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第177話 お酒は眺めても飲まない……

挿絵(By みてみん)

「お目当ての静音さんは~……っと。あっ、いたいた」


 天音の言うとおり静音さんはずっと酒場に居たようだ。

 誰も居ない酒場で暖炉近くのテーブルに一人ポツンっと座り、右手に持っている酒用の小さく透明なグラスに入ってる液体を傾けたり回したりして遊んでいた。


「(なにやってんだありゃ? もしかして酒でも飲んでんのか?)」

 

 その静音さんの黄昏てる奇妙な行動に疑問を持っていると、


 くいくいっ。静音さんは何故だか空いている左手でテーブル下からオレに向け手巻きをしていた。


 それはまるで「早くこっちに来やがれ! おめえがこっち来ねぇと話進まねぇじゃねぇかよ!」っというような感じに指を『ピロピロピロ~♪』っと小刻みに早く動かし、オレを呼んでいる。


「…………」

(いや、こんなこと女の子に言うのも変だけどさ。普通に気持ち悪いよその動き! もう指なんか早く動きすぎて目が追いつかねぇよ。あんなのずっと凝視してたら絶対目悪くなっちゃうよ)


 オレは自分のお目目を心配するあまり、早々と静音さんの元へと歩いて行くことにした。


「……静音さん。何してんの?」


 とりあえず挨拶代わりにテンプレートとも思える言葉を口にしてみた。


「…………」


 だが、静音さんは何一つ答えなかった。


「そのグラスに入ってるのって……お酒だよね?」


 オレは静音さんがグラスを、いわゆるショットグラスを回し、液体が波のように踊り狂っているモノをお酒だと確信していた。


 別にグラスから『匂い』を嗅いだわけではなかったが、その液体の『光の屈折具合』とその『ゆったりとした動き』から『お酒』なのだと結論付けたのだ。


 そのお酒は一見すれば無色透明ではあるが、粘度があるため普通の水とは違い動きがやや遅いようにオレには見えたのだ。またお酒に含まれている色々な不純物のせいで、いくら精製しようが液体には『粘度』が出てしまう。また光を通す際にもその不純物のせいで水とは違い、光を屈折させる特徴などもあるのだ。


「えぇそうですよ。ですが、よくこれがお酒だと分かりましたね」

「ま、なんとなく……ね」


 オレは自らの洞察で『そうなのだと確信した』とそれに導いたことは言わず、曖昧に答えた。

 オレの何気ない一言が、今後どう未来を変えるか分からないからそう答えたのかもしれない。意識はせず、無意識下での行動である。


「……にしても未成年がお酒なんて飲んでもいいのかよぉ~、静音さん♪」


 オレはそれを誤魔化すため、わざと明るく振る舞い静音さんに問いかける。


「ふふっ。ワタシが未成年(・・・)……ですか。確かにそうかもしれませんね」


 そう答える静音さんは何故だか悲しそうな顔をしてそんな言葉を口にし、言葉を更に続けた。


「ですが、ワタシももう15歳ですので……大丈夫ですよ、アナタ様」

「いやいや、15歳で飲酒はダメでしょうがっ。何好き勝手に言っちゃってるのさ静音さん」


 自由な作風がウリの小説とはいえ、さすがに公の場(この物語の中)で法を犯すこと事柄を支持するわけにはいかないのだ。


「おや、アナタ様知らなかったんですか? この世界では15歳といえば立派な成人として扱われるのですよ。昨日酒場に居た人達を思い出してみてくださいな」

「昨日の酒場の人達って? ああ~あのオレが仲間を勧誘してた人達のことか! 確かに『オレと同じくらいの年齢で酒飲んでるなぁ~』とは思ってたけど、それでもオレ達の世界では20歳(はたち)からなんだからダメでしょ!」


 確かにそれは不思議に思っていたことだった。オレ達のような子供が酒場に来てお酒を飲んでいても誰もそれを咎めようとしていなかったからである。


「ふふっ。アナタ様はモノをよく知らないのですね。基本的に別の国に行けば『自らの国の法』ではなく、訪れた国の法が最優先されるのですよ。だから大丈夫なんです♪」

「へっ? そ、そうだったの? マジで知らなかった……」


 オレは何だか言いくるめられた感覚になってしまった。


「そっかぁ~……。でもそれって国じゃなくて、そもそも世界が違うところでも法が適応されるのかな?」

「えっ!? あ、あー……どうでしょうね? たぶん大丈夫かとは思いますが……ですが、なんだかアナタ様に一本取られてしまいましたね。ふふっ」


 静音さんは自ら口にした言葉に反論されるとは思っていなかったのか、オレの言葉に少し驚くと「これはまいりましたね~」っと微笑んでいた。


「全然まいったって感じの表情じゃないでしょ、そんな微笑んじゃってさ……」

「……ですね。ふっ♪」


 そう言って静音さんは右の口元を少し上げ笑っていた。だが、その笑顔はオレの目から見ても作り笑いだと感じてしまうほど酷い笑顔である。


 何だかいつもの静音さんとは違いアンニュイな雰囲気でとても自虐的にも見える。いつもの彼女なら、きっとオレの言葉尻を捉えて上手いこと反論してくるはずなのに今日は肯定してばかりである


 オレは彼女を心配するあまり、本来質問したかったことを質問できずにいたのだ。そんなオレを察してか、静音さんの方からこう切り出してきた。


「アナタ様……ワタシに何かご用がおありなんですよね?」

「あー……うん。そうなんだけどね……」


 どう切り出してよいのやらと困ってしまう。


「アナタ様が仰りたいことには大よその検討は付いております。ここでは何ですから、とりあえず場所を変えましょうかね?」

「あっ……」


 静音さんはそう言うとオレの返答を待たず席を立ってしまい、酒場の出入り口の方へ一人歩いて行ってしまった。オレはそんな彼女に声をかけ静止させようと右手を伸ばしたのだが、間に合わなかった。


「静音さん……」


 彼女は初めからオレが尋ねて来た理由を知っていたようだ。きっとオレがその答えに辿り着けると踏んでいたのだろう。


 オレはそんな彼女の姿を2度と見失わぬよう、酒場を後にし静音さんの後ろを追い駆けて行くのだった。


 後に残されたのは、未だ一口も口を付けられず、お酒が入ったショットグラスがテーブルの上に残されるだけであった……。



第178話へつづく

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