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第196話 緊急事態時ならば呪いも一時停止!

「主様ここを抜ければ外じゃぞ! もう少しだから頑張るのじゃ!!」

「分かってるよ!! あんまり耳の傍でそうキャンキャン吠えるなよ!?」


 あれから瓦礫の山をどうにか駆け抜け、ようやく1階の玄関ホールに辿り着くことができたのだ。


 ここに到る道中も右手に持っている聖剣フラガラッハからサタナキアが叫び避難の指示を明確にナビゲートしてくれていた。

 だが、間近で叫び騒音と相成って耳が痛くなってしまう。


 未だ大地を、そしてこの世界を揺るがす地震は収まることを知らず、城は崩壊の一途を辿っていた。

 建物を支えている柱はいくつも倒れこみ、いつ城全体が崩れ落ちるかも分からない。


 壁からは壁紙や中の石材が飛び出し、天井のシャンデリアは落ち壊れたのか、ホールの床一面にガラスが散乱していた。

 その光景はさながら世界の終わりの縮図にも思えてしまう。


「あ、あそこが玄関か!? って開かねぇぞ!? 何でだよ!!」


 急ぎ門を叩き押しながら脱出を試みるが、地震の影響からかドアが上から押しつぶされ変形していたのだ。これでは人間の手では到底押し開けることはできない。


「主様! 妾を、フラガラッハを使い、門を斬り開くのじゃ!!」

「はぁっ!? 確かにオマエを使えば、門だろうと簡単に斬れるかもしんねぇけどさ、でもそれだと『呪い』があるんだろ!? 別の脱出方法を考えた方がいいんじゃねぇのか!? た、例えば窓とかさ!!」


 オレは開かない門よりも傍にある窓を叩き割ることを提案し、窓に近づく。


「何を言うておるのじゃ!? 窓の下は崖なんじゃぞ!! しかもその下は川なのじゃ!! 出入り口はこの門だけしかないわ!」

「この城、何でそんな不便な造りしてんだよ!?」


 サタナキアの言うとおり、見れば窓下は確かに崖になっていたのだ。

 きっとそうすることで敵に攻められた際の防御策の一環なのだろう。だが、それが何者をも脱出させない孤城にも思えてしまう。


「やはり門しかないであろう! 確かに『呪い』はあるのじゃが、今は緊急事態じゃからストップ、凍結、一時停止にしておくのじゃ! だから早く(はよう)使うがよい!!」

「何その適当設定っ!? そんなんでほんとにいいのかよ!? 読者からクレームとか来ない!?!?」

「そんなものは後付け設定や補足説明を入れれば万事オッケーなのじゃ! それに例えクレームが来ようともどうせ作者のヤツにじゃろ、妾達登場人物には一切関係ないわ! とりあえず今はこの窮地を乗り切るのが先決じゃろうに!」

「ええいっ、クソがっ!! はぁぁぁっ!!」


 サタナキアに言われるがまま玄関の門前に立つと剣を構え気合を入れるため声を出し、自分の身長よりもやや高め右上から斜めに門を斬り伏せる!


 スッ。

 音も何も発せずに、門が斜め斬りに落ちていった。


「何だコレ!?!? い、今ので門が斬れちまったのかよ!?」


 あまりに予想外の剣の切れ味にオレは驚きの声をあげてしまう。

 何故なら剣で門を斬ったのにも関わらず、物を斬った『手応え』が一切なかった。


 それはまるで熱したナイフでバターを切るかのように何の音も抵抗もなく、人の何倍も大きい木で作られた門が斬り落ちてしまったのだ。


「主様!!」

「あ、ああっ……このぉっ!!」


 ダッ! ギィィィィーッ……ドォーーン!!

 斬った門に足蹴りを入れ、斬った門を蹴り飛ばし外への脱出路をようやく確保するのだった。


「開いた!? 逃げるぞっ!!」


 オレは門を潜りどうにかこうにか、崩落する城から脱出することに成功した。

 だが、地震は鳴り止むどころか、むしろ先程よりも強くなりつつあった。


 そしてまるでオレの脱出を阻むかのように、橋床にヒビがはしると大きな音を立てながら分離してゆく。


「……っ!? マジかよ!? は、橋まで割れるのかよ!? このクソッ!!」


 見れば石で出来たつり橋が地震によってヒビ割れを起こし、今まさに分離しようとしていたのだ。

 もう何度目か分からない危機的状況。


 オレは再びジャンプをしてつり橋が割れ分かれる寸前でどうにか反対側へと辿り着いた。

 だが、状況は一向に変わらず城や橋どころか、街全体……いいや、世界そのものが崩壊をしていたのだ。


 建物は傾いたり、支えを失ったのか1階部分が潰されたり、外壁が崩れ家の中が露出していたり崩壊の一途を辿っている。

 また城同様に道路にはヒビ割れが無数にはしり、どんどん大きな音を立てながら分離し、その下を覗き込めば暗闇がどこまでもどこまでも広がっていたのだ。


 何より怖いのは地震と崩壊の音しか聞こえないことである。

 逃げ惑う動物や人の姿が見えてもおかしくないのに一切姿は見えなかった。


「そういえば天音達はどうした!? は、早く宿屋に行って助けださねぇと!!」


 そこで宿屋に置いてきた記憶を失った天音達仲間のことを思い出してしまったのだ。

 このような状況下で満足に動けないとなると、それは死を意味している。


「あの娘達にはジズが付いておるから心配する必要はないわ! それよりも今はアイの所へ行くのが先決じゃ!!」

「……ちっ。天音、葵ちゃん、もきゅ子……無事でいてくれよ!!」


 オレはそれ呟きサタナキアの言葉を信じることにした。そして再び揺れる地面と建物の瓦礫、割れる地面を走り駆け抜ける。


 中央の噴水脇を通り、宿屋の前を涙を呑んで駆け抜けようとしたまさにそのとき……


「主様危ないのじゃ!?」

「っ!?」


 運悪く崩壊する宿屋の建物が、ちょうどその前を駆け抜けようとするオレ目掛けて倒れこんで来るのがゆっくりとスローモーション再生のように見えていた。



 第197話へつづく

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