第183話 「あな嫁」は今流行のお一人様でも読めます♪
「ほら小僧よっ! お主、自分がしでかした事を言うてみるがよいわ!」
「……ほ、ほんとごめんってば!!」
オレは切り株の上に正座させられ、サタナキアさんに怒られていたのだ。
何故こんなことになったかと言えば……
「お主が薪割りに夢中になるあまり、本来前話で語るべき事柄を語れずに何故だか妾が作者から叱られてしもうたのじゃぞ!! しかももう話数を割くのは無理とか言うてのぉ、その話自体丸々カットされてしもうてからに妾だけが怒られ損ではないか!」
サタナキアさんはブンブン、ブンブン……っと自らの本体である聖剣フラガッハを振り回し、怒りを如実にしていたのだ。
「そうじゃ! それがお主がしでかした事なのじゃぞ! 反省せよ!!」
「(いや『言うてみるがよいわ!』とか言いつつ、ほとんどサタナキアさんが説明しちまってさ、オレほとんど喋ってねぇじゃねぇかよ!! 何さもオレが説明しました感を醸し出してんだよ。あー……出番か。カットされた腹いせにサタナキアさんはオレのセリフ部分食いやがったわけか)」
セリフを食い散らかされたオレは反省の言葉を口するしか道はない。
「……ごめんなさい」
オレはサタナキアさんに頭を垂れ、謝罪する。
「ふん! もうよいわ。さっさと話を進め遅れを挽回するぞ! とりあえず薪割りは終わりにして……朝飯じゃな! 小僧よ、斧や薪をちゃんと片付けておくのじゃぞ! 妾はジャスミンの手伝いをしてくるからな~」
っとサタナキアさんはオレを放置して、さっさと宿屋の中へと入って行った。
「あ、ああ……わかったよ。既に居ねぇし」
オレが返事をした頃には「ファ~ン♪ ファ~ン♪」という移動の音の文字だけを空中に残し、サタナキアさんの姿は見えなくなっていた。
「サタナキアさん……それは挽回ってか、もはやスルーじゃねぇか? 本当はサタナキアさんにも静音さんの居場所とか色々話を聞きたかったのになぁ」
オレはそんな独り言を呟きながら既に割った大量の薪を拾い上げ、山積みにされた薪の隣へと置き並べることにした。一応木で作られた屋根があり、薪に雨がかからないように工夫がなされている。
「ふぅ~。薪の方はどうにか終わったな。後は……」
そして「斧はどこに置けば?」っと辺りを見回すと、同じく屋根下の壁際に杭で打たれた出っ張りのような物が2箇所あり、そこへと斜めがけしてみた。ちょうど斧が引っ掛かり、尚且つ屋根があることで雨を防げる形となる。
「そうだよな。切り株の上に斧を置きっ放しにしてたら、ほんと野ざらしと一緒だもんな。刃の部分は鉄だもん。錆ちまうよな」
住人にとっては何気ない当たり前の事でもオレにはすべてが新鮮で、また知らないことばかりだった。
そして言われた片付けを終え、サタナキアさんの後を追うように急ぎ宿屋へと向かうことにした。
<やがて土に還れる宿屋:貴腐老人の館>
「らっしゃせー♪ おや兄さん、今流行中のお一人様でお泊りに来たんでっか? それともお一人様でご休憩するつもりなんでっかー? ……寂しいでんなぁ~」
「うっせーよ。何気に使いまわしのネタと見せかけて、流行の最先端ネタをここぞとばかり捻じ込むんじゃねぇよ」
昨今の都会ではラブリーホテル(通称ラブホ)あたりで『お一人様』が流行っているらしい。何でも見学がてら入ってみたり、一人カラオケをするためや単純に料金が安いなどの理由で一人で利用する人が増えていると……
「まま、後学や思うて利用しなはれや! 今なら割り増し料金にしとくさかい」
「オレの補足説明潰した挙句、何で料金水増ししやがってんだよ。週末・年末年始で料金値上げるそこらの旅館なのかよここは? あとオレは既に2泊ほどしてんぞ……」
「何も冗談でんがなぁ~。怒らんといてぇなぁ~兄さん♪」っとからかうジズさんをスルーし、酒場へと向かうことにした。
「おや? キミか。もしかして今起きたところなのか? もうすぐ朝食ができるのだぞ!」
「お兄様ぁ~おはようご……ぐー♪」
「もきゅもきゅ♪」
いつもの暖炉近くの定位置のテーブルに座り、天音達が朝食が出来るのを待ち望んでいたのだ。天音はオレが寝坊したと勘違いをし文句を言い、葵ちゃんはまだ寝ぼけているのか、頭を左右にクラクラと揺らし挨拶をした。
もきゅ子は……うん。ちゃんと起きてるな! 天音が連れてきたのかな? この葵ちゃんでは無理だろう。いや、むしろ寝ぼけてまた頭から丸齧りしそうだしな。
「あー実はな、今さっきまでサタナキアさんの手伝いで薪割りを……」
「おーいジャスミン! 朝食はまだなのかー? バンバン!」
「ご飯? ご飯ですの? バンバン!」
「もきゅもきゅ!!」
三馬鹿ヒロイン共は行儀悪くもテーブルを叩き朝食の催促をしていた。葵ちゃんは寝ぼけながらテーブルを叩き、隣に居るもきゅ子も二人の真似をするように短い手でテーブルを叩いている。
「(ほんと今日のオレはセリフ途中で邪魔ばかりされてんなぁ。何だ厄日なのか? あとそこらの三馬鹿ヒロイン共! いい加減テーブル叩く疑似音は声優さんのセリフとしてじゃなく、『』閉じの効果音で表現しやがれよな! 冗談抜きにアニメ化したら視聴者から『もしかして~制作費ケチってんすかー?』って炎上しまくるだろうがっ!! 無駄にネット民様を煽るんじゃねぇよ……)」
今後の炎上対策としての保険を自らの心情と銘打ちつつ、いつもの席へと座る。
「は~い♪ お待たせお待たせ~♪ 今朝は豪勢にジャスミン特製『ナポリタン』だよ~♪」
「ぶっ!? あ、朝からいきなり『ナポリタン』なのかよ、ジャスミン……」
見ればステーキ用の鉄皿に山盛りとなって乗せられたナポリタンがお目見えする。ジャスミンは器用にも右手と腕にそれぞれ1皿ずつ乗せ、反対側の左手には1皿を持ち、天音達の目の前に置いてゆく。
またステーキ同様鉄皿が熱せられているのか、ケチャップが熱せられ香ばしく美味しそうな匂いと共に空腹の胃袋を刺激する音を奏でている。
「おっほぉ~っ♪ モグモグ……こ、これは美味いぞ!!」
「(天音……何でオマエもう食っていやがるんだよ!? まだ描写の説明途中なんだぞ。あとその食い方はメインヒロインの行儀じゃねーよ)」
この物語のタイトルに『野生のお嫁さん候補(お嬢様)という読者から既に忘れ去られた触れ込みが実しやかに健在ではあった。そのせいか、まるでタイトル回収のように天音は腐っても『お嬢様兼勇者』だという事を忘れ、食べるためのフォークが来るのを待たずして、器用にもナポリタンに口を近づけそのまま食べ始めていたのだ。
「お姉様だけズルイですわ~。ワタクシも~……ボフッ……あつっ!? な、何!? 何事ですの!? ズルズル……あら本当に美味しいですわね♪」
もはや天然オブザイヤーの殿堂入りの名を欲しいままにする葵ちゃんは、お辞儀をするように寝ぼけながらナポリタンに顔をそのままくっ付けてしまい、そのダイレクトな熱さとナポリタンの美味さによってようやく目が覚めたようだ。
「(葵ちゃん……顔中ケチャップでベッタベタになってんぞ。あとそのまま何事もなかったように天音みたく食べの様は止めようよ……)」
だが、料理を目の前にした葵ちゃんは留まることを知らずそのまま食べ始めていたのだ。
「もきゅ~?」
だが、もきゅ子だけはその食べ方に疑問を持ったのか、可愛く首を傾げるだけに留まっていた。
「(もきゅ子……もうオマエだけがヒロイン最後の砦だわ。……まぁもきゅ子は真似したくても背が低すぎて、山盛りに聳え立つナポリタンに届かないだけだと思うけどな)」
見ればもきゅ子は「きゅ~っ!」っと懸命にその短い足を伸ばしながら、天音や葵ちゃん達の食べる真似をしようとしていたのだ。幸い背も足の長さもまったく足りないため、大事にならず済んでいるのだがな。
「ほんとこの物語の登場人物で、まともなヤツは誰もいやがらねぇのかよ……」
そんな苦言を示すと共に静音さんは食事のマナーだけは守っていたようなぁ~っと、まだ1日すら離れていないのに彼女を懐かしんでしまうのだった。
第184話へつづく