第160話 いざ魔王城へ! ……ってか、そもそも肝心の『魔王城』の場所はどこなの問題発生中!?
「そっか……わりぃな、ジャスミン! アリッサやジズさんにも礼を言っといてくれ!」
「お兄さん……それはボクがすることじゃないよ」
オレはジャスミンから受け取った薬草などが入った麻袋を、自らの顔の前に持ち抱え上げながら感謝の言葉を述べ、ここには居ないアリッサとジズさんにも感謝の言葉を伝えて欲しいと言ったのだが、ジャスミンは首を左右に振り断ってしまう。
「なんで?」そう思ってしまったが、ジャスミンの次の言葉でその意味を知る事となった。
「だってさ、お兄さん達は魔王を倒したら、またここに戻って来てくれるだよね? 二人にお礼を言いたいなら、自分の口から直接言うべきだと思うよ♪」
ジャスミンは「ニッ♪」っと、満面の笑顔でそう言いのけた。
「ジャスミン……」
(そっか。ジャスミンは魔王を倒すだけでなく、全員無事にここへと帰って来いよ! って励ましで言ってくれてるんだな……)
オレはそんなジャスミンの言葉に納得し、同じく笑顔になると、
「ああ、そうだよな!!」
そう安心させるように力強く言った。
「さっきから何を言っているんだ、ジャスミンのヤツは! 私達はちゃんと魔王を討伐して、必ずここに帰ってくるつもりなんだぞ!! だから今からたんまりっとご馳走でも用意しながらだな、魔王討伐の祝い祭り準備でもして、私達の帰りを待っているがいいさ!!」
「お姉様の言うとおりですわよ! 魔王を倒して、きちんとお腹を減らして帰ってくるつもりなんですわよ!! ご馳走を用意して置かなかったら、ただでは済ましませんからね!」
「もきゅもきゅ♪」
天音と葵ちゃんがそう笑顔でジャスミンに言うと、もきゅ子もまた「うんうん♪」っと頷き二人の言葉を肯定していた。
これから『魔王討伐』という辛い戦いに赴くというのに、ここにいる全員はみんな笑顔となっていた。
そして最後に、今のいままで蚊帳の外にいた大本命のあの人が口を開いた。
「ふふっ、皆様は単純なんですね。はぁ~まったく。魔王討伐を、まるでピクニックか何かと勘違いしているのでしょうね。……ですが、ワタシもそれに乗っかるとしましょう♪」
最初静音さんは憎まれ口を叩いていたが、その顔には笑顔が溢れていた。
それは決してオレ達を馬鹿にしているというわけではなく、むしろ喜んでいるようにも見えた。
そうしてオレ達の『心』は1つとなり、魔王を倒し無事にこの街に戻ってくる事を胸に抱き旅立つこととなった。
「さぁみんな! 魔王城へ向かうぞ!!」
「「「おう!!」」」
「もきゅ!」
天音の言葉に呼応するように、オレ達は返事をすると手を振るジャスミンに見送られながら、一路魔王城へ向けて旅立つ……はずだった。
そう……『だった』なのだ。なんで『だった』っと過去形なんだって?
それは…………
「…………」
「あ、天音? どうかしたのか!?」
オレ達のリーダーである勇者天音は拳を振り上げたままの体制で、無言のまま固まっていたのだ。
オレは不安となり、思わず声をかけてみたのだが、予想を超える言葉が返ってきた。
「あの~、ところでみんなに聞きたいのだが……。そもそもその『魔王城』とは、どこにあるのだ?」
「ぶっ!?」
そう天音は勇者のクセに、そもそも『魔王城』がどこにあるのかを知らなかったのだ。
意気揚々に気合を入れていたのに、この体たらく。まさにこのボケは肩透かしの極みである。
「お、お姉さん達……あんな自信満々だったのに、場所知らなかったの?」
手を振った動作のまま固まっているジャスミンが、そうツッコミを入れてきた。
「(そりゃそうだわ。お馬鹿さんもいいところだもん。ほんっと、恥ずかしいわ!!)」
オレはこの危機的状況を脱するため、天音に声をかけた。
「あ、天音! オマエ魔王城の場所知らなかったのかよ!!」
(よくそんなんで、『魔王城に向かうぞ!』とか音頭をとったよな!!)
きっと気持ちが高ぶり、その場の勢いだけで言ったのだろう。
じゃなければ、普通の神経なら言えるわけがないのだ。
「だ、だってだって! すんすん……し、知らないもんは知らないんだもん!」
オレとジャスミンに攻め立てられた天音は、目にいっぱいの涙を溜め込み子供っぽい口調となってしまった。
「(やべっ。泣きそうになってる天音さんとか、超かわいいんですけど!! それにいつもの偉ぶってるお嬢様言葉じゃないし。もしかしたら、こっちが天音の素なのかもしれないなぁ~)」
などとオレが思っていると、我らがあの人が助け船を出してくれた。
「天音お嬢様どうか泣き止んでください。魔王城の場所などワタシが既に知っておりますので、ご安心下さいませ」
「ほ、ほんとぉ?」
天音は甘えるように静音さんに抱きしめられ、頭を撫でられ慰められていた。
「さすがは静音ね! ほんといざという時には頼りになるわね♪」
「もきゅもきゅ♪」
「うんうん♪」
慰められている天音を眺めながら、葵ちゃんにもきゅ子、そしてジャスミンはいつでも頼りになる静音さんに感心していたのだった。
だがオレはというと、葵ちゃん達のように素直には喜べなかった。
「…………」
(いや、そりゃ~静音さんは『魔王城』の場所を知ってるだろうよ! な・ん・せ、そこにいる静音さんがオレ達が倒すべき魔王様なんだからな!!)
そう。そうなのだ。静音さんの正体はそもそも『魔王様』なのだ。むしろ『魔王城』は静音さんのお家と言っても過言ではない。知らないはずがなかったのだ。
そこでオレはある考えが浮かんでしまった。その考えとは……『魔王城』の場所について、である。
たぶん読者の方々も既にその事に気づいていることだろうと思う。
だが、今はその事について語るのは今はよそうと思い、次話で……
「すんすん。そ、それで静音。『魔王城』の場所はどこなのだ? みんなには内緒にして、私にだけこっそりと教えてはくれないだろうか?」
「ぶっ!?」
天音はオレがこの第160話のお話を閉じようとしているにも関らず、また一切の空気を読まずに静音さんに対して魔王城の場所を聞きやがっていたのだ。……しかも、みんなに内緒とか言ってこっそりと。
「(いやいや、天音さんや。アンタ少しは空気感読もうよ。仮にもメインヒロインなんだよな? 何せこく、こっそりと場所聞こうとしてんだよ! 大体静音さんだって、そんなのにはとても応じられ……)」
「ええ、いいですよ。ちなみにワタシが得た情報源からの情報では、あの建物がワタシ達が目指している『魔王城』なんですよ♪」
そう言いながら静音さんは、自らの正面にあるこの街で1、2を争う大きな建物を指差していた。
「(静音さんも静音さんでちゃんと教えるのかよ!! しかも全然こっそりっと、じゃねぇしなっ!! むしろ公開情報源じゃねぇのかよ!?)」
もはやその情報源が38回目のソイソースだろうが、中濃だろうが何でも良かったのだが、オレは静音さんの指差しているその魔王城とやらを見てしまった。
「静音さん!! あ、あれがほんとに『魔王城』だって言うのかよ!?」
そう魔王城とは、この街の北側にある一際大きな建物……
オレがこの世界に来て初めて見た洋風のお城……『エルドナルド城』そのものだったのだ!
第161話へつづく