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第169話 拭いきれぬ違和感

「何なんだよ……これは一体?」

(さっきの魔女子さんはオレの正体を知っていたっていうのか? オレの正体は『もう一人の……(しゃ)』だって? それに敵がオレの近くにいる……何より誰も信用するな。それと魔女子さんを殺した弓使い……)


 オレは思考が追いつかないほどの展開に戸惑い、混乱していた。

 そしてたった今魔女子さんから得た情報をまとめる為、思考をめぐらせ考え込んでしまう。


「ぅぅっ……ここは? ……っ!? ま、魔王は!? 敵はどうしたというのだ!!」


 どうやら天音が先程の攻撃より気が付いたようだ。そして状況を逸早く確認するため周りを見渡していた。


「……んんっ……あれ? ワタクシは一体何を……???」

「き……きゅ~っ?」


 それに続くように葵ちゃんともきゅ子も意識を取り戻すと、各々自分の体に怪我はないかと手で触りながら確かめていた。


「(みんな怪我もなく無事だったんだな。もしかしたら魔女子さんは……最初からこうなる事を解っていたのか? だから攻撃の手を緩めてくれたのかもしれないな……)」


「天音。魔王は(・・・)……死んだだろ? それに他の敵も、な」


 オレは静音さんの事を敢えて『魔王』と呼んだ。結局彼女は『魔王』であり、そして敵だったわけだし……だが、何故か釈然としない思いだけが心の奥底で沸き立つのを自覚する。


「そうか……きっとキミが倒したのだな! あっ……いや、すまなかったな。私は勇者なのに何の役にも立てなくて……」

 天音は最初こそ魔王が死んだことを喜んでいたが、それに自分が何の役にも立てず、また静音さんが死んだことを喜んだ自分に恥じたのかバツの悪そうな顔な顔をしていた。


「あ、あの!! お兄様が(・・・・)魔王を討伐した(・・・・・・・)のなら、とりあえずは街に戻りませんか? 色々あるでしょうし……」

「きゅ!」


 葵ちゃんは街へ戻ろうと提案してきた。またもきゅ子もそれに賛同するように頷く。


「うむっ! そうだな!! 葵の言うとおりだぞ!! キミは勇者であるこの私ですら成し遂げられなかった『あの魔王』を倒したのだから、胸を張って街へと帰ろうではないか!」

「そうだな……うん。街へ帰ろう……」


 オレはみんなに言われるがまま、街へ帰ることに賛成した。


 そうしてオレ達は当初の目的である『魔王を討伐』を間接的に成し遂げることができた。

 街へ向かう途中、オレの姿を見た天音から「なんだキミ、そんな血だらけで……もしかして怪我をしたのか!? この場で治療をしなくてもいいのか!!」っと激しい剣幕で言われたが、「オレの血じゃねぇよ……」っと言うと「ああ……魔王のヤツのか」と納得をした。


「…………」

(これは一体どうゆうことなんだ? 天音も葵ちゃんもそしてもきゅ子も、魔王が……静音さんが死んだって言うのに、何でこんなに意気揚々としているんだよ? まるで静音さんが死んだことを心の底から喜んでいる感じだぞ。……おかしいよな? 何かが……)


 オレはこのとき、天音達の態度から得も言えない拭いきれぬ違和感を感じて取ってしまっていた。



「「わーわー♪ パチパチ、パチパチ♪」」

「「「勇者様そしてご一行様! 魔王討伐おめでとうございまーす♪」」」


 城を出てすぐ目の前にあった街に入ると街の人達が今か今かと全員で待ちわびており、大歓迎で魔王討伐を見事果たしたオレ達を割れんばかりの歓声と拍手で歓迎してくれていた。


「おおっこれは凄いな!! まるでこの世界すべての人が集まっているようだぞ!」 

「本当に大勢の人達がワタクシ達を歓迎していますわね♪」

「きゅ~きゅ~♪」


 天音達はその人の多さと騒がしいほどの歓声に応えるように、手を振ったりお辞儀をしたりしていた。


「…………」


 だが当のオレはというと、無言のまま俯くだけで正直何もする気にはなれなかった。


「兄さんら、ついにやりましたんな! まさか兄さんらだけで魔王を倒せるとは、ワテも思っていませんでしたんで!! 姫さんもよく頑張りましたなぁ~♪」


 ジズさんがオレ達に向けてそんな祝福の言葉をかけてくれる。


「んだんだ。まさかおめえらだけで魔王さ、倒しちまうなんてオラもビックリしちまったぞ。な! クマB、おめえさもそう思うだろ?」

「コクコク(ほら、ハチミツ)」


 歓迎している住人の中には、あの農夫のおっさんと何故だかクマBもハチミツを差し出し、オレ達を祝福しに駆けつけていたみたいだ。


「そうさね! あたいはいつかやる! とは思ってたけど、まさかこんなに早く倒しちまうなんて思いもしなかったさね!! アンタもそうじゃないかい、ジャスミン?」


 アリッサもオレ達に祝福の声をかけに来てくれたのだ。そしてアリッサはジャスミンへと話を振る。


「うん、そうだねアリッサ! でも……あれれ? お兄さんは一体どうしたの? お兄さんだけ何だか暗いようだけど……」


 ジャスミンは魔王を討伐して喜んでる最中、オレだけが落ち込んでいる様子が気になったようだ。


「う、ん。実はな、ジャスミン……」


 ジャスミンのそんな問いにオレは歯切れの悪い言葉を口にし、沈黙してしまった。


「(そんなのこの場で言えるわけねぇよな? 実はオレ達の仲間の中に魔王がいた……なんてさ。今度はオレ達が標的になっちまうかもしれねぇし)」


 オレは静音さんの正体が実は魔王だったっという理由を話すべきかどうか迷っていたのだ。


挿絵(By みてみん)

「おや、アナタ様どうかされたのですか? (もぐもぐ)顔色が随分お悪いようですが、お腹でも痛いのですか? (ごくん)あっなら、これ食べますか?」


 っと静音さん(・・・・)は宴用に用意されていた骨付きの鶏肉を頬張りながら、「オマエも食べろ」っと自分の食いかけを差し出してきた。

挿絵(By みてみん)

「いやいや、体調悪いって分かってるのにそんな脂っこいもの勧めてこないでよ、静音さん(・・・・)


 オレは静音さんにそう言って断りを入れた。


「あっ、そうでしたか? なら豚の丸焼きでも取ってきて差し上げますから……」


 静音さんは鶏肉を咥えながら、テーブルに用意してあった豚の頭が乗ったステンレス製の大皿を持って来ようとしていた。

挿絵(By みてみん)

「いや、そんなのもっと脂っこいじゃねぇかよ……」

(豚の頭がデデーン♪ っと皿の真ん中に鎮座してる姿は、さすがにシュールすぎんだろ。あれって食べるところあるのかよ? 大体ここは道の真ん中ってか、魔王城の真ん前なんだぜ? 大丈夫なのかよ……って、んっ??? オレは今さ、誰と会話してたんだ? ……っ!?)


 そこでようやくオレはその人物に気が付いたのだ。


「って静音さん!! アンタが何でここにいるんだよ!! 死んだんじゃなかったのかよ!? 傷は!! あのとき剣で何箇所も刺されただろ!! 大丈夫なのかよ!!」


 オレはいきなり登場した死んだはずの静音さんがここにいる事に驚き、そして胸の傷を見せるようにと静音さんの衣服に手をかけた。


「あああ、アナタ様!? な、何をなさっておいでなのですか!? ちょ、そんな服を掴まないで下さいよ!!」 


 静音さんは必死に抵抗しようとしていたが、両手には生憎と豚が乗った大皿を持っていて、オレの成すがままだったのだ。


「はぇ~……お兄さん達、まだ昼間なのに……意外と大胆なんだね!」

「ほんとだよ! 魔王を討伐して興奮する気持ちは分からないでもないけどさ、何もここでおっぱじめなくても良かったんじゃないのかい!! そうゆうのは二人っきりの時に、ベットでするもんさね!! (照)」

「兄さんもなかなかやりまんなぁ~♪」


 魔王討伐を歓迎するために集まった住民達は、好奇な目でオレと静音さんを見物をしていた。


「あっ……わ、わりぃ。つい興奮しちまって……」

「いえ。大丈夫ですので」


 オレは周りに人がいる事に気付き、ふと我に返ると服を引っ張ってしまったことを静音さんに謝る。


「き、キミっ!! いくら静音の事が好きだったとしても、そうゆうことは夜すべきことだぞ! そ、それも外で始めるだなんて……ぽっ」

「お兄様! カメラの準備が出来ましてよ♪ はぁはぁ」

「きゅ~きゅ~!! (ちらちら)」


 こちらもこちらとて、勘違いの度合いでは住民達に負けてはいなかった。


 天音も葵ちゃんも少し興奮気味で興味津々っと言った感じ。もきゅ子に至っては「そんなエッチな事はダメなんだよ!」っと怒りつつも照れながら、顔を手で覆う素振りをしていた。だが、もきゅ子は手が短いせいか目を覆うに至らなかった。

挿絵(By みてみん)

「いや、それよりも!! 静音さんはあの魔女子さんに剣で刺されて死んだはずだよな!? 何で無事なんだよ!?」


 オレはようやく本題に入ることにした。


 そう死んだはずの彼女が何故だか生きてオレの目の前にいて骨付きの鶏肉を(むさぼ)っていたのだ。これを驚かずにして何を驚くというのだろう?


「うん? キミはほんとにおかしなことを言うのだな。静音なら体調が悪いからと、そもそも最初から街に残った(・・・・・・・・・)ではないか?」

「はっ? 最初から……街に? 天音、オマエ何言ってんだよ? 静音さんはオレ達と一緒に魔王の城に行ったはずなんだぞ!? それをよくも抜け抜けと……」


 オレは天音がトチ狂ったことを言い始めたので、すぐさま否定した。


「ほぇ? お兄様……静音は宿屋に残ったではありませんか? 今朝のことを覚えてらっしゃらないのですか?」

「もきゅもきゅ」


 天音だけでなく、葵ちゃんともきゅ子まで頷きながら口を揃えて「静音さんはそもそも魔王城には言っていない」っと否定していたのだ。


「いや、でも……確かに……」


 オレはみんなに否定されてしまい、頭が混乱してしまう。


「じゃあ……ジャスミンやアリッサはどうなんだ? 静音さんは宿屋にずっといたのか?」


 オレは仲間以外の街の住人である、ジャスミンとアリッサに聞いてみることにしたのだ。だがしかし、その答えはオレが望む答えとは異なっていた。


「うん! 確かに静音さんは宿屋にいて、それからボクが『宴の料理を作らない?』って誘ったからよく覚えているよ」

「そうさね。あたいも一緒に料理を手伝ったから、それだけはよく覚えているよ。この子ったら、料理が出来た端から『味見だなんだ』とか言って、何も作らず摘み食いばかりしやがってさ、あたいが叱り付けてやったのさ!」

「えっ? い、今の話本当……なのかよ……」 


 オレはその言葉を聞いて疑ったが、こちらも口を揃えて「料理を作るのを手伝ってもらった。しかも何も作らず摘み食いまで正直迷惑だった……」などと静音さんが酒場にいたことを証言した。


「…………何なんだよ、これは?」

(静音さんはオレ達と一緒に魔王城へ行ったんだよな? そして剣で刺されて『死んだ』んだ。なのに、オレ以外の人間は『静音さんは街にいた』っと言っている。これはどうゆうことなんだ? オレの頭がおかしくなったのか?)

 


 そんな拭いきれぬ違和感に苛まれつつ、第170話へとつづく

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