第176話 何かを聞かれる前に答えれば、それが最大の防衛策
静音さん達2部屋もオレの一人部屋とまったく同じ構造で、テーブルには火が点いたロウソクがあり、違いと言えばベットが2段ベットになっているくらい事ぐらいだ。
「ほらもきゅ子。寒いからオマエは先にベットに戻りな」
「(ふるふる)」
まるでオレの言葉を拒むようにもきゅ子は首を左右に振った。どうやら静音さんが帰ってくるのを起きて待ちたいらしい。
「くしゅん」
「ほ、ほらもきゅ子。そのままだと風邪引いちまうから……っと!」
オレはそう言いながらもきゅ子を抱き抱えるとベットまで連れて行き、先程もきゅ子を起こしてしまったのであろう捲られた毛布の上に静かに置いてやり、そのまま寝かせ首元まで毛布をかけてやる。
「きゅ~きゅ~」
もきゅ子は毛布から顔だけを出して切なそうに鳴いていた。きっと部屋に一人(一匹)でいるのが寂しいのかもしれない。
「大丈夫。大丈夫だから……静音さんはオレが見つけてやるからお前は安心して寝てていいぞ」
オレはそんなもきゅ子を慰め安心させるように頭を撫でてやる。
「きゅ~……(すぅーっ、すぅーっ)」
「……寝たのか?」
もきゅ子はオレが頭を撫で安心させるとすぐ眠りについたように規則正しい寝息をしていた。
ドラゴンとはいえ、もきゅ子はまだ子供なのだ。既に夜も深まっていたし、きっと眠かったに違いない。
「(もきゅ子が寂しがってるってのに。まったく静音さんはどこ行ってるんだかなぁ~)」
もう一人の部屋の主にそんなことを思いながら、もきゅ子が眠る部屋のドアをそっと開き静かに後にした。
「さて……どうしたものか」
静音さんは風呂にも部屋にも居なかった。あと考えられるのは……天音達の部屋くらいかな?
「隣だし、一応聞いてみるか?」
コンコン♪
隣にある天音達の部屋のドアを軽くノックする。
「……居ねぇのか? いや、寝てるだけか?」
中から人の気配はしていたが、生憎と返事はなかった。オレは確認する上でも再びノックをする。
コンコン♪
……がたっ。部屋の中から何かが落ちる音が聞こえてきた。
「……ふぁ~い?」
部屋の中から何かが落ちる音がすると、天音の眠そうな返事が聞こえてきた。
「天音か? 寝てるとこわりぃけどさ……」
さすがに女の子が寝ている部屋を男のオレ自ら開けるような暴挙はしない。
男とは違い女の子には色々な事情があるだろうし、禁忌だと考えての非行動だった。
「ん~っ? 誰だこんな夜中に? ……ってキミか? ふあぁ~っ。何か用なのか?」
天音は眠そうに欠伸をしながら、ノックの主がオレだと分かると単刀直入に聞いてきた。
「ごめんな。いや、静音さんが部屋に居なくてさ。天音んとこには……来てはいねぇよな?」
ドアを塞いでる天音の隙間から部屋の中を窺おうかとも考えたが、葵ちゃんも寝ているはずだし止めることにした。
「ん~静音ぇ~? 部屋にいないぃ~? あ~確か……2階に上がる前、酒場に居たような気がしたぞぉ~……ぐぅ~」
天音は余程眠いのか、そう言いながらドアに寄りかかり目を瞑ってしまい、…いかにもな寝言を口にしていた。
「(いや、寝言ベタすぎんだろうが。まぁでも……これで静音さんの居所は知れたな)」
オレは寄りかかってるドアと癒着しそうな天音に「サンキュー。……あとベットで寝ないとマジで風邪引くから、さっさと戻れや!」っと感謝の言葉を述べ、天音達の部屋を後にした。
「そっか……静音さんは下の酒場にいたのか」
風呂に入る前もまた上がった後にも酒場の前は通ったはずだったが、意識してなかったせいか、まったく気付かないで通り過ぎてしまっていた。
「(まぁまさか酒場にいるとは思わないよね。だってオレ達一応は……高校生なんだもん!!)」
オレはスルーしてしまった事への言い訳とも取れるような設定年齢を口にし、酒場へと向かうことにした。
手元に灯りがあるとはいえ、足元が暗いので夜の階段を降りるのは危ない。そう考え、ゆっくりと階段を降りて行った。
「おや? 兄さんどないしたんでっか? 風呂……ちゅうわけやないですよね?」
先程からずっと玄関ホールで待機していたジズさんが1階に降りて来たオレに声をかけてきた。
さっき風呂から上がった際に会ったからオレが風呂に行くのではないと察しているようだ。
まぁ短時間ですぐさま風呂と部屋とを往復して、行ったり来たりするヤツはそれほどいないだろうしな。
「うん。実はさっきから静音を探してるんだけど、もきゅ子に聞いたら部屋に居ないみたいなんだよね。それで天音にも聞いたら、何だか静音さんは酒場にいるらしいんだ。それで……」
オレは事の詳細を簡単にジズさんへと説明した。
何故なら先程奇妙な行動(カニの横歩き)を見られてしまった手前、言い訳をしておきたかったのだ。じゃないと朝になったらどんな噂話に発展するか分かったものではない。
「あっそやったんですか! 何やら兄さん変な行動してまんなぁ~って、疑問に思ってたところでしたわ! ちゃんとした理由があったんやね」
「あ、ああ……そうなんだよ」
どうやらオレの思惑通り防衛策は功を奏したようだ。
あのまま言い訳をせずにいたらどうなっていたことやら……。そんなことを思ってしまい、若干声と顔を引き攣らせてしまう。
「それやったら、あんまり引き止めても悪いですわな。兄さんすんまへんなぁ~。なら早くいきなはれ!」
ジズさんは用事があるオレに声をかけ、引き止めてしまった事を気にしているようだった。
「いや、いいよ。気にしてないからさ。うん。おやすみ~」
オレはジズさんにおやすみの挨拶を交わすと、すぐ隣にあるまだ明かりがついている酒場へと向かうことにしたのだった。
第177話へつづく