第135話 主人公の放置プレイはデフォルト
「ふむ。結局買い物をするのは、キミだけということかな?」
天音は確認する意味でもそう聞いてきた。
「ああ、今着てるの一式購入しようかと思ってる。使えないナリでも、一応持ってればそれなりの格好にはなるだろ?」
オレは新しい服や剣を少し摘まむと「これ買ってもいいだろ?」っと、まるでおもちゃを強請る子供のよう天音達に聞いてみる。
「そうですわね。武器があるのと無いのとでは、窮地に立たされた時に、その選択によって明暗がはっきりと分かれてしまいますわ」
「もきゅもきゅ!」
葵ちゃんともきゅ子は、オレの装備を一式購入することに賛成を示してくれた。
「ふむ。確かにそれも一理あるな……なら私も賛成だな!」
葵ちゃんの意見を聞いて、天音も同じように賛成した。
そして最後にあの人の意見を聞くことになった。
「静音さん……これ買ってもいいよな?」
金は当然オレ持ちなのだったが、一応静音さんの意見を聞くだけは聞かないと、後で何を言われるか分かったもんじゃない。
「……ええ。それがよろしいですね。この先何があるか判りませんしね……」
そう含みを持ちながらも、静音さんも装備を購入することに賛成してくれる。
「じゃあ、アリッサ。これ全部買うことにするわ! ……で、いくらになるんだ?」
「おっ! まいどありぃ~♪ ええっとだね……服にマント、レイピア、ベルト、胸当て……っと全部で600シルバーになるね。でもアンタらなら500キッカリに負けといてあげるからね♪」
本来なら一式で600シルバーのところ、アリッサは『依頼を受けずに魔王を討伐してくれるアンタらなら……』っと2割ほど値引いてくれる。
「ありがとなアリッサ! ならこれ……」
オレはポケットから先程静音さんから両替をしてくれたばかりのこの国のお金、3000シルバーの中から500シルバー取り出しアリッサへと手渡した。
「キッカリ500シルバーだね、あいよ♪ ……にしても、すまないねぇ~」
アリッサは金を受け取り元気良く返事をしてから、何故かオレ達に謝ってきた。
「……なんでアリッサが謝るんだ?」
オレは「何ボッタクられたのか?」っと勘繰ってしまったのだが、
「……いや、なにね。アンタらは『魔王討伐』してくれるんだ……本来なら無償でこっちから武器や防具を提供したいところなんだけどさ……」
っとどうやらアリッサは、無償ではなく有償になってしまう事に対して謝っていたようなのだ。
「んなこったねぇさ! アリッサだって商売なんだろ? それなら金払って当たり前だしさ、それに負けてくれたんだ……そんなの気にするなよ。お前らしくないぞアリッサ」
そんな彼女を気遣い、オレは後頭部を掻きながらガラにもなくそう言った。
「アンタ……やっぱ良いヤツだね! よ~しっ、それならアンタらが見事魔王を倒したらジャスミンの酒場で、浴びるほど酒をおごってやるからね♪」
アリッサは笑い喜びながら、そう約束をしてくれた。
そうしてオレ達は武器と防具を手に入れ、宿屋に戻り休むことにした。
カランカラン♪
<やがて土に還れる宿屋:貴腐老人の館>
「らっしゃせー♪ 兄さんらお泊りでっか? それともご休憩でっかー?」
「……もうそれはええっちゅうにっ!!」
オレは何度目かのジズさんのその言葉に聞き飽き、雑なツッコミを入れる。
「(何で毎回毎回店入ると同じセリフんだよ……っ!? も、もしかしてこの世界は……昔のRPGモチーフにしてるのか!?)」
そう昔のRPGは今とは違い、容量不足から村人などは「ここは○○村だ」などと同じ人に何度聞き返しても、毎回同じセリフしか言えないのだ。そんなオレの心情を察したのか、背後にいた静音さんが補足説明をしてくれた。
「はい。今アナタ様が思ってらっしゃるとおりでございます。あとの理由としては……たぶん9割ほどの確率で、作者の方が手抜きをしているのが原因ではかと……」
「作者の手抜き、ね…………それはダメすぎだろうがっ!!」
「接骨院などに書かれている手技療法っと、この作者がしている手抜き書法って何故だか字が似ているよね♪」っと思いながらも、自分達が泊まる部屋を聞くためジズさんへと話かけた。
「……ジズさん。それでオレ達の部屋はどこにあるのかな?」
オレはやや顔を引き攣らせながらも、さっさと部屋で休息をとりたいので部屋の割り当てを聞く。
「あ~兄さん達のお部屋でっかぁ~っ? それなら、そこの階段を上ってすぐ左側にある1部屋と、そこの真ん中の向かい合った2部屋が兄さん達が泊まる部屋ですわ」
「えっ? 3部屋も!? オレ達だけでそんな占領して大丈夫なのかよ!?」
オレは「自分達だけで3部屋も自由に使ってもいいから……」っとジズさんに言われ、驚いてしまった。ジズさんのこの宿屋は、大きいとは言っても10部屋ほどとあまり部屋数自体はそんなに多くはなかった。
もしかしたら、酒場が併設されてることが客室が少ない原因なのかもしれない。
「ええよええよ。それに姫さんおるんやし、兄さんらを雑には扱えまへんやろ。階段を上がってすぐ左側は一人部屋ですんで、兄さんが使いや。真ん中のんは二人部屋ややから、嬢ちゃんと姫さんとで使いやぁっ」
「あっそうなんだ……オレだけ1人部屋なんだ」
まぁ当然といえば当然の部屋割り当てだろう。男はオレ1人しかいないのだから、一人部屋で十分すぎる。いや、むしろ部屋の広さが同じなら贅沢と言える。
「じゃあ、みんな部屋で休むもうか……ってアイツらは?」
オレが声をかけるとそこには誰もいなかった。
「んっ? 姫さん達なら……兄さんが回想してる間に部屋へと向かいましたんで」
受付で何やら計算をしていた眼鏡をかけたジズさんが、そう説明をしてくれる。
「……マジで? アイツらオレを置いていきやがったのかよ……」
「ほんと血も涙もねぇヤツらだな……」そう思い、共感を得るためにジズさんに対して呟いたのだが、
「え~っと、今日の泊まり客は8人やから~……」
っとジズさん仕事が忙しいのか、計算に夢中となりオレの話を聞いてくれる人は誰もいなかった。
主人公を放置プレイしつつ、お話は第136話へとつづく