第35話 静音さんの正体とは……
「小僧…お主…お主は……まだ記憶を消されておらぬぞっっ!!」
サタナキアはオレに向けそう叫んだ。
「オレの記憶は……消されてない…だって!?」
(そ、そうなのか? てっきりオレは……、
「サナっ!! それ以上はダメっっ!!」
静音さんがサタナキアに向け叫んだ。だがサタナキアは、そんな静音さんを無視するように言葉を続けた。
「小僧、お主の記憶は消されているのではなく、封印されておるようなのじゃ」
「ふ、封印だって!? 何で他の人たちみたく消去じゃないんだ!? それにそもそもオレは現実世界の事も、ちゃんと記憶として覚えているし……」
そもそも最初から何か変だったんだ。オレと静音さんだけが現実世界のことを覚えているのが。もしかしてオレの記憶の封印も静音さんが……、
「じ、じゃあも、もしかして! お、オレの名前も封印され……」
「いんや、お主の名前は封印も消去もされてはおらぬぞ。うーん、と………真っ白な空欄のようじゃのぉ~♪」
ズコーオッ! オレはそんな効果音をファミレスのサラダバーよろしくセルフサービス的存在で自動的に口にし、そのオチに対して20世紀最大の発明と謳われた八木アンテナばりに大コケてしまう。
その衝撃といったら、さながら1929年の大事件に匹敵するかもしれなかった。
※いや、まったく匹敵しませんね。 by作者より
「(ええいもうっ!! いつもいつもオレの名前で落としやがってからに!! そして冷静にツッコミを入れるんじゃねぇよ作者さんよ!! そろそろ本編でもニューディール政策っぽいモノを出しても良い頃合だろっ! よーし、もうこうなったら、次回から制作費削減目的のセルフ効果音をオレ自身が口にする時はズコーオッ! ってのを図工ーっ! っと小学生の必修授業っぽく発音してやるからな。読者のみんなもそこんとこ楽しみにしとけよ!!)」
「こ、小僧…お、お主……頭は大丈夫か??? な、なんだか急に俯いて、ひ、独り言を喋っているようじゃが………」
どうやらオレの心の声が独り言として世の中に出ていたようだ。そのせいで魔神であるサタナキアにすら本気の本気で、心配されるオレは一体何者die? っとと、ま~た小ネタで物語が潰れるとこだったぜ!! このままだと納豆っとエンディング物語みたく、ファルルン♪ とか変てこなドラゴンを召喚しちまうぞ。
「ファル? ……小僧よ、今どこのぬいぐるみ的なドラゴンの話を申したのじゃ?」
「い、いいや、なんでもない。なんでもない」
オレは慌ててサタナキアに対して誤魔化す。どうやらまた妄想が口に出ていたようだ。ってかそのネタ、サタナキアも知ってるのかよっ!(ツッコミ)
「静……いや、魔神サタナキア。なんでオレの記憶は『封印』されているんだ? 理由はあるのか?」
オレは気を取り直して……もとい本編の話を思い出して静音さんではなく、何でも知ってる回答者とやらのサタナキアに聞いてみた。
「それは…………妾にもわからぬ。ただお主の記憶が消去されておらず、何故か封印されておる…………その事しか判らぬのだ。小僧よ、……お主は一体何者なのだ? 何故、妾ですらそなたの正体に関与できぬのだ?」
質問したはずのオレが、逆にサタナキアから質問されてしまう。
「オレ……オレは???」
(あれ? そもそもオレって……何者なんだ? 自分のことなのに…まったくわからない。そもそも自分の名前すら思い出せないぞ。これも封印とやらの影響なのか???)
オレは軽い一人封神演技状態になりつつ、頭の中で色んな考えが駆け巡ったが、結局その答えは見つからなかった。
そんなオレを見兼ねてか、サタナキアがその答えに導いてくれる。
「だがな小僧……知ってるモノにそれを問えば、自ずとそなたが望む答えを示してくれようぞ。のぅ静音よ」
「っ!?」
サタナキアはその意味を既に知っているにも関わらず、わざとらしく静音さんに対してそう語りかけた。
その張本人である静音さんはサタナキアのその問いかけに、ただ硬直していた。
「(そうだ! そうだよ!! そもそも静音さんがこの世界の住人の記憶を消したり、新しい人格なんかを上書きしてるんだよな? それにオレの記憶を封印したのだって…………だったらっ!!)」
「…………、…………」
だが、不思議とオレはその言葉を発せなかった。それは恐れからか……いや、オレがただ臆病なだけなのかもしれない。真実を知ることに対して…………。
「小僧、何故問わぬのだ?」
「オレ…オレは………」
サタナキアに迫られ、オレはその現実から…………逃げ出した!!
「し、静音さんにもさ、きっと何かしらの事情があるんだよ! そうだよ!!」
(違う…オレが本当に言いたいのはこんなことじゃなかったはずだ……)
「き、きっと作者のヤツに唆されたり……」
(いや、作者なんか関係ないんだ! …だって、静音さん自ら……)
「いやいや、もしかすると静音さんは作者に何か弱みを握られて、脅されているって可能性もあるかもしれないだろ?」
(オレだって……ほんとうはもう……)
「そうだよ! そうなんだよっ!! そうに違いない! 静音さんは作者のヤツに脅されて………………っつ!?」
オレが言葉に詰まると……オレ以外に誰も、鳥も、草木も、風すらも、何の音も発してなかった。それはまるで、世界の終わりを告げるような静寂が空間を支配していたのだ。
そしてただオレのことを、じっと4つの目が空虚に見つめいているだけだった。
「~~~っ!?」
オレは言葉を続けられず、その視線から逃れるように俯き顔を背けてしまう。
「…………」
「…………」
サタナキアも、静音さんも、オレが次の言葉を口にするのを待っていた。
「…………」
いつまでも口を開かないオレに嫌気が差したのか、静寂を破るようにサタナキアが言葉を口にした。
「…どうした小僧? …………言葉を続けぬのか?」
そのサタナキアの言葉はオレにとって、とても残酷だった。
「アナタ様…………」
静音さんもオレをそう呼ぶだけだった。
「うむ。心ではソウ思っていても、口にはできぬか……。なら妾から決定的な証拠を示してやろう。小僧!! お主ライブラを持っているであろうな?」
「うぇ? ライブラ??? ……あ、ああ、あの無意味に敵の情報を探ってくれるやつね……」
オレはいきなりのサタナキアの問いに戸惑いながらも、そう答えた……思えば、ロクな情報をくれないライブラさん。オレは存在そのものをすっぱり忘れていた。
(だってよ、アルフのおっさんの夜のおかずなんかのいらない情報を提供してくれるんだぜ? いくら『魔法』とはいえ、ねぇ……)
「持ってるか、持ってないかと問いておるのだ!! 早く答えぬか!!」
サタナキア先生はお怒りのご様子で、意識を乗っ取ってる天音にカチャリッっとわざとらしく音を立てさせ、剣先をオレに向けた。
「あわわわ、も、持ってる! ライブラ持ってるから、だからこの剣を下げてくれっ!!」
「ならさっさと言うのだ!!」っと天音、いやサタナキアは剣先を下げてくれた。
「(大体ライブラがなんだっていうんだよ!? またアルフのおっさんや、クマ公にでも使えっていうのか?)」
オレはサタナキアのその不可解な問いに対して不信感を抱いてしまう。
(どうせ小僧は妾の言葉は信じぬであろうに。だが、自分の目でその証拠を見さえすれば、妾が言っていることを納得する……いや納得せざろうえぬはずじゃ)
「小僧!! 『ライブラ』を静音に対して使うのじゃ!!」
「はぁ~~っ!?!? 何で仲間の静音さんに対して『ライブラ』を使うんだぁ!? 大体、『ライブラ』は味方には使えないだろ???」
オレにはサタナキアの意図がわからなかった。やっぱりサタナキアは敵なんじゃ……。
「何をいうておるのじゃ! ライブラは敵味方問わず、またどんなモノにも使えるのじゃぞ。それこそ『固定概念』というやつなのじゃ! なんなら第19話をログるがよいわ!! よいから、ささっと『ライブラ』を使いやがれなのじゃ! 早く…早くせねば……作者殿が先ほど特売で購入したという、妾の……ちょこあいすが溶けてしまうではないか!」
「……作者にアイス1つで買収されてんじゃねぇよ!!」
「いいや!! ちょこあいす2つなのじゃ!! これは我名にかけて絶対なのじゃぞ!!」
「そんなのどっちも同じだよ!? こんなとこで、無駄にチート能力発揮してんじゃねぇよ!?」
「はぁはぁ……」
「はぁはぁ……」
暫らく経ち、オレとサタナキアは無駄に争っていたと気づいた。
「小僧!」
「サタナキア!」
オレとサタナキアは何故か友情が芽生え、がっちりと握手を……、
「ってあぶねぇ!? モロに剣身を掴むところだったぜ!!」
「……ちっ」
その舌打ちが、サタナキアだったのか、それとも静音さんだったのかは定かではなかった。たぶん……両方だったな。
「小僧!!」
「ああわかったよ!! 使えばいいんだろ!? 使えばっ!!」
サタナキアの「早くせい!!」という口調にオレは半ばヤケになりながらも、「そろそろ本気で物語を進めないといけないな……」という何故の使命感から、コントローラーの真ん中やや左側にある『Startボタン』を押しメニューを開いた。その中コマンドの1つ『相手の情報を見る-ライブラ』を選び、黄色の『Yボタン』を押した。すると……
『この度は、ライブラをお使いいただきありがとうございます。ライブラを使う対象を十字キーで選択してください。』
赤色『Bボタン』:決定
緑色『Aボタン』:キャンセル
っと目の前の空中に表示された。オレはコントローラーの十字キーを操作し、対象を『静音さん』へと定め、そして…赤色の『Bボタン』で決定を……押した!!
『…………』
「…………???」
(な、何も起こらないぞ!? どうゆうことだ???)
本来なら前回アルフレッドのおっさんに使ったように、対象の前に『青く輝く光の輪が回転しながら現われ銃のスコープのように十文字に線が入り、その中心は丸く穴が開いていた』となるはずなのだが……。
『ビービー、ビービー……』
『エラーです。エラーです。お金を積んでください……』
そして突如として大きな警告音と、画面いっぱいに赤文字で『エラーです』と『お金を積んでください』を表示されてしまった。
「わわっ!? 何だこれ!? 何の音!? それにこのスパムみたいな赤文字の警告文はなんだ!?」
いきなりの警告音と大量の赤文字警告文で、オレは戸惑ってしまう。なんら説明も…、
『現在のライブラLv1では、対象を調べることができません。もっとLvを上げるか、お金を積むか、どちらかにしてください』
「おいおい……なんだよこれ!? ライブラのLv足んないの? どゆこと???」
オレはどうしていいかわからなかった。Lvはどうにもできないし、お金は……静音さんにおこづかいを渡して、財布の中はすっからかんだった。そもそも、どこに金積みゃいいんだよ?
「何をしておるのだ小僧!? 早くせぬか!!」
「いや、だって今のLvが足りないって……」
「アホぅが!! ライブラにそもそもLvという概念なぞ存在せぬわ!! っ!? も、もしやアイのヤツめプログラムまで書き換えたのか!? ならば……」
っと何かを納得し、天音もといサタナキアはオレの元へ歩み寄ってきた。何を思ったか、聖剣フラガラッハを天高く掲げると、その剣を……オレへと振り下ろしたのだ!
いきなりの行動で対応できず、オレは「死んだ!」と思い目を力いっぱい瞑っていたのだが……
「(またオレは殺さ……あれ?)」
だが生憎と何の衝撃がこなくオレはそっと目を開けると、聖剣フラガラッハの剣先が視界いっぱいに広がっていた。いや、光った剣先が、だ。
「……こ、れは???」
「ええいっ! 終わるまで黙っておれ!!」
質問しようにも、サタナキアに怒られてしまう。
すると、その剣先の光がぷかりぷかりっとオレの元へまるで吸い込まれるように……いや、吸収されるように入っていった。だが、痛みも温かさもなにも感じなかった。
「これは一体???」
オレは何が何だかわからずに、そう呟いた。……そこへ、
「……妾の『力』を、一部ではあるが、お主へと『魔力移動』させたのじゃよ」
サタナキアが説明してくれたのだが……
「ま、マジティ…???」
オレは聞きなれない単語だったので、言葉のオウム返しすらできなかった。
「魔力移動じゃ!! せっかく今考えたのに間違えるなアホぅが! つまりじゃな、妾が持つ魔力および『魔法能力の継承』……の一部をお主へと移動させたのじゃ」
「え~っと? ……何のために???」
「ええいっ! 察しの悪いヤツじゃのぉ!! お主のライブラはLv1なのじゃろ? なら、この世界の概念に捉われない魔神サタナキアであるこの妾の『力』ならば、そのような制限なんぞ『無効』になるのじゃ。それに封印されても妾は『魔神』なのじゃぞ? 妾は『魔法』などというチンケなモノは到の昔に習得……いや、むしろこの世界の『魔法』という概念は、妾が作ったというても過言ではないのじゃぞ!!」
「はぁはぁ、はぁはぁ……」っと息を切らせながらに、サタナキアは一息で長い長いセリフを1文字も間違わずに言った。
「(これ、声が付いたら1番大変なセリフじゃねぇか?)」
そもそもアニメ化どころか書籍化……いや出版社に応募すらしていないのに、オレは今から声優さんの心配をしてしまうのだった。
「え~っと……」
残念ながらそこに到ってもオレはまだ要領を得ない。
「……だ、だからのぉ、(はぁはぁ)もうお主はライブラの『本来の力』で使えると(はぁはぁ)…いうことなのじゃ(はぁはぁ)」
先ほどの喉のダメージから立ち直ってないサタナキアは、息も絶え絶えにそう教えてくれた。
「……お、おお~~っ!!!! す、すっげぇ~~なぁおい!!」
サタナキアの息が荒いので心配するあまり若干引き気味だったオレは頑張ったサタナキアの手前、いつもよりオーバーリアクションをすることでサタナキアの苦労に応えることにした。
「(ごめんなぁ~サタナキア(の中の人)。苦情なら作者に言ってくれよ……)」
っと長いセリフの責任の所在を作者に押し付けつつ、オレはようやくと物語本編の話をすることにした。
「とりあえずサタナキア、さんきゅ♪ オレ頑張るからな♪」
「……(ヒューヒュー)」
だが、サタナキア先生は酸欠不足なのか「ヒューヒュー」とアンチ冷やかしめ(テンション低め)に、息を吸ってる音だけが聞こえてきた。
「(そもそも剣に酸素って必要なの? むしろサビとか出て天敵のような気がするのだけれど……)」
オレは亡くなったサタナキアの意思を受け継ぎ、受け取った(確証なしの)魔力で再びライブラを使うことにした。すると今度は……
※名無しの分際で、サナ吉を勝手に殺さないでください by作者
『貴方のアクセス権限が認証されました……。ライブラを『僧侶:静音』に使いますか?』
『はい』
『いいえ』
っとちゃんと表示された。さすがは魔神サタナキアの魔力。魔神の名前は伊達じゃないな。
そして、オレが取った行動はもちろん……
「ああ!! 『はい』だ!」
っとコントローラーを操作して『はい』を選択肢し、赤色の『Bボタン』で決定を押した。…………のだが、
『本当に使ってもよろしいのですか? 貴方は後悔されませんか? ライブラを『僧侶:静音』に使いますか?』
『ライブラを使う』
『ライブラを使わない』
っと表示されてしまったのだ。
「……はっ? なんだこれ??? オレはボタン押した……よな???」
『決定』を押したのに、何故かまた設問が出てしまっている。一瞬「バグか???』そう思い、オレはもう一度だけ押すことにした。
「えっと、……『ライブラを使う』っと」
今度はしっかりとボタンがへこむくらい力を入れて、赤色の『Bボタン』で『決定』を押したのだが……
『今ならまだ間に合います! もう一度だけ考え直してください。 ………ライブラを『僧侶:静音』に使いますか?』
『ライブラを使う』
『ライブラを使わない』
だがしかし、またしてもライブラが使えなかった。
「はぁ!? なんだよこれ……やっぱりバグってんのか?」
(選択肢さんのヤツ……今日はヤケにしつこいぞ!!)
オレは一度に連続して赤色の『Bボタン』を何度も何度も何度も押して『決定』するのだが、それでも……
『アナタ様、取り消すなら今のうちですよ? 今ならまだ間に合いますので……さぁ勇気を出して取り消しましょう♪ …………………ライブラを『僧侶:静音』に使いますか?』
『ライブラを使う』
『ライブラを使わない』
「ったくなんなんだよこれは…………」
(ええい!! 何度も何度もしつこいヤツだな!! 今日の選択肢はしつこすぎるぞ!! ………………ってアナタ様???)
その瞬間、オレの心の中でナニかが引っかかった…………。
「おい小僧っ!!」
っと酸欠から復活したサタナキアに呼ばれ、オレは顔を上げてサタナキア(もとい天音)の方を見ると、くいくいっと天音の顔と剣で「アレを見るがよい」と示される。そしてそちらの方を見ると…………、そこにはオレ達が見ているのを気づかず、必死にスマホでナニかを操作している静音さんの姿があった。
「ソコデ……ナニ……シテルンダ? ……シズネサン?」
オレは自分の声とは思えないほど、不思議な声を出していた。それは……感情がまったく籠められていない声そのものだった。
「(ポチポチ、ポチポチ、ピッ)ふぅ~…………っ!? あ、あ、あ、アナタ様!? い、いつから見ていたのですか!?!?」
そこでようやく静音さんはオレが自分を見ていることに気づいた。
「静音さん。今……ナニ……してたのさ?」
「こ、こ、こ、これは…その…………」
とてもマズイものを見られたという表情をして、オレの視線から逃れるように静音さんは顔を背けようとした、まさにそのとき……
「ああっ!! っ!?」
カラカラカラ~ッ。静音さんはよほど慌てていたのか、今操作していたはずのスマホを自分の靴に落としてしまい、その弾みでオレと静音さんの間にスマホが転がってしまった。
「ぐっ!?」
静音さんは急いで落ちたスマホを拾おうと手を伸ばすのだが、
「そこまでじゃ!! ……それ以上動くとその首を落とすことになるぞ」
天音もといサタナキアが、今まさに落ちたスマホを拾おうとする静音さんの白い首筋に、聖剣フラガラッハの刃を当てていた。
その瞬間……
「さ、サナぁぁぁぁっっっ!!!!」
普段の静音さんの声とは思えないほど恐ろしい、まるで地獄の底から聞こえてくるようなとても恨みが篭った大きな声で、静音さんがサタナキアの名を叫んだ。
「……ふっ、なんて恐ろしい顔をしているのだアイよ? どうかしたのかぇ?」
そんな静音さんの事をお構いなしに……いやむしろ、サタナキアはまるであざ笑うかのような態度をとる。
「…………」
静音さんが無言で「ワタシの邪魔をするなっっ!!」っと、サタナキア(もとい天音)をその睨みだけで殺さんばかりの勢いで物凄く睨んでいた。
そこにいたのは……オレが知っている静音さんではなかった。
「…………」
オレはその静音さんを見て何も口にするこができなかった。
「ほら小僧!!」
っとサタナキアが静音さんのスマホを蹴り、オレの方へ寄越してくれた。
「アナタ様!! ダメです!! 見てはいけません!! それは見てはいけないモノです!! 見ないでぇっっ!!!!」
オレはそんな静音さんを無視するように、スマホを拾い上げ、そこに書かれているモノを見た。
そこには書かれていたのは、これから表示されるであろう文章が既に送信済みになっていたのだ。その途端……オレの目の前の空中に、スマホに書かれている文字がそのまま表示されてしまう。
『貴方がライブラを使うと不幸が訪れます。ですが、今ならまだ間に合いますので、まずは緑色の『Aボタン』を押し『解除《キャンセル》』を選択しましょう♪ ………………………ライブラを『僧侶:静音』に使いますか?』
『ライブラを使う』
『ライブラを使わない』
「……あ、アナタ様……こ、これはですね……その、何かの間違いでして…」
静音さんはまだオレに言い訳をしようとしていた。その瞬間オレは……ボタンを押した。
→『ライブラを使う』
『ライブラを使わない』
『コマンド入力を受け付けました。これより『僧侶:静音』に対し、ライブラを開始します。情報量が多い場合は、普段よりもお時間をいただきます(ぺこりっ)』
そんな表示がされたその刹那……静音さんの全身をとり囲むように赤く輝く光の輪が回転しながら現われ、銃のスコープのように十文字に線が入り、その中心は丸く穴が開いていた。時折、十文字のスコープが呼吸するかのように大きく伸縮して、まるで静音さんの情報を吸い上げている……そんな動作をしていた。
「……これが本来のライブラの姿なのじゃ」
「こ、これが…本当のライブラ……なのか?」
前にアルフレッドのおっさんに使った時は、青く、また大きさも顔ぐらいしか表示されなかった。だが、今は本来のライブラの姿と言われるモノは赤く、また大きさも静音さんの全身よりも遥かに大きかった。
そして……まるで静音さんを逃がさぬようにと、幾重にも重ねられた赤く輝く光の輪が取り囲んでいたのだった。
「あ、あ、あ、あ、あ、ああああああああ!?!?!?」
静音さんが壊れたように泣き叫び、崩れるようにその場に座り込んでしまった。
だが、ライブラはそんな静音さんですら逃がすまいと、静音さんの動きに合わせ移動する。
「し、静音さんっっ!!」
オレは崩れる静音さんに駆け寄ろうとするが、
「小僧! やめよ!! 今のアヤツに近づくでない!!」
っとサタナキアに止められてしまう。
「で、でも……」
「でも? なんじゃ? コヤツはのぉ、お主のことを騙しておったのじゃぞ」
「ぐっ!?」
オレはそれ以上何も言えなくなってしまった。
「うむ……どうやら情報量が多く、えらく時間がかかるようじゃのぉ。待ってる間に話でもするかぇ。小僧、コヤツはのぉ、その『すまほ』とやらで、選択肢に指示を出したり、またライブラのように制限をかける、つまりこの物語の設定プログラムを書き換えたりしておったのじゃ。まったく、『この世界を維持する』ためとはいえ…………」
そうゆうサタナキアは……そこで言葉を切った。「話でも……」っと言ったわりにサタナキアの言葉が続かず、オレは泣き崩れている静音さんを見た。
「ううっ……ぐすっ……ううっ……ぐすっ」
静音さんは何度も何度も、その溢れる涙を両手で拭っていたが、その瞳からはいつまでも何度も涙が溢れ出していた。そんな静音さんを見ていると、何故だか……心が痛んだ。
「(きっとこんなはずじゃなかったのに……)」
オレは心の中でそう思った。
「……ん? どうやらライブラが終わるようじゃのぉ」
サタナキアの言葉どおり……
『僧侶:静音の情報探査が終わりました。これより詳細を読み上げさせていただきます』
そんな機械音がオレの耳に届いた。
『現在の名前:静音 性別:女 年齢:16歳 Lv:表示できません HP:表示できません 職業:僧侶 役柄:ナレーション役のお姉さんの声/この世界の臨時の管理人役/カジノの経営者:ネリル役……』
「……これらは既にオレが知ってる静音さんの情報ばかりだよな。『Lv』や『HP』はオレだって表示されていないしな。表示されてるのは天音の『Lv1』くらいなもんだ」
このときオレは「やっぱり意味がなかったんじゃないか?』と、強引なまでにライブラを使うように進言したサタナキアに疑問を持ち始めていた。だが次の表示でその言葉を飲み込んでしまう。
『……噴水の周りを走っている幼い女の子:ケリーの声役/村長の娘:エリスの声役…』
「……えっ!? あ、あの噴水の女の子の声も!?」
今思えば容姿は幼かったが、声だけはどこかで聞いたことがあると感じていた。だが、その声まで静音さんだったとは……。それからも次々とオレの知らぬ、静音さんの『役柄』が読み上げられていた。
『……カジノブラックジャックの女ディーラー:アメリアの声役/村娘:Fの声役/現魔王様役:アイギス/女戦士:アシュリーの声役/女が……』
「声役ばか………って、げ、現魔王様ぁ~~~っ!? 静音さんがぁぁぁっ!?」
オレはそのライブラが示す文字を俄には信じられなかった……。
『……み様:アナスタシアの声役/エルドナルド城第2王女:ソフィアの声役/せんた…』
だが、本領を発揮したライブラさんは、オレの心情を知ってか知らずか、まだまだ静音さんの情報を表示してくれている。
「ふん。小僧もようやく妾が言っていたことが事実だと理解できたようじゃのぉ。アイ……いや今は静音と名乗っておるコヤツは……この世界の『魔王』なのじゃ。後で妾も気づいたのじゃが、前回、いや前々回も今にして思えば妾が知る限り、たぶん最初からずーっとコヤツは『魔王』をやったおったのじゃろうな。前にもいうたが、毎回名前を変えて女勇者に『聖剣フラガラッハ』を渡し、そして自分は『魔王』だという身分を偽り、その勇者のパーティーに『仲間』として加わり……」
サタナキアは説明を続けていてくれたが、残念ながらオレの耳にはもう何も届いていなかった。
「(静音さんが魔王だった。静音さんが……魔王だったなんて。静音さんが……)」
オレの頭の中はその事実しか考えられなくなっていた。
「……なのじゃ。でのぉ……って聞いておったのか小僧!!」
「…………」
何か音が聞こえたが、オレはショックで既に放心状態になってしまっていた。
「小僧! 小僧!! 起きろというに!!」
サタナキアはオレの頬を剣の平らなところで、ぺちぺちと叩いてくれた。
「……っ!? あれ? オレは一体なにを……」
「小僧ようやく、正気に戻ったか! まだ話は終わっておらぬのだぞ!!」
「あ、ああ……ごめん」
オレは思考が追いつかず、何を言われたのか分からないまま曖昧に頷いた。
「うぅっ……うぅっ(すん)…………うぅ(すんすん)」
その間、静音さんはずっと座り込み俯きながら泣いていた。泣いている顔を見られたくないのか、隠すように泣いていたのだ。
「静音さん……」
オレは名前を呼ぶがまったく反応はなかった。ただ、ずっと泣いているだけだった。そんな静音さんを見ていると、何故か「魔王をしているのにも理由があるのではないか……」っという錯覚を起こしてしまう。
「ほれ! アイよ……いや、静音……ええい! もうどちらでもよいわ!! どうせ偽名なのじゃしな。そんなことよりもお主……いつまでその演技を続けるつもりなのじゃ!? その嘘泣きは正直見ていて目ざわりで虫唾が走るわっ!! これ以上その三文芝居を続けるというならば、聖剣フラガラッハでその首を殺ぐだけじゃぞ!!」
そうサタナキアが静音さんに向け叫んでもなお、
「ううっ……ううっ」
それでも静音さんは泣く真似を止めなかった。
「だから芝居をやめよというにっっ!!!!」
泣く真似をやめない静音さんに痺れを切らして、サタナキアが本気で怒り出していた。
「静音さん。もうオレは静音さんの正体は…知ってるんだよ。だから…もう……」
「…………」
そのとき静音さんの泣く真似が…………ピタリっとまった。
「…………」
「???」
「きゃはははははははははははははははははははははっっっっっ!!!!!!! バレちゃった♪ バレちゃった♪ くふっくふふふふふっ!!!!!」
静音さんが壊れたように、笑い狂い始めた。
「くふっ……くくくっ…………く」
「………………」
やがてそれも沈黙へとかわる。そして……静音さんが座り込むのをやめ立ち上がり、オレの方へ向いた。
「~~~~っ!?」
そこいたのは静音さん…………ではなかった。
何故なら……髪の色も『黒』から『真っ赤な赤色』へと変わり、また瞳も左右で違っていた。右手には魔導書っぽいモノを持ち、左手には死者を呼ぶランプのようなモノを持っていた。体からは赤黒い稲妻が、背後からは闇が渦巻いていたのだ。
それはオレが知る静音さんとは似て非なるモノだった。
そして静音さんだったモノが口を開く。
「お初にお目にかかります。このワタシがこの世界の現魔王の『アイギス』と申します」
アイギスと名乗った『魔王』はまるでオレをダンスに誘うかのように両手でスカートの裾を軽く摘まみ、ゆっくりと持ち上げながら腰と膝を曲げて深々と頭を下げた。それはまるで俺をダンスへと誘うカーテシーのように思えてしまう。
「以後お見知りおきくださいませ。…………ア・ナ・タ・様♪」
『あなたの目の前にこの世界の『魔王:アイギス』が現われた!! コマンドを入力してください』
これにて「第2章本編『ここからが本当の始まり』」が終了しました。
「第3章本編『そして、長い旅の始まり……』」をお楽しみくださいませ。




