第140話 ジャスミンの美味しいステーキの焼き方講座♪
「じゃあステーキの焼き方は、レアが2、ミディアムも2、そして……ウェルダンが1だね! じゃあさっそく焼いてくれるから、少しだけ待っててね♪」
ジャスミンはそう言うと、厨房がある奥の方へと急ぎ消えていった。
「アナタ様……どうしてウェルダンを頼まれたのですか?」
静音さんが不思議そうに肉の焼き方が1人だけ違うことを聞いてきた。
「えっ? ああ。肉自体は好きなんだけど……実は血が苦手でさ、どうもレアとか血が滴る感じのステーキはダメなんだよ。それに……」
オレは言葉を続けようとするが、厨房の方から油の跳ねる音と共にお肉が焼ける良い匂いが漂ってきて、遮られてしまう。
ジュ~ッジュ~ッ♪
見ればジャスミンが、一生懸命フライパンでステーキを焼いてる姿が見える。
まず最初にジャスミンはフライパンを火でよぉ~く熱すると、程よく温まったところで動物の脂を投入し、フライパンを回すように動かすと、フライパン全体にその脂を行き渡ったところで肉を2枚入れた。
ステーキを焼くときで一番肝心なのは、まず始めに強火でステーキ表面をちゃんと焼きことだ。そうすることで肉の旨味である肉汁と脂を閉じ込める事ができる。だが、そこで注意しなければいけないのは、その分中心にまで火が通らず肉が『生焼け』となってしまうことだろう。
ジュパ~ッッ、ボワァッ♪
肉から出た脂にコンロの火が入ったのか、フライパン全体が炎に包まれていた。
だが、ジャスミンはステーキを焼くことに慣れているのか、その炎を恐れずに冷静にフライパンに蓋をすると、フライパンの持ち手部分を持ち上げ、フライパンをコンロから外した。そしてそのフライパンを厚手の布の上に置くと、耳を近づけて肉が奏でる音を聞いている。
ジュー、ジュー♪
余熱で脂が熱せられ、肉を適度に焼いているのだろう。きっとフライパンが置かれた厚手の布は、水で濡れているはずだ。
何故濡れた布の上にフライパンを置くかというと、フライパン全体の温度を下げる事が目的なのだ。フライパンの温度を下げると、それ以上肉を焦がすのを防ぐと同時に、蓋をしているため中が蒸し焼き状態となり、焼かずに肉の中心の火が入りにくい所まで熱を入れるのだ。
ここで注意すべき点は、『必要以上にフライパンの温度を下げすぎてはいけない』っと言うことである。
中を蒸し焼きにするということは『肉から水分・肉汁が出て、蒸発して肉を蒸し上げている』と言うことになるのだ。
早すぎれば当然肉の中まで熱は伝わらず、『中心が冷たいレア状態』となる。逆に遅すぎれば中まで熱は伝わるが、水蒸気のせいで肉の表面が水っぽくなり、かえってマズくなってしまうだろう。
この絶妙な焼き加減を決めるのは調理する人であり、一番重要なのは肉が奏でる音を聞くことである。
ジジジジジッ♪
先程までとは、フライパンから出る音が変わったのがお分かりになるだろうか?
始めはフライパンの温度が高く、脂が熱せられ肉の表面を焦がし焼いていた。だが、濡れた布でフライパン全体を冷ますことで、脂の温度が下がり音が変化したのだ。
これらは揚げ物をしたことがある人なら、よく理解できるはずだ。
からあげやトンカツなど厚手の肉を揚げる時に、最初から最後まで火を強くしすぎると外側の衣表面だけが揚がり、包丁で切ってみると中まで火が通っておらず『生』だった! な~んて体験はしたことがないだろうか?
厚手の肉を調理する際は揚げ物でも焼き物でも途中で火を消し、余熱で中に熱を通さなければ先に記述したとおりになってしまうのだ。
「……うん!」
そして音が少しずつ弱まり、肉の音に耳を傾けていたジャスミンは頷くと、素早くフライパンをコンロに戻し一気に強火でフライパンを熱する。
ジジジジジッ♪
脂が温まり肉を焼く音が強まると同時に、ジャスミンはあるモノをフライパン上からジョバッ、ジョバッっとあえて雑に振りかけると、中に火を入れるようにフライパンを傾けた。
ボアッボアッ、ボワーアッ♪
すると、フライパンから一気に火柱が上がると同時にジャスミンはすぐさま火を止め、肉を焼く前に用意していたであろう、隣のコンロで熱してあった鉄皿にステーキを乗せた。
十二分に熱せられた鉄皿から、とても良い香りと肉が焼ける音とが混ざり合い食欲をより刺激する。
そしてジャスミンは、ステーキが乗せられた鉄皿をハンドル(熱せられた鉄皿を持ち上げる専用の器具)で挟み込むと、コンロ隣の調理台の上に用意してあった木で出来た鉄皿専用プレート皿に乗せ、ステーキ横に人参やブロッコリーなどの彩り野菜を添えるとオレ達のテーブルへと運んで来てくれた。
「はい♪ お待たせお待たせ~っと♪ まず最初は『ステーキ・レア』が2枚あがったよ♪ さぁどうぞ♪」
第141話へつづく