第199話 物語がクライマックスなのに勇者(メインヒロイン)は不在!!
「(もしや今がチャンスかのぉ?)主様よ正気を取り戻すのじゃ! オラっ気付けなのじゃ!!」
「ぐほっ……ぶっ……さ、サタナキア……て、てめぇ、ぜってぇわざとやりやがっただろう……ごほっ」
正気を取り戻しスカした真似をしていたオレに対して、いきなりサタナキアに気付けと称し鳩尾付近にフラガラッハのグリップ部分を当て身をしてきたのだ。
しかもオレが正気に戻っていると確信しやがってからやりやがったのだ。
そのサタナキアの突然に蛮行に対応しきれず、鳩尾部分を押さえながら再び地面とお友達になってしまう。
「ぬ、主様……大丈夫なのか!? い、一体誰にやられたと言うのじゃ!!」
「ふぁあ~っ。おや兄さん、大丈夫でっか~?」
二人は白々しくも心配するように呼びかけてくる。
犯人にも関わらずサタナキアはすっ呆け、ジズさんに至っては眠そうに欠伸をしながら片手間に心配していたのだ。
「ぐっ! も、もう大丈夫だよ。オレさ、頭痛の影響か……全部……記憶を全部思い出せたんだ。自分が何者で何をすればいいのかを!!」
オレは床に膝を突きながら、自分の記憶を取り戻したことをそう叫んだのだ!
「あ、ああ……そうなのかぇ?」
「それは良かったでんなぁ~兄さん」
「…………」
この物語の主人公であるこのオレがようやく記憶を取り戻したというのに、二人は関心なさそうな感じでただ聞き流しているだけだった。
これは酷い。あまりにも酷すぎるこの態度。もうオレはこの物語にいらない子なんじゃないかと思って泣いてしまいそうになっていた。
(なんだろう? もう物語もクライマックス突入、シリアスな展開なはずなのに何でこんな緊張感ねぇんだよ? オレが悪いのかなぁ~?)
オレは不思議そうに首を傾げながら、そんなことを思ってしまう。
「もきゅもきゅ」
「もきゅ子? ……あっ! そういや天音と葵ちゃんは!? ジズさん!!」
もきゅ子にズボンの裾を引っ張られ、そこでふと天音達のことを思い出したのだ。
「ああ、あのお嬢ちゃん達ならワテの背中に乗ってますわ。ほらこのとおり」
「えっ? そうなの? なら安全……じゃねぇしなっ!! なんだよアレは……」
オレを安心させるように後ろを振り向き、背中を見せてくれたジズさんにツッコミを入れてしまう。
何故ならジズさんの背中に乗せられていたのは天音と葵ちゃんであろう、棺が2つ乗せてあったのだ。
しかも何気にジズさんの背中のトゲトゲが棺の中央部を貫き、落下せぬよう支えてる感じであったのだ。
「天音も葵ちゃんも棺になって、既に死んでんじゃんかっ!! しかも背中のトゲトゲが棺を軽く貫いちゃってるよね!?」
「えっ? そうなんでっか?」
自らの背中が見えないジズさんは確かめるように豪快に音を立てながら体を左右に揺すった。
ブンブン!!
ジズさんが体を揺するのと同時にトゲに刺さった2つの棺もそれに合わせ左右へと揺れ動き、落下しそうになっていた。
「わ、分かった! 分かったから動かないでくれジズさん!! マジで天音達が落ちちまうよ! もう天音と葵ちゃんはジズさんに任せたからさ!!」
「そうでっか? 兄さんがそう言うならやめときますわ。はいな! お二人のことはワテに任せて安心してくださいや」
「(物語のラストなのに天音が棺に入ったままで大丈夫なのかよ。い、一応天音は『勇者』なんだよね? 勇者不在で佳境に入っていいものなのかよ……)」
もはやこれ以上犠牲を増やすわけにはいかず、ジズさんに任せることにした。
「主様よ! もう尺がないのじゃぞ!! 急ぎ『始まりと終わりの場所』とやらに向かうのじゃ!! 記憶を取り戻したのなら場所は知っておるじゃろ? ほれ、危機的状況を再開するからのぉ!」
「雑っ! そのフリはあまりにも雑すぎるだろ!? 確かに記憶を取り戻して場所は思い……」
ゴゴゴゴゴッ。
オレがセリフを言い終える前に再開されてしまい、再び大きな地鳴り音が世界を響き渡ってゆく。
「うわっ、とと!? ああ、もう、ほんと雑! 展開と設定が雑すぎだろ!! マジで馬鹿じゃねぇのかよ! サタナキアぁっ!!」
「おうなのじゃ!」
揺れる大地に足をとられながら、右手に掴んだサタナキアと共に再び街中を走り行く。
静音さんがいるであろう……『始まりと終わりの場所』とやらを目指して。
南門を潜ると静音さんがそこに佇んでいた。
まるで遅刻する恋人でも待っているように……。
「はぁはぁ……んっ……はぁはぁ……し、静音さん! ま、待たせちまったか? わりぃな、初デートだってのに遅刻しちまってよ」
「アナタ様……ふふっ。アナタ様は相変わらずなのですから。……いえいえ、今来たところですよ。ですがデートならば、立ち位置が逆ではないでしょうかね?」
オレは軽口を叩き、また静音さんもその茶番に合わせてくれる。
『始まりと終わりの場所』とはオレがこの世界に初めて来た南門、橋の上だったのだ。
これも演出なのか、地震もピタリと止んでいる。
またご丁寧にもオレが来た時にはなかった、この世界と現実世界とを繋ぐそれらしい門まで姿を見せていたのだ。
第200話へつづく




