第42話 それを早く言いやがれ!!
前回までのあらすじ!!
静音さんはお世話係のクセに、天音・葵ちゃんの棺を教会まで引っ張るのを「お金にならないから……」っと手伝ってくれないようだ。ほんとこんなヒロイン見たことねぇよ……。
「結局オレが最初から教会まで一人で引っ張るのかよ!!」っと心の中で嘆きつつも、着実に教会への道のりを引っ張り歩み始めたのだった……
「ぬぅ~~っ、お~も~いぃ~~~っ!!!!」
声を出すとより力が出ると聞いたことがあった。だが、今のオレにはそんな殊勝な思惑はまったくなく、あまりの重さからつい口に出していただけだった。
「(これどのくらいあるんだよ……)」
オレは棺2つを繋ぐロープを引っ張りながら、そんなことを考えていた。
「(……もしかして、下手しなくても100kg以上あんのかな?)」
女の子で軽いとはいえ、人間が二人分なのだ。しかも棺は簡素作りとはいえ、木でしっかりと作られているのでかなりの重量があるのだろう。たぶん全部で100kg以上……オレはそれ以上考えたくないので引っ張る事に集中することにした。
「こぉ~のぉ~くそっ~があぁっ~~~っ!! っとと……なんだぁ~???」
そんな風に間接的文字描写を用いてクソメイドへの恨みを口にしていると、地面を引きずる棺が小石にでも引っかかったのか、突如として動かなくなってしまった。
「ぐぬぬぬぅ~~~っ!!!! はぁ~っダメだぁ~~っ」
力の限りロープを引っ張ったのだが、棺はビクともしなかった。オレは「ちょっとだけ休憩するか……」と、手に持っていたロープを手放した。ずっとロープを引っ張っていたせいか、手には縄の食い込み痕が残り、手は真っ赤になっていた。
「ふぅ~っ」
っと一息つく。「どれくらい引っ張っていたのだろう? 5分? 10分? もしかして1時間?」オレは汗だくになりながら、ただひたすら棺を引っ張っていたのだ。
「(やっぱオレ一人じゃ無理じゃねぇのか? 大体教会どころか、街までだってまだまだ先だぞ……)」
オレは額の汗を腕で拭いつつ、嫌味のように照らす太陽の光を右手をかざす事で遮り、目的地までの道のりを眺めていた。
「…………あのさ、そもそも街までの道ってこんな長かったけ?」
オレは誰に言うでもなく、そう独り言を口にした。街から農夫の家へ来る時には5分もかからなかったと思ったのだが、何故だか道はどこまでも長く長く続いていた。地平線の彼方はユラユラと蜃気楼のように歪み先が見えず、農道沿いには畑しかなかった。
「ふぅ~……ほんと何もない所なんだなぁ~」
オレは広大な畑を眺め「どんな作物が収穫できるんだろう?」などと暢気にも思いながら、木で出来た柵の下に咲いた野花に癒しを感じていた。
風で揺れる野花。草っぽい匂い。どこまでも続くあぜ道。そしてクソ重く、どことな~く『異臭を放ちつつある棺』を2つ引っ張ってるこの物語の主人公であるオレ。
「…………オレはここで何をしてるんだろう?」
何だか幻想的とも詩的とも思えることを考えていると、自分が何をしている、また何をしていたのか、それすらも忘れてしまいそうになった。
そしてそこでとある重大な問題に気付いたのだった。
「そもそも……ここどこだよ???」
オレは迷い犬のようにキョロキョロっと、不安な顔をしながら辺りを見回した。
……どうやら棺を引っ張ることしか頭になく、いつの間にか迷子になったのか、オレは見知らぬ道を延々進んでいたようだ。
「……も、もしかして道間違えたのか?」
オレは今更ながらに恐ろしい事を口にする。だがそこでも気付いた。オレには静音さんが傍にいるではないかと!! 腐ってもこの世界の管理人とやらなのだ、街までの道ぐらい知ってるだろうし、聞くだけならお金も盗られまい。
……そう考え後ろを振り向き静音さんへと声をかけることにした。
「あの~静音さん。もしかしてオレ道を間違えたのかもしれないから、地図かなにか持ってたら貸してくれ…」
……そこには誰も予想ができない光景が広がっていた。
「(スーッ……カチャリ)ふぅ~やっぱり紅茶はダージリンですかねぇ~」
「……るかな」
オレが声をかけると、静音さんは何故かティータイムに勤しんでいた。しかも……である。あろう事か天音の棺の上でティーセット(焼き菓子付き)を広げていたのだっ! もはやその光景と言ったら棺onティータイムと言った感じかもしれない。
「ご丁寧にもレジャーシートまで敷いてやがるし。コイツ遠足気分かよ……」
美少女なメイドさんがお茶を嗜んでいる。もしこれがテーブル卓だったらさぞかし絵になったであろうが、残念ながらそこは棺の上なのだ。しかも雇い主の棺なっ!
オレは静音さんが今現在何をしているのか、問わねばならなかった。
「あのさ、静音さん。あなたはそこで……一体何をしていらっしゃるのでしょうかね?」
オレはストレートに丁寧な口調で聞いてみた。
「(カチャリ)……えっ? アナタ様見て分からないのですか? 少し喉が渇いたのでティー……いえ、テーテイムを、つまりお茶してるだけですけどね」
俺の質問に答えるため静音さんはカップを皿に置くと「何でそんなこと聞くの?」っと言ったように猫調に首を傾げながら、ロイヤルストレートフラッシュで反撃してきた。
「(何気に英語の発音気にしてんじゃねぇよ……クソメイドがっ!)」
俺はそんな心内は秘めながら、今現在の問題を問いただすことにした。
「いやいや……な・ん・で・っ!! 天音の棺の上で足ブラブラしながら気楽に座ってんだ!! ア~ンドそんなとこでお茶してんじゃねぇよ!」
オレは静音さんのその想定外の行動に対して上手い事を言えず、平々凡々なツッコミを入れる事しかできなかった。
「(小石じゃなくて静音さんが乗ってたから、いくら引っ張っても動かなかったわけかよ……)」
「あ~っ……もしかしてアナタ様も紅茶飲みたかったんですか? まったくそうならそうと仰って下さいね」
何を勘違いしたのか、静音さんは俺の分だと別のカップに紅茶を注いでくれていた。
「(ったくこのクソメイド、ほんと相変わらず役に立たねぇなぁ……。このまま棺の中に入れちま……)」
バッシャッ!! シュ~ッ♪ 俺が心理描写を終えるその直前、何やら熱々の液体のようなものをぶっかけられそうになってしまう。
「あ、あ、あ、あぶねーなっ!! 何しやがる!! しかもこの炎天下にホットなんて飲んでんじゃねーよっ!!」
オレはいきなりのホット紅茶ぶっかけアタックを辛うじて回避すると、静音さんに強く抗議した。
「……いえ、アナタ様からワタシに対してのディスり感を感知しまして、そのつい……いえ、しっかりとぶっかけちゃいました☆」
「しっかりしっかり♪」っと明らかに故意だった事をより強調して、静音さんは2杯目をカップに注いでいた。
「(ま、まさかまさか、2度目のぶっかけタイム渡来人?)」
オレは何故か海人の如く、南蛮由来っぽく渡来人という新しい語句を誕生させてしまうほど、恐れ戦いてしまった。
「し、静音様っ! オレが……いいえ、ワタクシめがすべて間違っていました(ビシッ!)」
オレはもう何度目かわからなくなるくらいの地面とお友達パーティを開催してしまう。「えっ何それ?」っだとぉー!? 理解してるクセに聞きやがってからに!! 読者もどんだけドSなんだよ……いわゆる地面に土下座だよ、THE土・下・座!! 外国人がす~し~ぃ~♪ テ~ンプ~ラぁ~♪ フジヤ~マぁ~♪ ハラキ~リぃ~♪ ドゲ~ザぁ~♪ ……何この日本人土下座なんかしてんの。とりあえず、オレの靴を舐めろ(笑) で有名なヤツ!!
そんな『外国人大好き第5弾のジャパニーズ・イズ・土下座』をして静音さんに平伏しながら、許しを請うた。もはや地面とお友達どころか、地面から生えていると言っても大げさではないくらい土に頭をめり込ませてだ。
「(オレもうこのまま、土に埋まったまま暮らした方が幸せかもしんないね…)」
などと土と同化する淡い気持ちを抱いてしまう。
「……ま、どうやらアナタ様も反省しているようなので、今回だけはそのお痛に目を瞑ることにいたしましょうか♪」
静音さんは「次はありませんからね♪」などと笑顔で脅しをかけてきた。
「(こ、怖すぎ!! この人ほんとにヒロインなんですかね!? ええ作者さんよっ!!)」
そんな作者のドヤ顔を想像していると、
「……よいしょ、っと」
静音さんは棺から降り、飲み終えたであろうティーセットとレジャーシートをそこらの草むらに不法投棄してから、どうやらそのテーテイムとやらが終了させたようだ。
「……あ、あれはいいの?」
自称地球に優しい(=地面とお友達の)オレは、静音さんの行動に異を唱えてしまう。
「へっ? ああ……あれは元々盗ん……いえ、元々ワタシのモノではないので落とし主が現れるよう、目立つようそこらに置いて置く事にしたんですよ」
「一般世間ではそれを『不法投棄』と言うのだがっ!!」……とは身も心も静音さんに平伏しているオレは言いたくても言えなかった。
「(あ、あれも農夫のおっさん家のかよ……)」
オレがそんな事を思っていると、
「ふぅ~っ……それでアナタ様、ワタシに何か用だったのですか?」
静音さんがようやく本題の話を振ってくれた。
「……なんだっけ???」
オレは『あな嫁名物』長い件の洗礼で、そもそもの目的を見失っていた。
「アナタ様……大丈夫なんですか? お疲れなのですね。 え~っと……確か『オレ道に間違ったかも……静音さん、地図か何か持ってないかな?』(主人公よりカッコイイ声色)ではなかったでしたっけ?」
「……あー、うん。そうだったかも……」
(このクソメイドオレの話ちゃんと聞いてんじゃねぇかよ……もしかしてログったのか?)
「さすがのワタシでも地図は持ってませんね~」
「あっ、そうなんだ」
(だったらこれからどうすりゃ……)
「あっ地図は持ってませんが、街までの道なら分かりますよ~」
「(……いいんだよ)って道分かるのかよっ!!」
「ええ。もちろんですよ。そもそもアナタ様は最初から街とは反対方向へと進まれてましたね(笑)」
Whyなぜ? 反対? 何が? ……道がぁっ!?!?
「……あの……冗談とかじゃなくて、マジで?」
「マジマジ(笑笑)」
静音さんはダブル(笑)で答えてくれる。
「(マジかぁ~、オレそもそも最初から道間違えてたのかぁ~)ならそれを早く言いやがれよな!! 」
「(急急)ええもちろんですよそもそもアナタ様は……」
「って早口って意味じゃねぇんだよっ! ギャグかよ!? トンチなのかよっ!!」
そうして俺がシズネさんの早口にツッコミを入れてる最中にも、棺の中身は異臭を放ちまくりながらドンドン傷んでいくのだった……。
(急急)戦後最大のトリプルツッコミをしつつお話は『第42話』へとつづくっ!!
※今回の次回予告も早口でお送りしております(笑)
※渡来人=あな嫁独自の語句。ここでは、もう1度同じ事をされる人などの意味を持つ。省略『カステラさん』でも可です。




