第163話 Dead or Tsukkomi ~死ぬか、突っ込むか~
「おや、これは……静音ではないか?」
「はっ? 静音さんて?」
「ん???」
オレは天音のその言葉が理解できず、聞き返してしまう。
そもそも彼女はオレの隣にいるのだから、天音のその言葉は少し変なのである。
また静音さん本人もいきなり名前を呼ばれ「一体何の話ですか?」というような表情をして、オレと顔を見合わせていた。
「ほら、これだ。この張り紙を見てくれ!」
そう言って天音は、玄関ホールの壁に貼られていたその張り紙を指差した。
そこにあったのは『今週の爽やかさん♪』っと題された張り紙がされていたのだ。
しかもご丁寧にも「ニッ♪」っと満面の笑み全開中の静音さんの写真付きである。
「おやおや、これはこれは……まいりましたねぇ~♪」
「…………何がだよ」
全然まいった風じゃない静音さんのその態度。そんな彼女に対してオレは、呆れるよう短い言葉を口にしてしまう。
「きっとアナタ様は、ワタシ一人が載ってる事にご不満なんですね!」
「いや、全然ちげぇからな。別にオレも目立ちたいとかじゃないからさ。どんだけ盛大な勘違いしてやがんだよ……」
「はい♪ それではアナタ様、こちらをご覧下さいませ♪」
「こちらって、どれの話だよ……って、おおう!? なんじゃこりゃ!?」
オレは静音さんが言うがままに、その隣にある張り紙に目を向け驚いてしまう。
そこに貼られた張り紙には、静音さん同様別の写真が張られており、その写真の人物は紛れもなくオレだった。
「(いつこんな写真撮りやがった……ってか、いつこんな手配書作りやがったんだよこのクソメイドは!!)」
オレはその写真にツッコミを入れ前の下準備として、静音さんに前フリをする。
「ちょいとそこで笑顔で佇む静音さんや。この壁に張られている紙は、一体なんでございましょうかね?」
オレは、きっとこれを作成し壁に貼り付けた張本人、静音さんに丁寧語でそんな風に質問してしまう。
「いや、なにってアナタ様(笑)。そりゃ~そのまま書いてあるとおりですよ♪ まぁ俗にいう手配書ってヤツでしょうが。見て分かんないんですか(笑)……ね!」
静音さんは懇切丁寧にそう受け答えをしてくれた。
「……ね! じゃねぇよ。んなもんは見りゃわかんだろうが、このクソメイドっ!! 何でその手配書とやらに、勝手にオレの写真が貼り付けてあるかってのも問題だし、そもそもその『懸賞金額』自体があまりにも安すぎるだろうがっ!!」
そうその手配書にはオレの懸賞金額が書かれていたのだ。
しかもなんとなんとその額は……『$-5シルバー』と記されていたのだ。
「(大体何なんだよその-って表記は!? 『もしこの男を捕まえたら、金払いますぅ~♪』じゃなくて、捕まえてきたら逆にソイツから金奪うつもりのかよ!? そんなの意味分かんねぇ……。あとその上に書かれてる謳い文句もな! 『Dead or Tsukkomi』大体なんだよ、直訳して『死ぬ』か『ツッコミ』か……って、そもそもその問いかけはおかしいぞ。オレはツッコミをしないと死んでしまう生き物なんですかね? マグロチックなんですか!)」
オレは今持てるすべての力を使い、『ボケ』『ツッコミ』『ノリツッコミ』その3つを幾重にも重ねたコラボレート、その究極奥義である天丼を披露してしまう。
「まま、アナタ様の言いたいことは理解できますが、ぶっちゃけ面倒なのでこの際無視させていただきますね♪」
「お・い・っ!!」
静音さんはそう言うとオレが怒り静止させるのを無視しながら、本当に先へと歩き進めてしまったのだ。
「(振るだけ振っておいて、その無視はないんじゃないか!? ってかほんとに先行きやがったし、あのクソメイドめ!!)」
スルー推奨作品に変貌しつつ、第164話へつづく