってんだよ。それって偶然事故とかに出遭った時に使う漢字だろうが!!)」
「(ええそうなんですよ。ま、そこらに飾って遊ばせておくのも勿体ない話ですし、それならと……畑で使っちゃった♪)」
天音の件を無視しながらすっげぇ軽く、また一切の悪びれた素振りすら見せない静音さん。この人にとっては、伝説の剣でさえも畑を耕すただの道具にすぎないようだ。
「うん。外観はこのくらいにしてっと。……それじゃあ肝心要、じっくりと剣身を見させてもらうからね」
静音さんの話を聞いてたら、アリッサが鑑定していることをすっかり忘れてしまっていた。
まぁ色々言いたいことや疑問は山ほどあるのだが、今は剣の鑑定に集中しよう。
「あっ!」
アリッサが剣身を鞘から抜こうとする瞬間、思わず声が出てしまった。
「な、なんだい? 急に大きな声を出して!? ……何か問題でもあるってのかい?」
「ああ、……いや、その……」
「うん? 何だか煮え切らない態度だね? もしかして、あたいに鞘を抜かれると問題でもあるってのかい?」
感の良い読者なら既にお気づきであろう、そうこのフラガラッハには『呪い』が付属されていたのだ。
まぁぶっちゃけ主人公であるオレも今のいままで、そのことをすっかり忘れてたんだけどね。
「(しししし、静音さん!! あの剣『フラガラッハ』抜いても大丈夫なの!? 天音の時みたく、アリッサも意識乗っ取られたりするんじゃ……)」
そう聖剣の呪いとは、『剣を抜いた所有者の意識を乗っ取ってしまう』という、とても恐ろしい呪いがかけられているのだ。
「(ああ、大丈夫ですよ。アナタ様お忘れになったのですか? 今は『普通の聖剣』ですし……)」
「(いや、だってさ!! サタナキアが! 魔神があの中に……)」
焦るオレの言葉を遮るように、静音さんがその説明をしてくれる。
「(やっぱりお忘れなんですねアナタ様は!! ……天音お嬢様がドジっ娘で死んだ時を思い出してみてください)」
「(あ、天音が死んだ時だってぇ~っ!? た、確かあの時は天音の意識が戻ってたんだよな? ……あっ思い出した!! サタナキアの動力源とやらが切れて、呪いが解除されたとかなんとか……)」
「(ようやく思い出したのですね! まったくアナタ様ときたら……はぁ~っ)」
やれやれっと言った感じで肩を竦めながら、天音の死を忘れていたオレに対して呆れていた。
「(そうだ……そうだよっ!! それで天音がアルフのおっさんに走って行ったら、コケてそのまま死んだんだったよな? オレは何でこんな大事な事を忘れてたんだろう???)」
まだ数時間しか経っていないのに、すっかりその事を忘れてしまっていた。まるで記憶に欠落があるように……。
「(いや、静音さんに言われて思い出したんだから『記憶の欠落』とは違うよな?)」
それはまるで記憶に靄がかかっている感じに似ていた。
「……で、あたいは見てもいいのかい!? それともダメなのかい!? どっちかはっきりしてくんないかい!!」
剣を鞘から引き抜こうとしてオレに止められ、ずっと放ったらかしにされてたアリッサは、やや不機嫌そうな態度を示すようにぶっきら棒にそう怒鳴った。
「わ、わりぃ。邪魔して悪かったなアリッサ……続けてくれるか?」
アリッサは「ふん!」っとワザとらしく鼻息をすると、ゆっくりと鞘から剣を引き抜いた。
カチャリ……スーーーーッ。
「……うん? コイツは……」
アリッサは剣を見つめたまま、意味深に途中で言葉を区切るとそのまま押し黙ってしまった。
黙ったまま怪訝そうな顔を覗かせるアリッサに対して不安になり、堪らず声をかけてしまう。
「あ、アリッサ……どうかしたのか? 剣身に異常でもあるのか?」
「…………」
だが、声をかけたのに聞こえていないのか、アリッサは黙ったままだった。
それから1分? 2分? どのくらい時間が経ったかわからないほどの沈黙が続き、剣身を見つめたままだったアリッサは剣を鞘へと戻し、こう口を開いた。
「……この『剣』は普通じゃないね。あたいが鞘から抜いた瞬間、ダルさと言うか変な感覚に襲われ体の反応が鈍くなっちまったよ。次に剣を視界に入れた時にゃ、そのまま意識を持ってかれそうになっちまうよ。あたいはずっと武器屋一筋だけど、こんなことは初めてさね。この剣はもしかして……」
オレの代わりに静音さんがアリッサに答えてくれた。
「ええ。そうです。……この剣には『呪い』がかけられているのです」
アリッサは「そんなこったろうと思ったよ」といった表情で、納得するかのように頷いていた。
「ついでに聞いとくけどさ、この剣には名……名前はあるのかい?」
「もちろんあるぞ!! この剣の名は『聖剣フラガラッハ』だっ!!」
何故か腰に手を当て偉そうにし、声高らかに天音が威張っていた。
「ふーん。聖剣……ね」
何か納得のいかないような顔をするアリッサ。何より『聖剣』と言ったところだけ、妙に強調していた。
その表情が気になり、オレは尋ねた。
「アリッサ、この剣におかしなところでもあるのか? もしあるなら遠慮なく言ってくれ!」
「うん? 言ってもいいのかい? なら遠慮なく言わせてもらうよ。あたいが見たところ、この剣は……聖剣じゃないさね」
「はあっ!? せ、聖剣じゃない!? この『聖剣フラガラッハ』がぁっ!?」
アリッサの言葉が理解できず、オレは聞き返してしまった。
第72話へとつづく




