第33話 ヒトの死とは……
前回までのあらすじ!!
回答者サタナキアの質問に対し、静音さんは1万657人という膨大な数の人を殺してきたのだと言う。オレはその事実が信じられず、絶望の傍観することしかできなかった……
「(い、今静音さんはなんていったんだ? 1万657人!? それだけ膨大な数の人を殺してきたというのか? ……この静音さんが?)」
静音さんに「そんなの嘘だよな!」と詰め寄りたかったが、その言葉の意味が未だ受け入れられず、オレはただ呆然とその場に突っ立ってることしかできなかった。
「し、静音、お主は一体何回この世界をやり直しておるというのじゃ……」
「…………もう既に覚えておりません」
力なく静音さんはサタナキアの質問に答えていた。それはもはや絶望……いやそう表現することすら生ぬるいのかもしれない。それほどの表情を静音さんはしていたのだ。
「コヤツはのぉ、人を殺めることで、『自分自身の力』と『この世界を維持するための力』を得るための贄にしておるのじゃ。だが、まさかこれほどじゃったとは……」
そう語る魔神であるサタナキアですら、静音さんの行いには驚くべきことのようだった。
「『自分自身の力』と…『この世界を維持するための力』の為に……」
なんだよそれ!? 全然意味わかんねぇよ!! 大体なんで静音さんは力とやらを維持するためにたくさんの犠牲がいるってんだ!? それにこの世界の維持するためだと!?
「……意味わかんねぇよ」
オレは吐き捨てるようにそう呟いた。
「アナタ様……」
静音さんにはオレのその呟きが聞こえたのか、オレのことを一度だけ呼んだ。それは呼んだというよりも、オレに助けを求めていたのかもしれない……。いやむしろ、オレその事実を知られてしまったという嘆きの声だったのかもしれない。
「静音さん答えてくれ!! サタナキアに答えた事が真実かどうかをっ!!!!」
オレは静音さんにそれを否定して欲しくて、半ば自棄になりながら、静音さんに向けそう叫んでしまう。
「(違うよな静音さん!? 今言ったことは嘘だっていってくれよ……お願いだから否定してくれ!!)」
「…………」
だが、静音さんはオレの問いには答えず、ただ悲しげに下を向き言葉を発せず沈黙を貫くだけだった。その沈黙は既に肯定だったのかもしれない……。
オレは堪らず静音さんの元に駆け寄り、彼女の両肘を掴むと否定でも肯定でもいいからっと、何かしら言葉を発するように激しく揺さぶった。だがそれでも……
「…………」
静音さんは何も答えてくれなかった。
「なんでだよ静音さん……。何でも、何でもいいからさ、答えてくれよ……。いつもみたいのようにオレをからかうみたいに『な~んちゃって、嘘ですよアナタ様♪ 騙されちゃいましたか? ぷっぷくぷぅ~(笑)』とか『からの~ドッキリでした☆ てへりっ』とかやってくれよ……お願いだから」
そう静音さんに嘆いたオレは、今にも泣き崩れんばかりによろよろと、静音さんのメイド服を掴みながらその場に座り込んでしまうのだった。
「アナタ様……」
静音さんはオレにそう声をかけたが、オレの耳には何も届かない。
「(……うん? 待てよ……何かがおかしいぞ。そもそも静音さんがそんなに人を殺したんだとしたら……)」
オレの中でその矛盾が更なる矛盾を生じさせていた。オレは静音さんのメイド服を掴むのをやめ立ち上がり、回答者であるサタナキアに聞いてみることにした。
「でもよ、少しおかしくないか!! そもそも1万何人だかを静音さんが殺したのだとしたら警察が…」
「一口に『ヒトを殺す』というてもの、この世界の中だけの話じゃ。それに『ヒトを殺す』というのは何も一つだけの意味を指す言葉ではないしのぉ」
サタナキアさんはオレの言葉を遮るように言葉を続ける。
「生命を絶つ。確かにこれもヒトの死の一つじゃ。じゃがのぉ~、ヒトの死とはそれだけではあるまい。『記憶』や『人としての心』そのどちらかを失ったら、ヒトはどうなると思うのだ? ……小僧答えてみるがよい」
サタナキアはオレを諭すかのように、そう優しく語り掛けてきた。
「記憶や人としての心、そのどちらかを失ったら……か」
今までそんなことを一度も考えたこともなかったオレは、その質問に考えあぐねてしまう。
「ふむ、答えられぬか。いきなりの質問じゃったし、無理もないか……。ではこう考えてはどうじゃ? お主が何らかの事故で頭を打ち、その後遺症で記憶を失くしたとするじゃろ。家族・友人・恋人など、それらすべてを忘れてお主は生きておる。だが、周りにいる人たちはお主がそのことを忘れていても、お主のことを忘れておらぬのじゃ。……残されたモノにとって、それはとても辛いことであろうに。親しい間柄だったら余計にのぉ」
サタナキアはまるで自分が体験したかのように、そう語ってくれた。
「『心』の喪失も記憶と同義なのじゃ。お主が何らかの原因…例えば大切なヒトを失い、その喪失感からヒトの『心』すなわち『感情』を失ったとする。笑い・怒り・悲しみ・優しさなど、それらの『感情』を失った抜け殻のようになってしもうたら……、それは果たしてそれはヒトと呼べるであろうか?」
「(確かに『記憶』『心』どちらか一つ失ったら、それはヒトではなく廃人と言ってもおかしくない。もはやヒトとは呼べないかもしれないな……)」
オレはサタナキアの話に妙に納得してしまう。
「……っ!? そ、それを……そんなことをこの静音さんがしているってことなのか!? 『自分の力』と、そして『この世界の維持する』とやらの為に!!!!」
「そうなのじゃ。『この世界の管理人』という大義名分という名の元にのぉ。ほれ、そこにいる農夫もそうなのじゃ」
サタナキアは切り株にクマBと共に切り株に座っている、アルフレッドのおっさんに剣先で「ほれ、あれを見よ」を指し示す。
長い長い話のため、しかも出番がまったくないアルフレッドのおっさんはクマBと共に切り株に腰掛け談笑をしていた。
ってかアイツらの存在すっかり忘れてたわ。「今まさに戦闘が始まる!」とかって2回くらい話を引っ張った挙句、もう既にラノベ1冊分の文量くらい待っててもらってるんだよな……。
そもそも作者はコレを終わらせる気あんのか? 2つの単語(家捜し・戦闘チュートリアル)だけでここまで引っ張るとか、あまりにも斬新すぎるだろ。
「あの者もこの静音に記憶を消され、そして今は新しい人格・容姿そして記憶を上書きされておるようだのぉ。名も『アルフレッド・マークス3世』だとか名乗っておるが、前に妾が言うたとおり、この者の本当の名は『アルゼ・タイムス』と言い、ユキネ……いや前の勇者のパーティじゃったんじゃ。無論妾も魔王を倒せる唯一の『伝説の剣』として一緒に旅をしておったのじゃ。それがこんなことになるとはのぉ……」
そう語るサタナキアはどこか寂しそうな声で、また操ってる仮初めの姿も連動して悲しそうにしょんぼりと落ち込んで見える。
「…………」
それでもなお静音さんはまだ沈黙を維持し続けていた。
「それを…静音さんがしたっていうのか……魔神サタナキア?」
オレはあえて『サタナキア』と呼び捨てではなく、『魔神サタナキア』と正式名称で問う。
「そうじゃ。お主も俄かには信じられぬ話かもしれぬが、実際に妾がこの目で見、そしてこの身で体験してきたことなのじゃ」
「一体何のためにそんなことをしてきたっていうんだっ! 『自分の力』? そして『この世界を維持するため』!? そんなモノの為にこんな残酷なことをするのか!!」
オレは仲間である静音さんに裏切られた怒りを、『疑問』として魔神サタナキアを通して静音さんにぶつけていた。
だが、オレがいくら叫んでも当の静音さんは沈黙したままだった。
「小僧…この静音はじゃな、お主が思うておる以上に悪人なのじゃ。いや悪人というのも、もはや生ぬるい。もうこの娘、静音は悪魔と呼んでもよいほどじゃろう。何故なら……
第34話へつづく




