第197話 世界崩壊もキャラセリフの前ではタジタジ
「あらよ、っと。兄さん、大丈夫でっかー? もう少し気ぃつけて歩かんと危ないでっせ」
「もきゅ♪」
崩れ倒れてくる宿屋の建物の前に黒く巨体のドラゴンがその広く大きな羽を伸ばし、その真下にいるオレを守ってくれたのだ。
それは何を隠そう冥王ジズさんそのドラゴンであった。そして何故だか頭の上にはもきゅ子を乗せている。
「ジズさんともきゅ子か!? た、助かったぁ~。はぁ~っ、ほんとさすがに死ぬかと思ったよ」
オレはジズさんの姿を見ておかげか安心してしまい、両手で自らの太ももをパンパンっと2回だけ叩きながら手をつき、そのまま少しだけ屈んで溜息をついた。
さすがにいくらこのオレが物語の主人公であるとはいえ、迫り来る巨大な建物に押しつぶされてはいとも容易く死んでいたであろう。
何せこの世界に来てからというもの、死んだのは1回や2回の話ではないのだ。
「お~ジズよ! いつもすまんのぉ~。だがなお主、まるで狙い済ましたかのようなタイミングで現われよったな。よもや……」
「あっ速攻バレてましたんか。実はそうでんねん」
「えっ? はっ? 何の話だよ!?」
混乱する当事者のオレを他所にサタナキアとジズさんはのんびりとやり取りをしている。
「も、もしかしてジズさんはそこら物陰に隠れてて、オレがピンチになるのを待ってたのかよ!?」
二人のやり取りから察するとそうとしか理解できないのだ。だが、ジズさんはオレの予想を上回ることを口にする。
「兄さんの予想は半分だけ正解ですわ。実際は兄さんが宿屋の前を通るタイミングを見計らい、地震に乗じて宿屋の裏から建物が倒れこむよう押したんですわ。で、兄さんが下敷きになりそうなタイミングを見計らって意気揚々にワテが助けた! ちゅうこってすわ。これも出番が少ない脇キャラのささやかな抵抗ですんや」
「出番増やすためだけに、オレの事下敷きにしようとしてんのかよ!? コイツら怖すぎだろ……」
(そもそもあの魔女子さんだって、自分がメインヒロインになりたくて静音さん刺し殺したりしたしさ。コイツらの思考回路おかしいよ作者さん! マジで出てきて責任取りやがれよ!!)
もう地震なんかよりも、その思考に到る登場人物共やこれを書いている作者の方が怖くなってきていたのだ。
「いやいや、それよりもなんか地震止まってねぇか!? もしかしてこの世界は崩壊しないで済んだのかよ!?」
ふと気がつくと、先程までうるさいほどの地鳴り音と地震がピタリっと止んでいた。
もしかしたら世界崩壊が止まってくれたのかもしれないと、オレは素直に喜んでしまっていたのだ。
だがそれもただのぬか喜びであった。
「いやきっと、ワテらが会話してるから邪魔をしないようにと、一時的に止めてくれたんだと思いますわ。ほら地震の音ってやかましいでっしゃろ? まともにセリフが通りゃしませんねん」
「そうじゃのぉ~。それに地鳴りの効果音も制作費削減の為に、そこらの新人声優さんが声当てて作られておるしのぉ~。あんまり負担をかけるわけにはいかんじゃろうに」
「…………ごめん。オレもう帰っていいっすかね?」
(マジこえぇよ。マジこえぇよ。意味分かんねぇ。意味分かんねぇ。超意味分かんねぇ……)
オレはもう何も聞きたくないと言わんばかりにその場に座り込み、俯いたまま魔法の言葉をぶつぶつ呟き両手で耳を塞いでしまう。
「別に兄さんが放棄するっていうなら勝手やけどな、たぶん完結するまで最初からをずーーっと、ループしまっせ。ええんでっか?」
「……マジで? 何これって『呪い』か何かなの?」
オレは耳を疑うことをジズさんから聞かされてしまい、ふと塞ぎこんでいた顔を上げジズさんとサタナキアを交互に見た。
「主様……残念ながらジズの言うとおりなのじゃよ。仮に主様が放棄した場合、第1話に戻ってしまい再び同じ運命を辿ってしまうのじゃよ。確かに呪いといえば……そうかもしれぬな」
「(また最初っから? 最初からってなんだよ? 第1話からここまでを永遠ループしちゃうの? 何でサタナキアの呪いとか地震とかは止めてくれるのに物語だけは止めてくれないの? ほんと冗談抜きにマジで呪いじゃねぇかよ……こんなのってさ!)ずっ……ずっずっ……ほんと何なんだよこの世界……っ……バッカじゃねぇの……ほんと……さ」
そのことを考えただけで、情け無いのと恐怖から涙が出てきてしまっていた。
「兄さん……泣きたい気持ちは痛いほど分かりますわ。ですけど、それを救えるのは兄さんだけなんでっせ!! それやのに兄さんが諦めてどないするんです!」
「主様、ジズの言うとおりなのじゃよ。その輪廻を断ち切れるのは、妾の……聖剣フラガラッハの真の主である主様だけなのじゃ。主様なら出来るはずなのじゃ! 何せ主様はこの物語の主人公なのじゃぞ! それに主様の本当の正体は……」
続きが気になるよう引っ張りつつ、第198話へつづく