第158話 明るく元気に、はっきりと大きな声で……はいっ!
「冗談だよな静音さん? ほんとにジズさんがこの世界の王様なのか? いつものおふざけとかドッキリとかじゃなくて!?」
オレが動揺するのも無理がなかった。何せたった今し方この世界の王様がジズさんに決まってしまったのだから……。
「あっ、ドッキリの方が良かったですか? それなら今からドッキリ路線に変更いたしますので、少々お待ちくださいね♪」
そう言いながら静音さんは「せいやっ!」っと、宿屋の壁にせいけんづきを打ち込みむと板切れを剥がし、ドッキリ用の持ち札を作成しようとしてた。
「いやいや、そうゆう意味じゃねぇよ!! そもそもドッキリ用の板切れって、そうやって調達して作るのかよ!?」
(そもそも静音さん、アンタ僧侶様なんだろ? 何で武道家みたいにせいけんづき使えるんだよ!?)
オレは突然の静音さんの行動に驚き、またツッコミを入れてしまった。
「……オレが悪かったよ。うん、ジズさんが王様のお話で進めてもらえるかな?」
このままではいつもどおりの展開になってしまうことを恐れて俺は、静音さんに対して素直に謝り物語を進めてもらうことにした。
「それでは、最初の路線でいかさせていただきますね♪」
オレにできるのは「もう何でもいいや……」っと、ただただ頷くだけだった。
「……で、兄さんワテに何の用なんでっか?」
「特に用があるってワケじゃなかったんだけどさ、一度王様に会ってみたかったし、それに天音達が謁見した時に『旅の足しに……』って茶色い麻袋をくれたって聞いたからさ。……ね、静音さん?」
「…………」
オレはちょうどその話を思い出して静音さんにも聞いてみる感じで話を振ったのだが、当の静音さん本人はオレが振り向くのと連動して首を明後日の方向へと差し向けていた。
「これはもしかして……」そう思い、静音さんに再度声をかけてみる。
「静音さん……何で反対方向見てるんのさ?」
「……い、いえね。首を寝違えたようでして……」
そう言いながらも静音さんは首と同じ方向に体をクルリっと向け、その場で駆け足をして逃走を試みていた。
「ちょーっと待ったぁ!! 静音さん何で逃げるのさ!」
オレは急いで静音さんの腕を掴み、逃走を阻止する。
「ちっ。い、いえね、最近運動不足なので走ろうかな? っと突発的発作として……」
静音さん自身もその言い訳が苦しいと判断したのだろう、抵抗を止めてくれた。
「麻袋でっか? ああっ、確かにワテは渡しましたんで……あの袋には|たくさんぎょうさん》の金貨が入ってましたやろ? 姉さん達が魔王を倒してくれるからゆて、ワテら必死に集めましたんで」
どうやらジズさんはちゃんと金貨がたくさん入った袋を渡してくれたようだ。だとすると……何であのときは、銀貨1枚しかなかった問題発生だ・よ・な!!
オレはその犯人に心当たりがあったのだ。
「静音さん! 静音さんが金貨をくすねた(=盗んだ)んだよね!!」
そうオレが知る限り、そんなことをする人間は静音さん以外に誰も思いつかなかったのだ。
「いえ、ワタシは何も知りま……」
静音さんがそう否定しようとしたまさにそのとき「チャリン♪ チャリン♪」っと、服のポケットから大量の金貨が床に零れ落ちてしまう。
「静音さん……これは何かな?」
そう誰がどう見ても金貨だったのだ。それも大量の……である。オレは既に答えが分かっていたが、犯人に自白を促すことにした。
「どうやら金貨のようですね。これをワタシが盗んだからと言って、それがどうかしたのですか?」
犯人は何食わぬ顔で「これは盗まれた金貨ですか? はい。それはワタシが盗んだようです!」っと、やや古いネタをしながら誤魔化そうとしていた。
「つまり静音さんがくすねた……って事でいいんだよね?」
「(明るく元気に、はっきりと大きな声で)はいっ!」
静音さんはその罪を認め、どこぞの学校にあるような文言と共に右手を上げ返事をしていた。
その往生際の悪さと、あまりに呆気ない潔さの兼ね合いに呆れてしまい、オレは何も言葉を発する事が出来なくなっていた。
もしもこの金貨が最初からあれば、金の工面で苦労することもなく、こんなに話数と文字数を重ねることもなかったであろう。
だがしかし、すべては過ぎ去ってしまった事なのだ。今更静音さんに尋問したところで煙にまかれるだけだろうと諦めた。
「それで、兄さん。ワテはどないしたらよろしいんです?」
久々にジズさんが口を開き、そう聞いてきた。きっとジズさんもどうしたら良いのか分からないのだろう。
「いや、ほんとは問題あったんだけどさ……こっちで無事に? 解決したから大丈夫です」
「ほんなら、ワテは仕事に戻ってもよろしゅうおますな?」
っとの受け答えをして、ジズさん……つまり王様との謁見は終える事になった。
ジズさんは自らの仕事があるっと、眼鏡をかけ何やら帳簿に記入して仕事に集中してしまう。
「……さて、っと。アナタ様! とりあえず後顧の憂いも取り払ったところで、天音お嬢様達と合流をして魔王討伐の旅へと出ましょうか♪」
静音さんはまるで憑き物が落ちたように明るくなり、天音達の元へ戻ろうと言ってきた。
「(後顧の憂いの大元が何言ってんだかな! しかも魔王討伐って……静音さん、アンタがその『魔王様』なんだろうがっ!! 自分倒しを推し進めるんじゃねぇよ!!)」
オレは「あーもーう!! マジわけわかんねぇよ!!」っといった感じで両手で自らの髪をグチャグチャにしながら、静音さんの後ろを歩いて行くだけだった。
第159話へつづく