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第195話 一瞬たりとも気を抜くな!

 ゴゴゴゴゴッ……ガラッ……ウワァァァァーッ……ドッ、スーン!!

 先程から大地震は止まることなく、その影響で城の天井や柱などがまるで悲鳴をあげるかのように重低音の音を立てながら次々と崩れ落ちってゆく。


「さ、サタナキアこれは一体!?」

「主様よ! もうこの世界は終焉を向かえてしまい、今の状態を維持できぬのだ! 急ぎ『始まりと終わりの場所』へ向かうのじゃ!!」


 サタナキアは地鳴りに負けないほど大きな声でそう叫んだ。


「そもそも『始まりと終わりの場所』ってどこに……うわっ!? あぶねっ!?」


 その間にもオレの頭上が崩れ落ち、石材が次々と襲ってきていた。このままこの場に留まるのは危険極まりない。


「とにかくここは危険じゃから外へ出るのじゃ!!」

「ああ! そうだな! とりあえず脱出しないとな!! 逃げるぞサタナキアっ!!」


 オレは空中に浮いているサタナキアを右手に掴み取った。


「はぁはぁ……おっとと!?」


 息が切れるほど全力で走り、床に落ち砕け散る城の一部を避けながら急ぎ脱出を試みる。

 地震の影響で床が上下左右関係ないしに激しく揺れ動き、また建物の一部である石材物の砂や石粉が床を滑らし、足を獲られてしまい上手く走ることができない。


 ゴゴゴゴゴゴッ……ガガガガガッ!!


「おわおわっ!? こ、今度は何だよ!? 床が、城の床が……割れたのか!?」


 巨大地震の影響なのだろう、城の床にはヒビが入り1メートルほどの裂け目が次々と出来ていたのだ。

しかも未だ地震が断続的に続いているため、現在進行形でそのヒビが序々に大きくなっている。


「主様、飛び越えるぞ!」

「マジかよっ!? こんのぉ~~~クソがっ!!」


 少しだけ後ろに下がり助走をつけ、そして大ジャンプをして裂け目を飛び越えようとする。


「~~~っ!?」


 だが、勢いが足らなかったのか、飛び越えるまでには至らず、大きな裂け目へと落ちそうになってしまう。


「主様ぁーっ!!」

「っつうーっ!?」


 キンッ!

 だが、右手に持っていた聖剣フラガッハが反対側の床へと突き刺さり、どうにか落下するのを防げたようだ。


 そして落下せぬよう両手でグリップ部分を掴む。


「ぐわっ!? た、助かったのか!? お、落ちてたら確実に死んでたぞ……」


 グリップ部に両手を、そして両足で割れた床部分の割れ目に足をかけ体重を支える。

 ふと下を向き見れば裂け目の穴は1階まで達しており、その高さは軽く10メートルはあるだろう。


 しかもこの城は崩れ落ちているため、1階の床は瓦礫の山が覆っていたのだ。

 もしもあのまま落下していたら、死んでいたかもしれない。


「ぬ、主様!? は、早くするのじゃ! いくら妾でも主様の体重をいつまでも支えはきれぬのだぞ!!」

「わ、わりぃっ!!」


 見れば運良く床に刺さったフラガラッハは少しずつ斜めになっていた。

 両手を手放すことが出来ないオレは両足に伝わる感触だけを頼りに引っ掛け上がれる足場を模索する。


「このっ! このぉっ!!」


 ズサッ……ガッ……ズズッ……。

 だがしかし、靴底のゴムが磨り減りまったく機能していないのか、引っ掛け足場を見つけても滑ってしまい踏ん張ることが出来ずにいた。


「クソッ、マジかよ!! もしかしてあの時のせいなのか!? あ、あれも伏線だったのかよ!? この物語伏線張りすぎだろうがっ!!」


 そう、オレには靴底のゴムグリップが機能していないのには『心当たり』があったのだ。

 それは農夫の家に押し入る際、静音さんに暴言を吐きモーニングスターを投げつけられた時の話だった。


 あのとき投げられた鉄球の熱量により、靴底のゴムが溶け落ちゴムグリップの性能劣化(パフォーマンスダウン)を招いてしまったのだ。

 まさかまさかここに来て、そのやり取りさえも伏線だったとは夢にも思わなかった。


「何でもよいから早くするのじゃ! もう妾では支えきれぬぞ!!」

「マジかよ!? サタナキアもうちょっとだけ頑張れよ!! この場面がオマエの最大の見せ場かもしんないだろ!!」


 剣は傾いて床に刺さっており、またオレの全体重を支えているため、更に角度は傾きを増し支え応力を失いつつある。


 ズッズッ……ガッ!!


「よーしっ!!」


 どうにか今よりも高い足場へと足を引っ掛けることが出来た。そして足底に力を篭める。

 もう限界を迎える二の腕と足膝などが震え落下しそうになるが、全身を使い最後の力を込め昇り上がろうと必死にもがく。


「こんのぉ~~クソメイドがぁぁっっ!!」


 あの人への憎しみとも思える言葉が自然と口から出た。

 すると何故だか全身に力が入り、ピンっと伸びきった二の腕を引き寄せるように少しずつだが昇り上がる。


「がぁぁぁっっっ!!」


 そして目を見開き勢いに任せたまま一気に昇り上がろうと剣から両手を離し、床に引いてある絨毯や割れ目が入った床の石材を掴み必死に登った。


「はぁはぁ……ごほっごほっ……」


 死の恐怖と筋肉を酷使した痙攣が体全体を痺れさせ震えが止まらない。


「主様休んでいる場合なぞではないぞ! 早く(はよう)ここから脱出せねば押しつぶされてしまうのじゃ!」

「……っ!? あ~もう、ほんと急展開すぎだろ!!」


 サタナキアの声により、我に返ると「どうしてこんなことになってんだよ!?」と叫び狂いたくなったが、今は脱出するのが先決である。


 そしてすぐさま床に突き刺したフラガラッハを引き抜くと再び全力で走り出した。

 そこで先程よりも何故だか走りやすいことに気づいてしまった。


「何でいきなり走りやすくなったんだ? あっ……オレの剣がねぇぞ!? どっかに落としちまったのか!? 取りに戻……っ!?」


 左腰に携えていたレイピアが無くなっていたのだ。

 きっと先程の大ジャンプした際に落としてしまったのかもしれない。


 一瞬だけ剣を取りに戻ろうかと立ち止まり、後ろを振り返ったが既にオレがいた足場は酷く瓦解しており、もう戻ることは不可能であった。


「そんなものよりも命の方が大事じゃろうに! 主様の剣は諦めるがよいわ!!」

「マジかよ!? せ、せっかくアリッサの店で一式を買い、まだ1度も使うどころか鞘から抜いた事すらなかったのに、ほんっと今日は厄日すぎだろっ!!」


 オレは剣を諦めると再び前を向き、走り出した。



 第196話へつづく

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