第194話 世界崩壊の足音
「ぬ、主様ぁ~っ!?」
「そうなのじゃ! お主は覚えておらぬかもしれぬが、妾と本体である『聖剣フラガラッハ』の真の所有者なのじゃぞ! さぁ妾の一撃にてすべてを思い出すのじゃ!!」
そしてサタナキアさんは何を思ったか、横を向き後ろへと仰け反る体制をしていたのだ。
「えっ!? 一撃ってなにさ!? サタナキアさんは何をしようとしてんの!?」
っと驚いたのも束の間、あろうことかサタナキアさんはそのまま勢い良くオレへと切りかかってきたのだ!
「サタ……やられるっ!?!?」
迫り来る聖剣フラガラッハの刃に怯え、得も言えぬ死の恐怖から反射的に頭を守るよう両手をクロスさせガードする姿勢を取った。
ブンっ!!
少し遅れて空気を切り裂く鈍く重い風斬り音がオレの耳に届いた。
「…………???」
(う、ん? 音だけで何の衝撃も来ねぇぞ? それに全然痛くも痒くもねぇし。もしかしてこの身で死を体感する前にオレは死んじまったのか!?)
……だがしかし、いつまで経っても死の痛みは襲ってこなかったのだ。
一体どうなったんだよ……っと恐る恐る頭を守る為、両手でガードしていた手を開き様子を窺った。
「またつまらぬモノを……いいや、詰まるモノを斬ってしまったのじゃ……」
何故だかトイレを詰まらせたようなドヤ声をしているサタナキアさんの声が聞こえ、聖剣フラガッハの刃はオレの股下の床へと着いていたのだ。
「なんだよコレは!? お、オレは死んじまったのかよ!?」
その状況から察するにまさしく人を斬る一連の動作といえよう。
だが、オレの体には斬られた痛みも出血も出ておらず、また服も斬られた形跡がなく無事である。
「死んではおらぬよ、主様。だから安心なされよ」
サタナキアさんはオレを安心させるようにそう一言声をかける。
「無事なのか!? そ、そっかぁ~……はぁ~っ」
サタナキアさんのその言葉を聞き安心したせいか、今頃になって死の恐怖を自覚したように足と膝が震えてしまい、自分の体重を支えきれなくなり、へなへなへな~っと地面に座り込んでしまった。
「ふっ。妾が主様を殺すわけがなかろうに。妾が斬り捨てたのは、記憶を封印している『鎖』の方なのじゃ。前にも言うたであろう、主様の記憶は封印されておると……これで主様は本当の記憶を取り戻すことができたのじゃ」
そういえばそんな話の件もあったかもしれない。
確か静音さんがオレの記憶を削除してると思ってたら、実は削除ではなく“封印だった”って話。
「封印の鎖を断ち切った……じゃ、じゃあオレの記憶は戻るのか!?」
「うむ。序々にではあるが、魂と体が馴染むよう記憶を取り戻すはずじゃぞ。さすればお主の正体やこの世界についてが……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……。
そのとき、大きな地鳴り音と城全体を揺らす大きな地震が襲って来たのだ。
「うわっ!? じ、地震か!? こりゃデケぇぞ!?」
立っているのもまま倣いほどの巨大地震に驚き、オレは床に這い蹲りながらどう行動すれば良いのか混乱してしまう。
「これはもしや……アイの仕業か!? 主様よっ!! このままではマズイぞ! 静音のヤツはついに正規雇用へとジョブチェンジしてこの世界を破壊、そして新たな世界を再構築するつもりじゃぞ!! 急がねばまた同じ世界に彷徨い漂うハメになるのじゃ!!」
「ランクアップ!? この世界を破壊!? そして新たな世界の再構築だってぇ~!? あの静音さんがか!?」
どうやら静音さんは臨時のアルバイトから正規雇用され、正社員のようにようやく管理人の本領を発揮するつもりらしい。
臨時採用の雇用体系にまで配慮するとは、作者の野郎のやる気はどうやら本気のようだ。
「サタナキアさん!! 静音さんはどこにいやがるんだよ!?」
「不確かなのじゃが、きっとアヤツのことじゃ『始まりと終わりの場所』で待っているはずじゃぞ!! それが『異世界転移モノ』のお約束なのじゃわ!」
(おい、何かこの危機的状況下に置いても軽くディスり入ったぞ!? しかもお約束と書いて『テンプレ』じゃなくて、外人みんな大好き定番のテンプ~ラ(何気に外人発音)だったのかよ!?)
ゴゴゴゴゴッ……ガラッ!
「おわっ、っとと!? あっ……クソッ!?」
再び大きな地響きと共に大地震が起こると、ついに揺れに対し城が耐え切れなくなったのか、大きな音と共にオレの頭目掛けて天井部が崩落してきたのだ。
オレは考えるより先に体が反応し、即回避行動に移す。咄嗟の判断で天井が落ちてくるのが自分の真上だと判断し、地面を這い蹲りながら前の方へと転がり込む。
……ガッシャーン!!
大きな衝撃音と共に城の天井に使われている大きな四角の石材が床に衝突し、一部が砕け散った。
「主様ぁ~っ!! 大丈夫なのか!? 主様ぁ~っ!」
「ごほっごほっ……ああ、なんとかな……生きてるよ」
幸い前方にある王座の方へ転がったおかげか、怪我もなく粉塵によって咳き込むだけで済んだのだ。
見れば砕けた石材はオレが元いた場所を基点に左右へと砕け飛び散っている。もしも右か左に避けていたら、間違いなく石材に押し潰され死んでしまったかもしれない。
第195話へつづく