第185話 もきゅ子からの疑いと和解の握手
「ほんとこのナポリタン美味すぎるなぁ。またこの熱せられた鉄板にくっ付いて、コゲコゲになった感じの麺が何気に1番美味いんだよなぁ~。うん……チクショーめっ!」
(まぁオレの持ち合わせていた知識だけじゃ、こんな美味いナポリタンなんか作れなかったしな! それにナポリタンの為だけに、熱せられたステーキ鉄皿に盛るなんて発想なかったもん。もうこれについてだけは潔く全面降伏するしか道はねぇわ)
オレは静音さんに本来の立ち位置を取られてしまい文句を言う代わりに半ばヤケになりつつも、静音さん考案だというナポリタンを褒めちぎっていたのだ。
そしてあれほど山盛りになっていたナポリタンの半分ほどを食べ進めていると、ジャスミンが厨房から何かを持ってやって来た。
「は~い♪ みんなぁ~。温かいコーンスープを持ってきたよ~♪ まぁ……昨日の残りなんだけどね♪」
っと少しおどけながらにジャスミンは昨日と同じくカップに並々と注がれたコーンスープを持ってきてくれたのだ。
ちょうど味が濃いナポリタンだけでは、さすがに苦しくなるタイミングを見計らってスープを持ってきてくれたようだ。
そして各々の目の前にジャスミンがコーンスープを置いてくれる。一応カップから直接飲めるのだが、ジャスミンなりの気遣いなのか、木で出来たスプーンが添えられている。きっと熱いから冷まして飲む用に付けたのだと思う。
「はい♪ 最後にお兄さんもどうぞ♪」
先に食事をしている天音達にスープを配ると最後にオレの目の前にスープを置いた。
「おっ! ありがとう♪ ちょうど何か飲み物が欲しかったところだったわ」
「そうなの? あはっ。良かった♪」
オレが礼を言うジャスミンもいつもの笑顔となり「まだ仕事があるのから……」っと、さっさと厨房の方へ戻ってしまった。
昨日の残り物とは言っていたが、鍋で温めなおしたのか、並々注がれたカップからは熱々の象徴である湯気が立ち昇っている。
「ズッ……うーん♪ 粒コーン入りで相変わらず美味いよな! まぁ……昨日の残りだけどね」
オレは昨日の残り物感をえらく強調しながらもややディスり感を醸し出しつつ、コーンスープが入ったカップに口を付けながら他のヒロイン達を窺う為に目を差し向けた。
「おっほぉ~♪ 昨日の朝食でも飲んだが、ジャスミンが作るコーンスープは絶品だからな! どれどれ……ズズッ……うまー! まぁどうやら……昨日の残りらしいがな」
「もうお姉様ったら、大げさなリアクションを御取りになって。ではワタクシもいただきますわね。ふぅ~ふぅ~……ズズズッ……うまーっ! ええ……昨日の残りとの噂ですわね」
もはや天音と葵ちゃんはコーンスープを口にするだけでヒロインから馬へと、にこやかに変貌を遂げつつあるようだ。
「(揃いも揃いって同じリアクションしやがって! ……いや、双子なんだから当たり前か。あれ? そういえばもきゅ子はどうしたんだ? 本来ならば天音達の真似をして『もきゅー』って顔でリアクションを取っても良いはずなのに……)」
ふと隣に居るはずのもきゅ子があまりにも大人しすぎると思い目を向けてみることにした。
「きゅーきゅー」
「ああ。熱すぎて舌火傷してたのね」
もきゅ子は器用にも両手で挟み込みカップを傾けながら、口を付け飲んでいた。
どうやら子供ドラゴンのもきゅ子にはコーンスープは熱すぎたのか、舌を出しながら「きゅーきゅー」っと悲しそうに鳴いている。
「(そんなもきゅ子も……めっちゃカワイイけどな!)」
熱いスープに息を吹きかけて冷ますことを知らないのか、カップに口を付けては鳴き、またカップに口を付けては鳴き……それを延々繰り返していたのだ。
そんなもきゅ子の姿を眺めていると何かが芽生えたように萌えを感じたのだが、さすがにいつまでもそのままでは可哀想なので、フォローしてやることにした。
「ほらもきゅ子。ちょっとそれ貸してみ」
もきゅ子が両手で持っているカップを左手で持ち、奪い取る。
「きゅー! きゅーっ!!」
もきゅ子は自分のコーンスープを奪われたっと勘違いしたのか、「返して! それ返してよー!」っと必死に短い手足を伸ばしながらオレに抗議の鳴き声をあげている。
「ちげーって、もきゅ子! ほら、この木のスプーンを使って『ふぅーふぅー♪』って、息を吹きかけてやれば熱くないからなぁ~。ほ~ら口開けてみ」
「きゅ? もーきゅーっ」
オレに悪意がないと分かり、もきゅ子は言われるがまま口を開けコーンスープを飲んだ。
「どうだ? これくらいならあんまり熱くないだろ?」
「もきゅもきゅ♪ き、きゅーきゅー」
「うん? どうしたんだもきゅ子? そんな悲しそうな顔しながら右手なんか差し出して……」
適度に冷めたスープを飲んだ時には嬉しそうだったのだが、今は何故か悲しそうな顔で手を差し出していたのだ。
「きゅ! きゅ!」
「うん? オレの手か? ……ほら」
静音さんが居ないせいでもきゅ子が何を言ってるか分からなかったが、どうもオレに手を差し出せと身振り手振りで示しているようだ。
疑問に思いまだ熱いカップをテーブルに置きながら、もきゅ子へと右手を差し出してみる。
するともきゅ子はバツが悪そうな顔をしたまま、オレの右と握手をしたのだ。
「きゅ~(ぶんぶん)」
「うん? ……あっうん。よろしくね?」
オレはワケが分からないままもきゅ子と握手をして上下に振っていた。
最初はドラゴンなりの謎コミュニケーションなのかとも思ったが、どうにも違うらしい。
「(うーん? どうゆう意味なんだろう? 何でいきなり握手なんだ?)」
オレは事態がよく飲み込めず、未だに握手しながら首を傾げると、もきゅ子空いているもう反対側の手でコーンスープが入っているカップを指し示していたのだ。
「カップか? うーん、やっぱりよく分からん。あ……あーっ! そうゆうことか!」
そこでオレはもきゅ子が何をしたいのかに気づいてしまった。
オレがもきゅ子に冷まして飲ませてやろうとカップを取った際に、もきゅ子は自分の分を奪われたと勘違いしていたのだ。
きっとこの握手はオレを疑ってしまったことへの謝罪の意思なのだと受け取ることができる。
だからこそもきゅ子は未だに悲しそうな顔で鳴いているのだろう……っとも。
ようやくもきゅ子のしたい事、そしてその意思に気づいたオレは、これ以上もきゅ子が気にしないように笑顔で話かけることにした。
「ふふっ。大丈夫だよ、もきゅ子。そんなことぐれぇでオマエのこと嫌ったりしねぇって。逆にオレの方がいきなりだったもんな! オレの方こそごめんな、もきゅ子。だからもう、そんな悲しそうな顔すんなって……」
もきゅ子を安心させるよう、頭を撫でながらそう優しく語り掛ける。
「きゅ~? きゅっ! もきゅもきゅ♪」
もきゅ子は少しだけ首を傾げるとオレの言葉を理解したように力強く頷き、オレの首へとその短い手で抱きついてきたのだ。
「もきゅもきゅ♪ きゅ~きゅ~♪」
「こらっ。くすぐったいだろ、もきゅ子ぉ~。もう止めろってばぁ~♪」
もきゅ子は頭をすりすりと擦りつけ甘え、オレもまたもきゅ子の頭を撫でてやる。
何だか久しぶりに心が落ち着く時間を得られたように感じていた。
なんだか久しぶりにほっこりした内容になりつつ、お話は第186話へとつづく