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第165話 赤い髪はメインヒロインの証!!

 ギィィィィーッ。

 静音さんが『王座の間』の両開きの扉を開け放つと、ドア特有の音が鳴らされ、そして魔王がいるはずの王座の間がオレ達の前に顔を出した。


 王座の間に着いたのだが、そこは広々な空間の真ん中に一つの王座があるだけで、てっきり魔王が待ち構えているのかと思ったのだが、生憎とそこは空席だった。

挿絵(By みてみん)

 その部屋は王様がいるはずの『王座の間』というよりは、いかにもな雰囲気を醸し出し、どちらかといえば『魔王の間』っと呼んでもいいくらいだろう。

 部屋の中は全体的に薄暗く、壁際にはたいまつか何かなのか炎が掲げられ、王座もまた黒ともグレーとも言えぬ色で作られていた。


 そして王座の手すり部分には水晶のような物が左右にあり、また上部にはガーゴイルをあしらったであろう置物も左右対象に設置され、更に上には王座から魔族の羽のような物が生えていた。



「なんだこの部屋には誰もいないではないか! もしかして魔王は我々が来ることを予見して、急ぎトイレにでも駆け込んだのか? まったく情けないヤツなのだなぁ~♪ あっははははぁ~っ♪」


 天音は誰も居ない事に拍子抜けしたのか、そのように言い退け高笑いをしていた。


「そうなのですね! まったくもう~、魔王さんはお茶目な人なんですわね♪ ふふふっ♪」

「き、きゅ~っ?」


 天音同様に葵ちゃんも同じように緊張の糸が切れたのか、今は居ぬ魔王に対してそのような感想を述べ微笑んでいた。

 だが、そんな二人とは対象的にもきゅ子は「ほんとうにそうなの?」っと疑問に思っているらしく、二人を交互に見ると首を傾げオレの方を見てきた。


「(今の気持ちは痛いほどに分かるぞ~、もきゅ子よ。オレもオマエと同じ気持ちだもん。むしろここに来て、そんなのんびりとした感想を言いながら笑ってる二人がおかしいんだもん!)」


 オレはもきゅ子の思っている事に賛同するように頷き、そして隣にいるあの人の方に目線を移したのだったが、何故かそこにいるはずの静音さんの姿はなかったのだ。


「一体静音さんはどこに?」そんなことを思い、探そうとすると静音さんは天音の傍に居た。

「いつの間にそこに移動したんだ?」っと、彼女に声をかけようとしたのだが、次の行動でオレは言葉を発する機会を失ってしまう。


 コツコツ、コツコツ……。

 オレ達の中から、その誰かが王座に向けて歩き出した音だけが響き渡っていた。


 その人物とは……


「し、静音さん!!」


 俺は既にその答えが解ってるのにも関わらず、その歩みを静止させるため彼女の名前を呼んだ。

 だが、静音さんは俺のその問いかけに応えもせず、また一切振り返りもせずにそのまま王座へと向かうと、クルリとオレ達の方を向いたまま王座へとゆっくり腰を下ろした。


「…………」


 王座に座っている静音さんは俯き、その大きめの帽子せいで顔がよく見えない。


「うん? 静音のヤツは一体どうしたのいうのだ!? まるで自分の椅子のように『魔王の王座』に腰を下ろし座っているが……もしや、いつものおふざけでもしているつもりなのか!? はぁ~まったくしょうがないヤツなのだから……おい静音! 我々は魔王討伐に来たのだぞ!! いつまでも遊んでいるんじゃない!!」


 天音が呆れながらにそう怒鳴りつけると、静音さんはその顔をゆっくりと上げた。

挿絵(By みてみん)

「っ!?」


 顔を上げた静音さんはニヤニヤと笑い、左の瞳が青から赤へと変化し、また髪も黒髪(・・)から……天音と同じ赤髪(・・)へと変化していった。


 これは既に解っていたことだが、静音さんは……。


「静音さん。実はアンタが()お……」

「おい静音っ!! ま、まさかオマエが……オマエが魔王だったというのか!?」


 本来ならオレが言うべきセリフを天音が先に叫んでしまったのだ。


「(おい天音!! オマエもうちょっと空気読めや!! 何でこんなシリアスな雰囲気でさえも、この物語の主人公であるオレの邪魔しようとしやがるんだよ!?)」


 まぁ天音も腐ってもメインヒロインなのだから仕方のない事柄であろう。……オレの出番を潰しにきてるわけじゃないよね?


「そ、そんな!? し、静音が魔王だったなんて……」

「きゅ~きゅ~」


 葵ちゃんもきゅ子も静音さんが魔王だった事実を知ると、「嘘だろ……」っと愕然とした表情を浮かべショックを隠しきれない様子。


「(いやいや、今の今まで『静音さんが魔王だった』ってのは、何度も何度も前フリしてんだぞ! 何でみんなして『さも初めてです!』って感じで驚いてやがるんだよ!? オレか? オレだけがおかしいのか?)」


 オレはこの茶番劇場に嫌気が差しつつあったが、自分の与えられた役柄を演じ続けないと終わりが訪れないと悟り続けることにした。


「(はぁ~~っ)やっぱり静音さんがこの世界の魔王様だったんだね……」


 オレは深い溜息をつきながらも自分のセリフを述べる。


「おやおや、これはこれは……。ワタシの正体に気付いていたのは、どうやらアナタ様だけのようですね! ふふふっ」


 静音さんも静音さんで白々しいほどのセリフを述べ、そんなやり取りがおかしいのか少しだけ笑っていた。


「な、何ぃ~っ!? キミは静音の正体に気付いていたというのか!? なら、何でもっと早く言わないのだ!!」

「そうですわよお兄様!! 知っていたなら教えてくれてもよろしかったのに!!」

「もきゅもきゅ!!」


 まぁこれは予想できたことだったが、思惑どおり正体を教えなかったことについてみんなから責められてしまい、唯一オレにできるのは……


「…………ごめんなさい」

(いやいや、何度も言ってるからな!! オマエらがちゃんとオレの話を聞いてくれないのが原因だろうがっ!!)


 オレはそんな憤りを感じつつも、感情なくただ謝ることしかできなかったのだ。


「ふふふっ。アナタ様達はこんなときにでもいつもどおりなのですね。さてさて、その余裕がいつまで続くことやら……」


 静音さんはまるでオレ達を試すよう笑いながらそう言った。


「いや、オレとしては最初からシリアスな……」

「そんなものは静音! オマエ気持ち次第ではないのかっ!! どうだそのとおりであろう! 違うと言うのか!?」


 天音は静音さんのその問いに対して、まるで反発するようにそう言い退け腕を組み踏ん反り返った傲慢な態度を示していた。


「…………」

(……ごめん天音さん。何その開き直り方は? そんな逆切れの仕方初めて体験するわ!!)


 またもや天音に良いところを掻っ攫われ、オレのセリフは途中なのに飛ばされてしまうのだった。


「…………あははははっ。そう! そのとおりですよね天音お嬢様っ!! あなたの仰るとおりですよね! くふふふふっ」


 静音さんは始め天音の物言いに対してきょとんっとしてしまい、目をまん丸にして何度も瞬きをしながら驚き口も開かなかったが、突如として笑い出し天音の言い分に賛同するように肯定した。


「(まぁ静音さんの驚きや言った事も理解できるんだけどね。それで賛同……というか、妥協しちゃ1番ダメなところじゃねぇのか?)」


 そんなオレを尻目に天音は言葉を続ける。


「それに大体静音の赤髪は何なのだ! オマエは不良にでもなったというのか!? そんな派手な色では即校則違反になってしまうのだぞ!! 静音……オマエはそれでもよいというのか!!」

「そうですわよ静音! アナタはそんな派手な色した髪のヒロインが、本当に現実で存在すると思っているのですの!? そんなのは『アニメ』や『ゲーム』のみのヒロインだけですのよ! いい加減目を覚ましなさいな!」


 天音と葵ちゃん双子コンビはこんなときにも関わらず、何故だか静音さんの髪の色について言及していたのだ。


「(度々ごめん、天音と葵ちゃん。それは絶対にお前等が言うべきセリフじゃねえだろうがっ!! もし静音さんの赤髪がダメなら、お前等の赤髪や白髪だってダメに決まってるし、そもそも『魔王を倒して世界を救う!』ってときに校則違反なんて些細なモノじゃねぇかよ。……あと葵ちゃん、何でアニメとゲームのヒロインのみに限定しやがった? この作品はそもそも小説(ラノベ)なんだぜ! 自分が出てる作品ジャンル自体を否定しやがるなよ……)」


 もはやオレには何が正しくて何が間違いなのか、またシリアス展開と茶番ってもしかして同義なんじゃねぇか? ……っと疑問に思ってしまっていた。


「きゅ~(すぅ~)きゅ~(すぅ~)」

「(ほら見ろよ。もうもきゅ子なんか退屈して昼寝してやがんぞ! これが最初で最後の戦い(ラスボス戦)だっていうのにな!!)」


床ですやすやと規則正しい寝息をたてているもきゅ子を尻目に、オレ達の茶番展開はまだまだ続いてゆく。


「ふふふっ。皆様はワタシの髪が黒から赤へと変わった理由を聞きたいのですね。ええ、いいでしょう。それならばその理由を今からお(おし)えいたしますので……」


 静音さんは天音と葵ちゃんの物言いをそのように解釈して、答えようとしていた。


「……いや、ちげえからな! 肝心な問題はそこじゃねえんだよ!!」


 オレは「何故静音さんの正体が魔王だったのか……」ってのを言及しようとしたのだが、静音さんはそれを避けるように髪の色が変化理由について語ろうとしていた。


「『赤い髪はメインヒロインの証』……っとの言葉を知っていますか? ラノベに限らず、アニメ・ゲームでは往々(おうおう)にして赤い髪を持つヒロインがおります。そのほとんどがメインヒロインの役柄(ポジション)を得ているのです。つまり……赤い髪へとなれば誰でも『メインヒロイン』に成る事ができてしまうのです!」

「は、はぁ……」


 オレは静音さんのその言い分に呆れてしまい、生気のない返事を返してしまう。


「(え~っと、要約すると静音さんは自分がメインヒロインになりたいから、赤い髪になった……っと? そうゆことなのか!? おいおい、マジかよ……)」


 オレはそんな理由で静音さんが魔王になっていたとは夢にも思わず、やや呆れ顔をしてしまうのだったが、当の静音さん本人は更に言葉を続けていた。


「そこでワタシはですね。魔……」

「へぇ~♪ アンタにしてはたまには良いこと言うじゃない……の!」

挿絵(By みてみん)

 ズシャッ。

 どこからともなく、そんな声と奇妙な音が部屋の中に響き渡って聞こえてきた。オレはどこから聞こえてのかと部屋中を見回してみたが、反響からどこが音源か判らなかった。

 だが、そんなとき静音さんの方から変な声が聞こえオレは正面に向き直すと、そこには信じられない光景が広がり、それを目にしてしまった。


挿絵(By みてみん)

「……ごふっ……ぶ……は……っ」

「(ごくりっ)……しず……ね……さん?」


 オレはその光景を見た瞬間生唾を飲み込み、彼女の名前を呟いた。見れば静音さんの胸元からは剣が生え……いいや、静音さんは背後から剣で貫かれていたのだ。『ぽたぽた、ぽたぽた』っと静音さんの胸からは血が(したた)り、メイド服を濡らし王座へ床へと少しずつ広がっていた。


「し、静音さん!! 静音さん!!」


 オレは状況が理解できず、ただ彼女の名前を叫ぶことしかできなかった。


「ぶっ……だ、大丈夫……ですよ……ア……ナタ様ぁっ……ワタシな……ら、ごほっごほっ、だ……丈夫……ですので……」


 静音さんは口から血を吐きながら、顔色の悪い笑顔でオレにそう語りかけてきた。


「へぇ~~~。背中を剣で刺されて大丈夫……ねぇ~~~っ!! ならこれはどうなのよぉぉぉっ!!」


 ブシャッ、ブシャッブシャッシャッ!

 その言葉に合わせるように剣を何度も抜いたり刺したり……っと繰り返され、静音さんの胸元からは大量の血が止め()なく溢れ出していた。それも何箇所も何箇所も、時にグリグリっと剣で(えぐ)られていた。

挿絵(By みてみん)

「……ご…ふっ……あ、……アナタ……さ……ま……アナタさ……ま……」


 静音さんはまるで助けを求めるように、オレの名前を呼び右腕を伸ばしてきた。必死に右手を伸ばすが、後ろから剣で刺されているため、その距離は数センチも縮まらない。


「アンタ……やっぱりコイツのことが好きなんじゃないの!! ……ったく、も~うほんっと、これ以上のラブコメは勘弁してよね、っと!!」

「ぐふっ……」


 今までよりも強めに剣が差し込まれたせいか、静音さんは痛みに耐え切れず意識を失うように前のめりとなったが、剣が支えとなり倒れることを許されない状況。


「ふ~ん。ま~だ生きてるんだ。へぇ~へぇへぇ~っ、すごいすごい! アンタってやっぱりしぶといんだね~」


 その声は最初楽しげでもあったが、最後はまるで恨みでも込められたような呪いの言葉にも聞こえてしまった。声から察するに若い女でその姿は静音さんが影となり、よくは見えなかった。だが、声と容姿から『女』であることは判る。


「静音大丈夫なのか!!」


 天音が一歩前に出て静音さんの元へと駆け寄ろうとしていたが、その声の主の行動で遮られてしまう。


「ふん! アンタもそんなにこの子が心配なの? なら……っと!」


 静音さんの胸元を貫き支えていた剣が、その言葉と同時に勢い良く抜かれると、静音さんはゆっくりと前のめりに倒れこみそうになっていた。

「このままでは静音さんが階段から転げ落ちてしまう!!」そう思い天音と同じくオレも駆け寄ろうとしたのだったが、その女は倒れゆく静音さんを「うっとおしいのよ!」とまるでゴミでも扱うように蹴り飛ばした。


「ぐはっ!! ……がっ……がほっがほっ……がっ!! ごほっごほっ」


 静音さんはその衝撃で階段から転がり落ち、刺された痛みから胸を押さえ、呼吸するたび口から大量の血を吐き出し、もがき苦しんでいた。そう……オレの目の前で、だ。


「静音さん!! 静音さん大丈夫か!!」


 オレは目の前の静音さんに駆け寄ると、抱き起こすように抱きかかるが……刺された腹からは血がたくさん溢れ出し、口からもとめどなく血を吐き出していた。

 これでは誰の目に見ても……もう静音さんは助からないだろう。


「静音さん!! 静音さんしっかりしろよ!! い、今、今すぐに回復草使ってやるからなっ!!」


 素人目に見ても、静音さんほどの傷口ではもう何をしても手遅れなはずだ。……だがオレは諦めきれず、ポケットに忍ばせていた回復草を必死に静音さんの傷口に当てるが、血はまったく止まらない。これくらいでは血が止まるはずがないのだ、既に何回も剣で刺され、黒いメイド服にはベッタリっと静音さんの血が滴り落ちているほどなのだ。


「回復草とかw アンタ、ばっかじゃないの(笑) そんなもんですぐに血が止まるかってーの、ばーかばーか。きゃひひひひひひ」


 その女は奇妙な笑い方で、必死に手当てするオレを小馬鹿にするようにそう言い放った。


 そして何を思ったか、(おもむろ)に剣に付いた静音さんの血を指で挟み込むように拭うと、自分の髪へと塗りたぐり始めた。


「赤い髪はメインヒロインの証! 赤い髪はメインヒロインの証ぃ~っ!! そうよ、そうなのよ。赤い髪はメインヒロインの証なのよ!! 赤い髪は……」


 ……っとまるで呪文……いや呪詛(じゅそ)のように、静音さんが言った言葉を繰り返し呟いていた。


「お前は一体『何者』なんだ!! 何故静音を剣で刺したのだ!!」


 天音が怒りに狂い、その女に対して問うようにそう叫んだ。そしてその女はまるで当然と言った感じにこう言葉を口にした。


何者(・・)って、私は……メインヒロイン(・・・・・・・)よ。アンタと違って……この物語の本当の(・・・)……ね。きゃはははははっ」


 天音の問いにその女は狂い笑いながらも、そう言い退けたのだった。



 第166話へつづく

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