第175話 不審な行動も慣れてしまえば、挽回の余地など存在しない!
「それで……みんなは部屋に?」
「ええ。そうみたいですわ。ワテと一緒に皆さんも戻りましたんで。何やら『腹が裂けるぅ~』とか言うてましたんが、ありゃただの食べすぎでしゃろなぁ~」
「そ、そうなんだ……」
(は、腹が裂けるまでって、どんだけ食いやがってたんだよアイツら!? もしかして今の今までずっと食い続けていやがったのか!? 仮にもヒロインだろうがっ!! 冬眠前のクマじゃねぇんだぞ……)
オレはヒロイン達の妊婦にも負けないほどのぽっこりお腹を想像してしまい、若干引き気味になってしまう。
ジズさんにおやすみとの夜の挨拶を交わして、オレは彼女達の部屋へ訪ねることにした。
タンタンタン♪
「(うん。やっぱ少しでも明るいと気分も違うよなぁ~。建物全体が暗いと、どうしてもゆっくり歩いちまうし)」
建物全体が暗い時とは違い明るいせいなのか、軽快なリズムを刻むように階段を駆け上ってゆく。
「とりあえずは……部屋に戻るか? それからみんなの部屋を訪ねるとするか」
特に理由はなかったが、みんなの部屋に行くよりもまず先に自分の部屋へと戻ることにした。
部屋のドアを開けると風呂に入る前と同じくテーブルのロウソクには火が灯されていた。
「やっぱ明るいと印象だけでなく、部屋の空気感も変わるよなぁ~」
改めてロウソクの火の明るさとその温かさに感謝する。
「ぶっ! や、やっぱり思ってたとおりだわ」
そして先程風呂場でのやり取り通り、オレのベットにも関わらず毛布が盛り上がり占領するヤツがいたのだ。
「ファ~ン♪ ファ~ン♪ ちょこあいすとやら、うまいのじゃ~♪」
「(おっほぉ~。完全に以前サタナキアさんが言ってた『セリフ』と『挿絵』がコピー&ペーストされちまってるじゃねぇかよ。最近作者の野郎め、手抜きにも程があるだろうに……)」
オレは「サタナキアさんを放り出して、作者に苦言を行動と態度で示してやるのもいいか?」とも考えたのだが、生憎とオレにはやることが……いや、逢うべき人がいるので今は捨て置くことにした。
「(でも帰ってきたら覚えてろよ。今日こそはオレのベッド領土は侵させないからな!)」
そんなことを胸に懐き、オレはサタナキアさんを起こさぬようなるべく音を立てずに自分部屋を後にした。
「ふぅ~。人を気遣うってのも大変なもんだよなぁ~。まぁサタナキアさんは『人』じゃねぇんだけどさ」
(何でこの物語の主人公であるこのオレが他人に配慮せにゃならんのかね? それが性分って言ったら性分なんだけどね)
オレはいつも文句を言いつつも、他人に配慮してしまう自分が嫌いじゃなかった。
別にギブアンドテイクっと相手に見返りを期待しているわけではなかったが、いつ自分が困る側になるか分からないし、そのときには例え『プラスになる』ことはあっても『マイナスになることはない』と考えての行動だった。
「(ただし! (例え人外だとしても)女の子に限る話だ・が・なっ!! ドヤ)」
オレは顎のラインに沿って右手を当てつつ、何故のドヤ顔を決めカニのように横歩きをしながら静音さんともきゅ子がいる部屋へと移動する。
「1・2・1・2……っとと。ここが静音さん達の部屋か」
歩数でいえば5歩もない距離だったが、ポーズを取ったままのカニの横歩きは正直……自分でしてても意味がよく理解できない行動だった。
いきなり謎の行動をした自分自身に疑問を持ち、首を左に傾げてしまう。
「(なんだろう……オレ頭おかしいのかな? 傍から見たら不審者に思われちまうよな?)」
オレはそう思い周囲を見回すことにしたが、誰もおらず安心す……っ!?
バッ! ささっ……。
オレは人の気配を感じその方向へと咄嗟に振り向いたのだが、その人物は即座に目を逸らしてしまったのだ。
「(み、見られた!? あっちゃ~、ジズさんに今の奇妙な行動見られちまったぞ!!)」
そうオレの奇妙な行動を目にしていたのは、下のホールでその大きな体を佇んでいたこの宿屋の主ジズさんだった。
きっと頭のおかしいヤツだと思われたはずだが、今更挽回の余地などは存在しないだろう。
オレは気を取り直して静音さん達の部屋をノックする。
コンコン、コンコン♪ コンコン、コンコン♪
まるでキツネの鳴き声のような効果音だったが、間違いなくドアのノック音なのであしからず。
……カリカリッ、カリカリッ。すると少し間を置いて部屋の中から奇妙な音が聞こえ、オレは思わずドアに耳を近づけその音の正体を確認する。
「し、静音さぁ~ん。いるのかぁ~?」
思わず声をかけてしまった。
すると……
「もきゅ~ぅきゅ~ぅ」
「へっ? もきゅ子???」
カチャリッ。静音さんを呼んだはずなのに代わりにもきゅ子の鳴き声が聞こえ、オレは部屋のドアノブを回しドアを開けてしまう。
「あっ、今の音はもきゅ子だったのか! 何でドアを……って、ああそうゆうことか」
「もきゅもきゅ♪」
先程の音の正体はもきゅ子が爪でドアを引っ掻いていた音らしい。ドアを開けオレが顔を見せると安心したように「もきゅ♪」っと喜び鳴いた。
どうやらオレがドア越しに声をかけたからもきゅ子が出てくれようとしたようだ。
けれども、もきゅ子の身長と手の長さではドアノブまでに届かず、猫のように爪で引っ掻いて「開けて開けて!」としたみたいだ。
「……にしても部屋にはもきゅ子だけなのか? 静音さんはどこ行ったんだ?」
部屋の中を見渡せば中にはもきゅ子しかおらず、静音さんの姿はどこにも見えなかった。
「きゅ~っ?」
もきゅ子はオレの問いに答えるように「分かんない」っと、首を傾げ答えているようにも見える。
「静音さんは留守なのか……ほんとどこ行ったんだよ。いや、そもそも部屋に帰ってきていないのかな?」
「きゅ!」
もきゅ子はまるでオレの言葉を肯定するように頷いていた。どうやら静音さんはこの部屋には来てないらしい。
「ちょっマジかよ。まだ外にいんのか? 何やってんだよあの人は……」
もう外は真っ暗でとても灯りなしでは身動きがとれないことだろう。
オレは静音さんの事が心配になり、再び探すことにした。
第176話へつづく