第159話 ジャスミンの粋な計らい……
「遅いぞキミっ!! どこで何をしていたと言うのだ!? 私達はとっくに食事を食べ終えて待っていたのだぞ!」
そう言う天音の右手にはティーカップが握られていたのだ。その様子から、きっと食後のお茶をしていたに違いない。
オレは「ちょっと用があってな……」っと、天音達に謝りながら席へと座った。
カチャリッ。ティーカップを皿の上に置き、天音が勢い良く立ち上がりこう宣言をした。
「よぉ~しっ! みんな揃ったところで魔王討伐の旅に出るぞ!! みんな、準備は出来てるであろうな!!」
天音の号令一下、オレ達は朝食を終えると旅に出る事となったのだ。
正直言って先程のやり取りのせいで疲れ果て、また部屋に戻って休みたい気分だったのだが、天音と葵ちゃんの双子コンビにFBIにとっ捕まった宇宙人よろしく、両脇を抱えられてズルズル……っと宿屋の外へと引きずられてしまう。
「(だからさ……オレへの扱いがあまりにも酷すぎるだろうがっ!! 何で宇宙人が捕獲された時のように、両脇抱き抱えられてるんだよ!?)」
オレはそんな二人に文句を言ってやろうとも思ったが、生憎と標準値よりもより大きな脂肪の塊に阻まれてしまい、抗議の言葉を断念してしまう。
「(や、柔らかい!? コイツらの脂肪さんは柔らかいぞ!? こんなときはただ黙って、お胸の感触を楽しむ方がちょうどいいってねぇ~♪)」
そうオレは二人に抱き抱えられて、そのお胸の感触を両腕でまことしやかに楽しんでいたのだ。
「こんな幸せがいつまでも続けばいいなぁ~♪」とか夢見心地に思っていると、いきなり重力から解放されてしまい顔から地面へとダイブしてしまった。
「ぶはっ!? ぺっぺっ。な、何でいきなり離すんだよ二人とも!?」
オレはアサリの砂抜きのようにお口に入った砂を吐き出すと、二人に苦言を示す。
「うん? もうここは外だぞ。それにキミは1人で歩けるだろ? 何が不満だというのだ?」
「……不満はねぇけどさ。もうちょっとだけ優しく離してくれても良かっただろ?」
天音の正論すぎる正論に、少しだけ反論してみせる。
「あ~そうでしたわね! 次地面に落とすときにはそのことを考慮いたしますわ、お兄様♪」
「……うん。もし次回があったら、お願いするね葵ちゃん」
(葵ちゃん……何で次落とすこと前提で話てんだよ)
オレは地面とお友達になるのをやめ、立ち上がると顔に付いた砂を両手を使い払いのける。
「さてと。お遊びはここまでだぞキミ達! これから魔王が住んでいるという魔王城へ向かうのだからな! しっかりと気を引き締めてくれよ!」
天音はそう言うと身なりを整え、武器や鎧などを確認し始めた。まぁ腐っても天音は勇者なのだ。さすがはリーダーシップがあるっと言ったところだろうか。
「ワタクシの準備は大丈夫ですわよ♪」
「もきゅもきゅ♪」
葵ちゃんと抱き抱えられてるもきゅ子は、既に準備を終えているようだ。
「ワタシも既に準備は終えていますよ」
静音さんも準備が出来た事を天音へと伝えていた。
「そうか! 残りはキミだけなんだぞ! 準備は出来ているのか?」
天音は最後に残ったオレへと声をかけてくる。
「ああ……オレも準備は大丈夫だぞ!」
(そもそも何も準備することないしね……)
こうしてようやくオレ達は、総文字数50万文字という大台を乗り越えて、改めて魔王を討伐すべく旅へと出発するのだった。
「(50万文字超えてから旅に出るって……そんな小説前代未聞だわ。ほんと聞いたことねぇよ……いや、マジでな)」
「じゃあ、まずは……」
「おーい! お兄さんたちーっ!!」
天音が何かを言おうとした瞬間、誰かに呼び止められてしまった。
せっかく物語が始まる! っと思った矢先に出鼻を挫かれてしまった形になる。
「一体誰だよ、オレ達の旅の邪魔をするヤツは!?」っと声の主を探すと、ジャスミンの店である道具屋マリーから、その主であるジャスミンがドアを盛大に開け放ち飛び出してきた。
「「「ジャスミン!?」」」
その人物を目撃した天音と葵ちゃん、それにオレの声が同時に重なってしまった。
「はぁはぁ……はぁはぁ。は~っと!」
ジャスミンはここまで急いできたのだろう、息を切らせながらオレ達の元へ来ると息を整えるように深呼吸した。
「ジャスミン、そんな息切らしてどうしたんだよ!? 何かオレ達に用でもあったのか?」
(まさか旅について行くとか言うんじゃないだろうなぁ? いや、まぁ。ほんとはその方がむしろ心強いんだけどね……)
だが、どうやらジャスミンの用事は違うようだ。そしてオレに向かって、茶色い麻袋を差し出してきたのだ。
「ジャスミン……これは?」
オレはそう言いながら、袋を開けてみる。中には色々な葉っぱが入っていたのだ。
「うん! これは回復草とかが入ってるんだ! お兄さん達、今から魔王を倒しに行くんでしょ? だからこれ持って行ってよ!!」
どうやらジャスミンは、これを届けてくれる為に急いで来てくれたらしい。
「えっ? でもこれはお前の店の商品なんだろ? オレ達、その金は……」
オレは受け取るわけにはいかず断ろうとするのだったが、ジャスミンの言葉で遮られてしまう。
「ううん! いいのいいの♪ これはボク達が出来る唯一の手助けだと思ってよ!!」
「ボク達?」
オレはジャスミンの言葉に引っ掛かり、言葉を繰り返してしまう。
「うん! ボクやアリッサ、ジズさんとか色んな人達からのなんだよ! お兄さん達がボク達の代わりに魔王を倒してくれるからって!! それに、これくらいしかボク達にはできないしね……」
ジャスミンは照れくさいのか、少し頬を赤らめ指先で掻いていた。
第160話へつづく