第162話 ようこそ!エルドナルド城へ!……えっ?お城じゃなくて、静音さんのおウチなの?
「こらキミ、もっと静かにしないか! 既にここは魔王が住むお城なんだぞ! いつ敵に見つかり総攻撃を受けるか分かったものじゃないんだからなっ!!」
「何にもしてねえのに、オレが怒られるのかよ……」
「さ、アナタ様のことは放って置いて、お嬢様方先へ進みましょうかね♪」
あまりにも理不尽すぎる天音の言い分である。だが、オレに反論の機会を与えないまま、静音さんはみんなを先導するように先へと進んでしまった。
「(おい! 平気で主人公のオレを置いて行くのかよお前らはヒロイン共は!?)」
そんな心の思い虚しく、本当に置いていかれてしまったオレは、先へと急ぐヒロイン共の後ろに付いて行くしかなかったのだ。
「おおっ! これは何とも立派な橋があるではないか!」
中庭を抜けると、そこには開閉式の吊り橋が設置されており、下には川が流れていたのだ。
また正面の城門には鉄格子が備わっており、今現在は上へと上げられ、まるでオレ達が来るのを待っていたように開城されていたのだ。
お城だからこちらの方が立派であるが、街門にあったのとほぼ同じであった。
「おいおい、既に門が開いてやがるぞ。ほんと大丈夫なのかよ?」
通常ならば門は閉まっているはずなのだ。何故ならこの城は『魔王城』だからである。
そんな事は理由にならないと思われるだろうが、門が開城しているならそれを守る護衛兵がいるはずだからである。
けれども、いくら周りを見渡しても魔物の姿はどこにも見えなかった。
いや、そもそもこの城に入ってからというもの、怪しい影どころかその音すら何も聞こえてこないのだ。あまりにも怪しい状況である。
「ふむ。どうやらここに立て札があるようだぞ! これはもしや……城の名前か!?」
「マジかよ!? ……ってか、確かこの城の名前は『エルドナルド城』だったよな?」
オレ達がお城の入り口付近に差し掛かると、何故かその前には木で出来た立て札が立てられていたのだった。
そしてそれは忘れるはずがない名前である。それはオレが初めてこの世界に来て洗礼を受けたとき、門番のおっさんに教えられたことなのだから……。
そんな事を思いだしながら、オレもその立て札とやらを覗いて見る事にした。……すると、
「ぶっ!!」
なんとなんと、そこには『エルドナルド城へ』と書かれている文字が赤斜線で訂正され、静音さんの名前までもがしかと刻まれていたのだった。
「(いやいや、立て札にこんなリスが乗ってるのもファンシーすぎるけど、それ以上に静音さんの名前に訂正されてるのも、あまりにもシュールすぎんだろう。ってか、これで天音達も静音さんの正体に気付いたんじゃねぇのか!?)」
オレはそう思い、そっと天音たちの様子を盗み見た。
「ふーん。この立て札には静音の名前が書かれているが、これは一体どうゆうわけなんだ? もしかして……」
「うんうん」
オレは肯定するように、首を前後に振り回し相槌を打つ。
「静音!! アナタがまさか……」
「き、きゅ~っ」
葵ちゃんともきゅ子も、既に気づいているような言い回しをしてショックを隠し切れていない様子。
「(まぁ。もきゅ子は悲しそうに鳴いてるだけなんだけど……)」
「ああ、それはですね……」
「(どうする静音さん!! ここから言い訳できるのかよ、アンタは!!)」
オレは「もしかしたら、この場で戦闘が始まってしまうのか!?」っと、その恐怖から目を瞑ってしまう。
だが、そんなオレのお目目の瞑り、クローズアイズは杞憂に終わってしまう。
「実はこのお城は売りに出されておりまして、それをワタシが買い取っただけのお話なんですよ、お嬢様方♪」
「は……はぁっ!? そんな下手な嘘、誰が信じる……」
「そうだったのか! ふむ。てっきり私は静音が魔王軍に寝返ったものと勘違いしてしまったぞ!」
「そうよ! ワタクシも静音が魔王軍の仲間入りしてしまったかと思ったのよ!」
「きゅきゅっ!」
「(はい。いつものようにテンプレが如く、オレ以外の全員がしっかりと信じましたよー。しかも静音さんが『魔王に近しい存在』ってニアミス感満載でね!! もうそこまで辿り着いたら、天音も葵ちゃんも静音さんの正体に気付こうぜ!)」
だが、そんなオレの思いも虚しく、誰一人として静音さんのその『嘘』に気付くものはいなかったのだ。
そしてそのままオレ達は入り口を通り、魔王城を拝見する事となったのだ。
「(おい! ついに表記もおかしくなってやがるぞ!! 『魔王城』と書いて『静音さんのおウチ』なんてルビ振りで読ませてんじゃねぇよ!!)」
<エルドナルド城・玄関ホール>
「へぇ~。当たり前だけどさ、中もちゃんとしたお城みたいな作りになってるんだな~」
入り口を通り城の中へ入るとまず、大きな広い空間の玄関ホールが顔を覗かせた。
また床や階段には色鮮やかでいかにも高そうな絨毯が敷き詰められ、天井にはいかにもなシャンデリアがいくつも吊り下げられていた。
他にもロウソク台がたくさん置かれ、また壁には色々な絵やいかにもお城にありがちな、偉ぶっている人物の肖像画などがたくさん飾られていたのだった。
第163話へつづく