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第190話 パーティー崩壊の一途

「あの天音さんや。その肝心要のモンスターはどこにいるのでしょうかね?」


 部屋のドアを開けたオレはそのままの体制で固まってしまったのだ。

 何故なら部屋の中に居たのは、天音に葵ちゃんにもきゅ子だけであったからである。部屋は毛布やシーツなどが床に落ち散らばっていたが、幸いにもそれはモンスターが暴れた(さま)ではなかったのだ。


「ななな、何を言っているのだキミは!! ここ、ここにちゃんといるではないか!!」

「そ、そうですわよお兄様! その赤いドラゴンですのよ!」


 天音と葵ちゃんは今更ながらにもきゅ子を指差しながら「モンスターだ! ドラゴンだ!」っと、慌てふためきながらベットの上で騒いでいる。


「はぁ~っ。天音に葵ちゃん、もきゅ子はオレ達の『仲間』じゃねぇか。何で今更もきゅ子のことをモンスター呼ばわりしてんだよ。冗談にも程があんだろう……」

「冗談を言っているのはキミの方だろう! 私はドラゴンを仲間にした覚えはないのだぞ!? な、葵! オマエもそうだよな!?」

「ええ。お姉様の言うとおりですわ。そそそ、それが部屋の中にいきなり目の前に現われて……」

「もきゅ~?」


 もきゅ子は葵ちゃんに指を差されると自分が呼ばれたと勘違いしたのか、首を傾げながら近づいてしまった。


「わー! わー! ドラゴンが近づいてきたぞ!? わわ、私の剣はどこにあるのだ!? 剣があればこのようなモンスターなんぞに遅れをとらないのに!」

「お兄様もそこで見ていないで、早く退治してくださいな! ワタクシ食べられてしまいますわ!?」


 天音と葵ちゃんは本気でもきゅ子のことを知らないような行動をしながら、子供だとはいえドラゴンに恐怖していた。


「…………」


 オレはその光景を見ながら状況が掴めずに、ただ呆然としてしまった。


「きゅ~きゅ~」


 そしてもきゅ子から悲しそうにズボンの裾を引っ張られ、ようやく我に返ることが出来た。

 きっと短いながらに旅をして来た二人にモンスター呼ばわりされてしまい、戸惑う気持ちよりもむしろ悲しい気持ちなのだろう。


 今にも泣き出しそうな顔で「私、何か悪いことしちゃったの?」っと必死にきゅ~きゅ~っと鳴いていたのだ。


「もしかして二人とも……もきゅ子のことまで忘れちまったのかよ」


 先程まで一緒に朝食を取っていたというのに、まだあれから10分も経ってはいなかったのだ。

 それだけの間に天音と葵ちゃんはもきゅ子のことを忘れてしまい、あまつさえ『モンスター』だと恐怖していたのだ。


「いいから早くそのモンスターをなんとかしてくれか! それかその腰にある武器を私に渡してはくれないか!!」

「お兄様!!」


 二人とも混乱からもきゅ子をなんとかするように、必死にオレへと叫んでいたのだ。


「……もきゅ子ごめんな。少しだけ部屋の外に避難してくれるか? ここは危ないからさ」


 オレがゆっくりとドアを開けてもきゅ子は部屋の外に出してやることにした。

 このままでは興奮した二人に何か危害を加えられても何ら不思議ではなかったからだ。


「きゅ~っ」

 もきゅ子は悲しそうな顔をしながら開いたドアから廊下へと外へと出る。

 そして最後に天音と葵ちゃん達の方を振り返ると「きゅ~」っと悲しげに一言だけ鳴いたのだ。それは「ごめんね」っという謝罪の言葉だったのか、それとも今生の別れの言葉だったのか、もきゅ子の言葉が分からないオレには判断がつかなかった。


 だが、そんなもきゅ子に対して天音は何を思ったか攻撃的な行動をみせていた。


「早く、出て行かないか! このモンスター風情がっ!」

「き、きゅ~っ!」


 天音の手元にあったであろう枕を今まさにドアから出ようとするもきゅ子目掛けて投げつけたのだ。

 幸いにも投げられた枕はドアに当たり、もきゅ子には当たらずに済んだ。


 だが、いつも自分を可愛がっていた天音と葵ちゃんに、枕とはいえ投げつけられたことで驚きもきゅ子は慌てて廊下へと逃げ出してしまった。


「や、やめろって天音! もう……もうさ、いいだろう。やめてくれよ……ぐすっ……もきゅ子はオレ達に危害なんか加えねぇよ……だから……ぐすっ」


 もきゅ子のことを忘れてしまったとはいえ、変わってしまった天音と葵ちゃん。

 そしてもきゅ子をモンスターだと認識している誤解と天音が敵だと思いこみ枕を投げつけた行動が悲しくなり、オレの目からは自然と涙が溢れ出してしまった。


 オレは溢れる涙を上を向くことでグッと我慢し、鳴る鼻を左手の甲を当て抑え、廊下に出たもきゅ子を安心させるように頭を撫でながら声をかけた。


「ごめんなもきゅ子。怖い思いさせちまってよ。大丈夫だからな……よしよし」

「きゅ~」


 もきゅ子もオレと同じく天音達のことが悲しいのか、大きな2つ瞳からは大粒の涙が溢れ出してしまい泣いていたのだ。

 だが、頭を撫でられると少しくすぐったそうにしながらも、オレの言葉を理解したように頷いてくれたのだった。



 第191話へつづく

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