第161話 ダブル様様のお城
「静音さん、ほんとにアレがオレ達の最終目的地……『魔王城』だったって言うのかよ!?」
オレは街中で一際大きく街そのものと言っても過言ではないエルドナルド城を指差しながら言った。
「はい♪」
まるで付け入る隙を与えないかのような静音さん満面の笑み。反論の余地がないとは、まさにこの事を指す言葉なのだろう。
「そうか。あれが我々が目指すべき『魔王城』だったとは……まさかこのような街中に隣接しているとは、さすがの勇者であるこの私も驚いたぞ!!」
「(まぁオレも天音じゃないけど、まさかまさか最終目的地が、街中にあるとは思ってもいなかったけどね。……ってか、天音。何でお前そんな嬉しそうにしやがってんだよ!!)」
天音はその事実に大層驚いていたが、むしろ顔は喜んでいたのだ。
「あれが魔王城なのですわね~♪ とてもおっきいわねぇ~♪」
「きゅ~♪」
葵ちゃんともきゅ子も指差されている魔王城を見ながら、そんな素朴で暢気な感想を述べていた。
「わわっ!! アレが魔王城だったの!? こんな街中にあっただなんて、ぼ、ボクも…………ぜ~んぜん、気付かなかったよぉ~?」
どうやらこの街に住むジャスミンでさえ、アレが魔王城だとは知らなかったようだ。
「(いや、今のぜってぇ~嘘だよ! だってジャスミン娘が激しく動揺しすぎてるんだもん!! 何気に目逸らしやがって、しかも最後の方のセリフが声上擦りながらの疑問系だしな!)」
見ればジャスミンは目を逸らすどころか、顔を背け肩を小刻みに揺らしていたのだ。しかも小さい声で「(ぷくくくっ。こ、こんなの耐えられないよぉ~)」などと、必死に笑いを堪えているようだ。
「(何気に口に手当てて、笑い声必死に押さえやがってるしな!!)」
「ほんと茶番もここに極まれり……だよなぁ」オレもそのあっけない事実に対してそんな感想を懐いてしまう。
そして何を思ったか、天音が一歩前に出て魔王城こと、通称『エルドナルド城』を指差しながらこう声高らかに宣言をした。
「みんな、アレを見るのだ! あの立派な建物が今から我々が向かうべき『魔王』が住むという『魔王城』らしいぞ! しっかりとその目に焼き付けておけぃ~っ!!」
「…………」
(天音ってさ。言葉わりぃけど……正真正銘の馬鹿なのかな? だってオレ達、既にアレを見て認識してるんだぜ。何で然も『たった今、自分が発見しましたよ!』感を醸し出して、更には自分の家みたく自慢げにしてるんだよ!? ……あっ、いや前回の『こっそりと教えてくれ』の件に対してかかってるのか!?)
オレはようやく天音が偉ぶって魔王城を紹介している意味を理解し、そしてまたみなの行動に呆れ果てていた。
「(たぶんだけどさ。この世界にはこのオレ以外にまともなヤツ、存在しないと思うんだわ。……いや、冗談抜きにね。今回の件で確信したもん)」
少なからずジャスミンあたりはまともだと思っていたのだが、今回のやり取りを通って誰一人まともな人間は存在しないと確信してしまったのだ。
「(それにどうせ、静音さんがオレ達が倒すべき『魔王様』って事もオレだけは既に知ってるしな! きっと城に着いてからもこんな漫才やるんだろうなぁ~)」
オレは読者に対して先出しネタバレを露見しつつも、物語を進めるために仲間達に声をかけた。
「……もう、さ。目指すべき目的地も分かった事だしさ、ちゃっちゃっと魔王城に行かねえか? なぁ天音よ?」
もう下手をすれば魔王城に歩いて行くだけでも、数話かかってしまう事を恐れたこのオレは、一応腐っても自称勇者の天音先生に「早く向かおうぜ!」っと苦言を混ぜつつ提案したのだ。
「なんだ? キミも早く魔王城を見学したいのか? 私と同じだな♪ よしいいだろう! キミがそこまで言うのなら、みんな急ぎ場やに魔王城へと向かうぞ!!」
「「おーっ!」」
「きゅー!」
「…………」
(何か天音がドエライ勘違いしてるけど、まぁいいよな? とりあえず魔王城には向かってくれるみたいだしな……)
きっと天音のヤツは、魔王城に行くのを『学校行事の社会科見学の一環』とかと勘違いしているのだろう。
だが、イチイチそんな些細なことに苦言を示しても意味は成さないだろう。
「(もうジャスミンなんか呆れて、『頑張ってね~♪』とか言ってさっさと自分の店に戻っちまったしな!)」
みんなで街中をぶらぶらっと歩きながら魔王城を目指すその道中、天音から色々話かけられたのだが、オレは一言も発せずただ頷くだけにした。
そうする事で少しでも早くこの物語を進めることにしたのだ。
「さてみんな! 我々の念願だった魔王城へとようやく辿り着いたぞ!! ここからはいつものお遊びは無しだからな! 特にキミは注意するのだぞ!!」
正直天音の言いぶりには腹が立ったが、どうせ反論しても無駄だと悟り「ああ……分かったよ」っと短い返事で頷いた。
そうして、オレ達は魔王城表にある立派な門を潜ると中へと入って行く。
魔王城は特段の派手さは無い簡素な造りながらも、立派な建物であった。
中央には小さな噴水があり忙しそうに水を循環させていた。また定期的な手入れがされているのか、地面にもゴミ1つ無く、綺麗な花が所狭しと植えられ綺麗である。
「ほんっと、でっけえ~よなぁ~!! それに中は綺麗だしさ、何か魔王が住む城ってよりは、王様が住むお城って感じするけど……」
オレは見上げるように城の壁や屋根、柱などを見てそんな感想をもらしてしまう。
そしてそんな感想が聞こえていたのか、隣にいた静音さんが口を開いた。
「あっ、それはそうですよアナタ様。元々は王が住んでいた城ですしね!」
静音さんはオレの感想を補足するようにそう付け加えた。
「へぇ~。まぁそうちゃそうだよね。街中にあるわけだしさ。アレ? じゃあ、何で魔王の城になったの? 王様はジズさん……なんだよね? もしかして追い出されたとか?」
オレは疑問になり、この城の主である魔王様の静音さんへと聞いてみた。
「ああ。理由が欲しかったですか?」
「いや、理由が欲しいとかそんなんじゃねぇだろうがっ……アンタ、物語をわりと舐め腐ってるよね?」
オレはツッコミをすることで、静音さんの説明を促す。
「理由は至って簡単ですよ。アニメ化した際にお城を2つも描いてもらうと原画コストが嵩みますからね、もうそれならばいっそのこと製造費削減を意識しまくって、『王様』と『魔王様』が住むお城、『ダブル様様のお城』でいいだろう? っと決まった次第でしてね(笑)」
そう説明してくれる静音さんは笑っていた。
「…………マジで?」
「マジマジ♪」
もう屈託の無い「ニッ♪」っとした笑顔で静音さんは肯定していた。
静音さんのその言葉を聞いた瞬間、オレは脊髄反射的にスッっと右手を開き、額と目を隠すように当ててしまう。ちゃんと右肘には左手を添える徹底ぶりだ(笑)。
「(……あ、あったまいてぇ~っ!! マジで頭痛いよ!! まぁ薄々はそうなんだろうなぁ~、って気付いていたけどさ!! いざそれを聞いちまうと、頭が痛くなっちまうよ!!)」
第162話へつづく