第157話 ついに王への謁見?
「うん! 全部美味かったぜ、ジャスミン♪」
「お兄さん達の口に合って、ボクも嬉しいよぉ~♪」
オレは早々に朝食を片付けると、作ってくれたジャスミンへと礼の言葉を述べる。ジャスミンも自分の分の食事を終え、食器を片付けながら話す。
「あれ? 静音さんは食べないの? まだ全然食べていないよね?」
ジャスミンは未だ口を付けていない静音さんに話しかけていた。
「あっほんとだ。静音さんどっか体でも悪いのか?」
オレもジャスミンに釣られ、静音さんの前に置かれた朝食に目をやると、静音さんの皿はすべて運ばれて来たままだったのだ。
「いえ……。あまり食欲がないものでして……」
静音さんは一言だけそう言うと、まだ天音達が食事中なのに席を立ってしまう。
「し、静音さん?」
おかしい。静音さんの様子があまりにもおかしすぎる。普段なら食事のマナーでは1番礼儀正しいはずの静音さんが、まだ天音達が食事中にも関わらず席を立つはずがないのだ。
オレは静音さんの事が心配になり、彼女を追いかける。
「あっ、ちょっとわりぃ! オレも席外すわ」
何やら天音達はマナーがどうたら……とか言っていたが、この際無視することにしよう。
「あっ、静音さん! 待って!!」
オレは酒場出口で静音さんの左肩に手をかけ、静音さんを止めた。
「……どうかなさったのですか、アナタ様?」
静音さんはオレの方を見ず、酒場の出口を向いたままそう言葉にした。
「(やっぱりおかしい。普段なら嫌でもオレの方を見ながら話すのに……)」
「……用が無いのなら、これで……」
静音さんはまるでオレを無視するかのように、そのまま部屋へと戻ろうとする。
「ちょ、ちょっと待って! は、話があるんだ!!」
「……話……ですか?」
どうにかオレは取り繕い、静音さんの足を止めることに成功する。
「うん。実は静音さんに聞きたいことがあってさ……」
だがしかし、まったく考えずの行動だったので上手く言葉が出てこない。
「はい。何でしょう?」
静音さんはそう返事をすると、オレの言葉を待っている。
「(ま、マズイ。このまま何も喋らないと静音さんは部屋に戻っちまうぞ!? 何か! 何か話題はないのか!?)」
「アナタ様? 質問はないのですか? それならワタシは部屋にもど……」
「……あ、あのさ!! これからオレ達、旅に出るんだよね? だったらその前に、オレも『王様』に会いたい……いや、謁見だっけか? それをしておいた方がいいのかなぁ~。とか思ちゃってさぁ~ははっ……」
オレはどうにかそんな言葉を捻り出した。実際後から言おうかと思っていたので、嘘ではなかった。だが、本当に言いたかった事は……今朝の夢の内容についてだったのだ。
「えっ? ああ。王様に……会いたいのですか?」
静音さんは何故だか眉間に皺を寄せて、めんどくさそうな顔をしていた。
「な、何でそんな顔してんだよ静音さん……」とは思ってもこの状況では言えず、黙り込み静音さんの返答を待った。
「…………ダメ、かな?」
沈黙が居た堪れなくなり、再度聞いてみる。
「……いえ。アナタ様が会いたいようでしたら、今からご用意いたしますので……」
「へっ? い、今から用意する???」
オレは静音さんのその不思議な言葉に虚を衝かれ、聞き返してしまう。
「それではアナタ様。参りましょうか……」
「えっ? えっ? ……あっ、はい」
オレは混乱しながらもなすがまま、静音さんに連れて行かれてしまう。
「(あれ? 今から用意するんじゃなかったのか? もう行っていいの?)」
「あの、静音さん。天音達はいいの?」
オレは「外に行くなら天音達に一言だけでも言っておいた方がいいのでは?」っと思い、静音さんに聞いてみたのだ。
「ええ。天音お嬢様達は既に謁見済みですしね。それにすぐ近くですので……」
「はっ? すぐ近く?」
オレは静音さんのその言葉の意味が理解できなかった。
「おや兄さん達、もうおでかけになるんでっかぁ~?」
酒場の隣にある宿屋の広場を通ると、そこにはジズさんがいたのだ。
「(相も変わらず、ギッチギチだよなぁ~)」
見ると昨日と同じくジズさんは宿屋の建物いっぱいに詰められ、建物からはミッシミシっと、今にも崩れ落ちんばかりの音を奏でていた。
「……はい、アナタ様。目的地に着きましたよ」
「へっ? いや……何がさ、静音さん?」
いきなり静音さんにそう言われ、オレには何がなんだか理解できなかった。
「おや、兄さん達。ワテに何かご用でしたんか?」
ジズさんも状況が理解できず、そう聞いてきた。
「えっ? あ、ああ……いや、ジズさんじゃなくて、オレは王様に謁見したいんだよ、静音さん?」
何か手違いでもあったのか? そう首を傾げながら静音さんに再度聞いてみると意外な答えが返ってきた。
「ええ。ワタシもそのつもりですけど……」
「んっ? …………っ!? ま、まさか……」
そう読者諸君も、ここでジズさんの名前とその通り名を思い出して欲しい。
『冥王ジズ』ここまで言えば、勘の悪い人でもさすがに気付いただろう。そうジズさんは冥王だったのだ。
「えっ~と、つまりは……ジズさんが……この世界の王様だったってことなの?」
「ええ、そうですよ♪ 今そうなりました♪」
静音さんは満面の笑みでそう答えた。
第158話へつづく