表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
190/224

第188話 忘れる人、覚えているヒト

「……で、ちと聞きにくいんだけど。ほんとに天音も葵ちゃん、そしてもきゅ子も『静音』って名前のメイドに心当たりはないんだよな? 嫌かもしんねぇけどさ、確認の上でもこれだけは答えてくれねぇか? オレにとってこれ(・・)は重要なことなんだよ。だから頼む!!」


 オレは椅子に座りながら天音たちに向け頭を下げながら、静音さんについての質問をしてみたのだ。

 何度も嫌な質問、それも天音との喧嘩の原因になった質問をするのは正直憚れるかもとは思ったのだったが、それだけ重要な事柄なので、プライドもクソもなくオレはテーブルに頭を打ちつけながらに聞いたのだ。


「ふむ。キミには悪いのだが……。やはり『しずね』などと言う名前に覚えはないのだ。キミがそれほどまでに真剣なのだから、婚約者(フィアンセ)として力にはなりたいのだが……」


 っと天音は困った表情で「知らない」っと再度同じ答えを述べ、申し訳なさそうにしている。


「そっか……悪かったな、天音。何でも嫌なこと聞いてさ……。それで葵ちゃんともきゅ子はどうだ? 聞いた覚えねぇか?」


 オレは天音に謝罪の言葉を述べると同時に葵ちゃんともきゅ子にも同じ質問をしてみたのだが、


「そうですわね。ワタクシもお姉様と一緒でして……そのような方のお名前を聞いたのは、初めてですわね。お兄様には申し訳ありませんが……」

「きゅーきゅー」


 葵ちゃんも天音同様に静音さんのことは「知らない」っと答え、もきゅ子までもがその意見に賛同するように頷いていた。

 どうやら誰も静音さんのことを覚えているものはいないようだ。


「……そっか。ごめんな、葵ちゃんももきゅ子も……」


 二人にも同じく謝罪の言葉を口にしたのだったが、オレはその事実に驚きと戸惑いを隠せない。


(一体どうゆうことなんだよ? まるで三人とも、そもそも始めから(・・・・)静音さんの存在を知らないように振舞っていやがるぞ!?)


 一瞬みんながグルになって『嘘』をついているのかも勘繰ったが、どうやらこの様子と言葉から察するに言ってる事が嘘ではないと結論付けた。

 そもそもオレの連中は嘘をつけるようなヤツらではないのだ。


「あの……悪いのだが。そろそろ部屋に戻ってもよいかな?」

「あ、ああ悪かったな。変な質問して引きとめちまってさ。それと喧嘩もしちまって」


「な~に気にするな!」っと天音は葵ちゃんともきゅ子を引き連れて、2階にある部屋へと戻って行った。


「どうすりゃいいんだよ、ほんと」


 この期に及んで尚、オレは状況を把握することが出来ずにいたのだ。

 静音さんの居所の情報を掴むどころか、「そもそもその静音さんって誰なの?」ときたもんだ。もうこれでは彼女を探すどころの話ではない。


「静音さん。もしかして、これもアンタの仕業なのか? 自分が消えるため、天音達の記憶を削除したっていうのかよ? そりゃあんまりだろ」


 結局憶測ではあるが、『静音さん本人が天音たちの記憶を削除したのではないか?』っと思う他なかった。


挿絵(By みてみん)

「あれぇー? もしかしてみんな部屋に戻っちゃったの? 何でお兄様だけ残ってるの?」


 オレが落ち込み今後のことを考えながらテーブルに突っ伏していると、明るい声でそのように声をかけられた。

挿絵(By みてみん)

「うん? ああジャスミンか。ここ何か付いてんぞ」

「うにゃ? ほ、ほんと!?」


 声の主はジャスミンだった。

 彼女はあれから厨房に戻ってからも何かの仕事をしていたらしく、胸元の服には白い粉が付いていた。オレは自らの胸を指差しながらジャスミンに教えてやる。


「あーにゃははっ。ごめんねぇ~。さっき明日焼くパンの生地捏ねてたから服に付いちゃったみたいだね。えへへ~っ。お兄さん教えてくれてありがと♪」


 ジャスミンはパンパンっと手で叩きながら、その白い粉を落としている。


「そっか……パンはジャスミンが焼いてるのか」


 オレはあまり興味はなかったが、声をかけてしまったので少しだけその話題について話をする。


「うん! お兄さんも明日は期待しててよねぇ~♪ 明日のパンは柔らかもっちりなのを食べさせてあげるからね♪ 何せ焼き方を少し見直して改良したから、今まで見たいに乾燥してあまり硬くならないよう工夫しながら焼くんだよ♪」

「そっか。それは楽しみだな……」


 オレの耳にジャスミンの話は聞こえてはいたが、別の事で頭が一杯であまり気の利いた返事をすることができずにいた。


「何せあの(・・)静音さん直伝なんだもん! パンを焼く際にかまどの中で水分を補うような形にすれば、柔らかくもっちりとした食感を保つことができるって教えられたからね! まぁでも……その分日持ちが悪くなるって言われちゃったけどね

「そっか。やっぱ静音さんすげぇなぁ。とてもオレなんかじゃそんなアイディア思いつかねぇもん」

(……うん? パンの焼き方? かまど? 静音さん?)


 そこでオレは何かが引っ掛かっていた。


「うん! 明日は静音さんが教えてくれた他の方法もいくつか試行錯誤しながら焼いてみるんだ♪ ちゃんと焼けると良いなぁ~♪ パンにナポリタンを挟み込んで『サンド』にすれば大儲け確実だよね! 名前は『パンdeナポリタン』とかいいかなお兄さん? センスないかな? にゃははっ」

「…………っ!?」

(い、今誰の名前を言ったんだ? 静音さん? 静音さんって言ったのかジャスミンは!?)


 オレは目を白黒させながら、将来の金儲けに妄想を抱いているジャスミンへと詰め寄る。


「じゃ、ジャスミンオマエ! 静音さんのこと覚えてんのか!? ほんとか!!」

「にゃにゃ!! お、お兄さん苦しぃ、首! 首っ! あと揺らしすぎだよ……うぷっ」

「わ、わりぃ、つい」


 オレは驚きのあまり、ジャスミンの両肩を掴みながら前後に振ってしまっていたのだ。


「もう!! 何なのさお兄さん! いきなりボクのこと揺らしまくってさ!!」

「ご、ごめんってジャスミン。静音さんの名前聞いたら興奮しちまって」


「ほんと悪かった!」っとジャスミンに頭を下げまくる。


「もういいよ。で、静音さんがどうかしたのお兄さん? 名前聞いたら興奮って、普通じゃないよね? 発情期なの?」

「…………」


 ジャスミンが言う冗談にもオレは答えられなかった。


「あ、あれ? お、お兄さん!? 泣いてるの? どうしちゃったのさ! お兄さんってば!!」

「ぐすっ……う……っ……すっ……」


 正直ジャスミンが静音さんの事を覚えているとは思わず、たったそれだけのことなのにオレは嬉しくなってしまい感極まって何も答えず、ただただ泣くことしかできなかったのだ……。


 第189話へつづく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ