第149話 入浴中の女の子の正体とは一体……!?
「はぁはぁ……っとと!? こ、ここが混浴ができるって言う噂の露天風呂なんだな!」
オレは短い距離を全速力で走り、念願の露天風呂へと辿り着いた。
入り口の所に何やら張り紙らしきものがあったが、生憎とこの世界の文字が読めないオレは無視することにした。
いかにも風呂場らしい大きめの暖簾を押しのけ、不安とちょっとした興奮を覚えつつ中へと入っていく。
「へぇ~簡単な脱衣所まで備わってるのか。うーん、どうやらここには誰もいないようだけど……って、こ、これは天音さんの鎧!?」
脱衣所には簡易ながらも木で出来たカゴがいくつもあり、カゴの1つに見慣れた赤と黒を基調とした鎧があったのだ。そして何故だか聖剣フラガラッハの鞘部分も脇に置かれていたのだが、肝心の剣は見当たらない。
「(ここは主人公の通過儀礼として、鎧をくんかくんか♪ とすべきなのだろうか!? いいや、もしそんなのがバレたら一切の言い訳できねぇぞ!! それにオレに匂いフェチの属性は付いてないしな!)」
などと自分に言い聞かせ、天音の鎧をカゴの中へと泣く泣く戻すことにしたのだ。
「(にしても天音のヤツ、風呂の中まで剣持って入ってるのかな? おいおい錆とか大丈夫なのかよ……)」
そんなことを考え服を脱ぎ始めると、ふと風呂場から声が聞こえてきた。
「(ふぅ~。やはり旅の疲れは温泉に限るのぉ~。妾は温泉大好きなのじゃ~♪)」
「っ!?」
(い、今の確かに女の人の声だったぞ!? マジで女の子入ってるのかよ!? ほほほ、ほんとにオレも入っていいのか? 否否っ! 宿屋の主ジズさんのお墨付きなんだから、何も遠慮することないよな!)
そうしてオレは急ぎ全部の服を脱ぐと、畳まずにカゴに放り込んで風呂場の方へと向かった。
もしもこのとき、よぉ~く物事や今までの展開及び言葉の意味をふか~く考えていれば、この次に起こる展開を回避できたかもしれない……。
ガラガラガラ~♪
「お、おじゃましま~す♪」
オレはタオルを持ってきておらず、体を隠す遮蔽物は自らの手のみの状態だった。
だがそんな事はお構いなしに、風呂場のドアを開け男女が入り乱れる混浴風呂へと入って行く。
「おーっと! どうやらこの宿屋の風呂は混浴のようだなぁ~♪ 宿屋の主ジズさんから『風呂に入れ入れ!!』って何度もせがまれて風呂場に来たけれどもー、これはー間違えて女の人と入浴してしまうのも仕方ないよなぁ~♪」
オレのセリフはやや棒読み気味だったが、一応の言い訳は口に出来たわけだ。これで後顧の憂いを絶ち、何の遠慮せずもに美人さんとの入浴タイムを楽しめるぞ♪
そうしてオレは、その入浴中だという美少女に目を向けたのだった。
「あ゛っ゛!? こ、これが入浴中の女の子だって言うのかよ!? おいおい冗談も大概にしろよな……ほんと」
そこでオレが見た光景とは…………これだ!!
ぷかぷか♪ ぷかぷか♪
「ふぅ~。極楽なのじゃ~♪」
そう今まさに入浴中でいらっしゃったのは、なんとなんと聖剣フラガラッハのサタナキアさんだったのだ!
何気に重量があるにも関わらず、湯に浮かんでいる姿はシュールな事この上ない。
「(まぁ、ね。確かにサタナキアさんは『オレが知ってて、酒場で話してて、妾って口癖の女の子(ただし人間ではない)』って、条件のすべてに当てはまってるんだけどさ……この展開と結末はあんまりだろうがっ!! 作者の野郎、マジざけんじゃねぇぞコラァッ!!)」
オレの怒りは頂点に達していた。
そりゃそうだわ。『妾は次期魔王である!』とか『共に現魔王を倒そう!』とか言って頭はイカれてるけど、容姿の方は群を抜いた美人さんには間違いないお人だったのだ。
それがまさかまさかの超細身で、スタイル抜群の聖剣が入浴中だったんだぜ! その期待と現実との落差は計り知れないモノがあり、アナフィラキシーショック(略して『アナショ』)のように隠しきれない。
オレはそのアナショを引きずったまま、入浴中でいらっしゃるサタナキアさんへと声をかけた。
「あ、あの……サタナキアさん」
ぷかぷか♪ ぷかぷか♪
「ふんふんふ~ん♪ やはり温泉は気持ちが良いのぉ~♪ なんだか妾の本体である剣身も身が錆びる想いなのじゃよ~♪」
(身が錆びる想いって……それは温泉の成分で化学反応を起こして、冗談抜きにホント剣身から錆が出始めてるんじゃねぇのかよ!?)
サタナキアさんはオレの声がまったく聞こえていないのか、暢気にも鼻歌を歌いながら湯に入った感想を述べていた。
「んんっ! もしやこれが……いわゆる『詫び錆の心』なのかもしれんのぉ~♪」
「(何で錆に詫びてんだよ!? 錆が剣を侵食してんだから、普通逆じゃねぇのかよ!? ……いや、逆でもねぇんだよ!? しかも誤字なうえに、その言葉の使い所間違ってるしさぁっ!!)」
このままでは埒があかないと思い、今度は強めに声をかける事にした。
「さ、サタナキアさんっ!!」
「ふんふん……んっ? 何じゃ? 誰ぞ妾を呼ぶ声がしたような……って小僧!? お主、そこで何をしておるのじゃ!! ま、まさか妾の入浴シーンを覗いていたのかぇ!?」
「誰が剣の入浴シーンに興味あんだよ!? そんなマニアックな性癖の持ち主いるわけねぇだろうがっ!! オマエどんだけ自分の体に自信持っていやがんだよ!!」
オレは早急にオチをつける為、出来るうる限りのツッコミをしたのだった……。
第150話へつづく