第134話 その涙の意味は?
「ほんとオレって……主人公なのに無力なんだなぁ」
アリッサのキツイ物言いに反論できず、己の無力さを痛感するばかりだった。
「オレは主人公なんだから!」とか「ゲームや小説の主人公みたくピンチになれば、いきなり剣が振れて命からがらでも魔物を倒すことができる!!」っとの甘い考えが今の今まであったのだ。
だが、アリッサに言われ実際に剣を振ってみると、剣をちゃんと持てないし真っ直ぐに振り下ろすことも出来なかったのだ。これではもしも、魔物と遭遇したとしてもただただ殺されエサになるだけだろう……。
オレは落ち込みながらも、店内を見ている仲間達に声をかけることにした。
まず一番見つけやすい、鎧や兜・盾が置かれている天音の元へと行くことにした。
「天音……何か良い防具は見つかったのか?」
「うん? ああ……なんだキミか。いや、これと言って特には……」
っと防具を見ながら、言葉を詰まらせる天音。「なんだか天音にしては妙に歯切れが悪いなぁ……」っと思っていると、
「この店の品揃えは悪くはないのだが、今私が身に着けている防具の方がモノが優れているようなのだ。私のは勇者だけが装備できると言う防具なのだから、それも当たり前なのだがな!」
そういうと天音はクルリっとその場で回り、オレに自分が身に着けている鎧や服を自慢するように立ち振る舞った。
「そうなのか……。やっぱ天音は勇者なんだな……」
「ふふふっ、何を今更キミは言ってるのだ? 私は最初から『勇者天音』なのだぞ! そんなの当たり前のことではないか。はっはっはっ」
今更そんな変な事を言うオレを笑い、天音は「次は武器を見に行くかな、まぁ私には聖剣があるのだが……」っと立ち去ってしまった。
「(天音は天音でちゃんと自分の役割を自覚して、自信を持っている。なのにオレは……)」
そんな事を考えながら、今度は服を見ている葵ちゃんともきゅ子の元へと向かった。
「よっ! 葵ちゃんともきゅ子、何してる……って服を見ているのか?」
そう軽めに声をかける。
「あら~、お兄様♪ どうかなさったのですか? ワタクシ達に何か御用でも?」
「もきゅ?」
暗い顔をしていたように見えたのか、逆に「どうかしたの?」っと心配されてしまう。
「あっいや、みんなは何してるかなぁ~って、ただ店内を見回ってただけなんだ」
オレは誤魔化すようにそう答える。
「そうなのですかぁ~? あら、お兄様……お着替えになったのですか? 前よりも断然それっぽいですわね~♪」
「きゅ~っ♪」
天音はオレの格好に気付かなかったが、葵ちゃんともきゅ子は気付きオレの事を『それっぽい』っと褒めてくれたのだ。
「ああ、それっぽいよな。ははっ……」
褒められたはずなのに、何故だか『パチモン』臭さが残る言葉に素直に喜べないでいた。
「ワタクシ達はもう少し、服を見て回りますわね~」っと言われてしまい、会話が途切れてしまいオレは別の所へ行くことにした。
そうして、最後に静音さんの元へ行こうとしたのだったが、肝心の静音さんの姿が見えずにいた。
「ところで静音さんの姿が見ないけど……あの人どこ行ったんだ?」
ベルの音がしなかったから店内には出てはいないと思うが、周りを見渡してもあの目立つ黒服のメイド服を見つけることができずにいた。
広くない店内を隈なく探してみると、静音さんの姿を見つけることができた。そこは……魔法使い御用達の『魔法の杖』がたくさん並べられている棚だった。
静音さんは座り込み、何やら一本の古ぼけたワンドを食い入るように見つめていた。
「なんだ静音さん、そんな所にいたのか? 座ってたから見つけられなかったよ」
そう静音さんに声をかけたのだが、
「…………」
静音さんは真剣な顔をして、一本のワンドを見つめていた。
オレの声を無視するのではなく、そもそも最初から聞こえていないような、それほどまで真剣な表情をしてそのワンドだけを見つめていたのだ。
「シ……ィ。あなた……こんなところにいたんだね。……ごめんね。見つけるのが遅くなって……」
最初の方はよく聞き取れなかったが、ワンドの名前なのだろうか? 静音さんはそう呟くと、その古ぼけたほこりを被っているワンドをそっと撫でる。
それはまるで旧友と出逢い、懐かしむように優しく優しく撫でていた。
そんな静音さんの横顔を見ていると、何だか懐かしさような、また申し訳ないような感情がオレの中でが込み上げてきた。
そしてそんな感情を誤魔化すように、ふと彼女の名前を呟いてしまう。
何故だか彼女が静音さんではない別の誰かのように感じてしまったから……。
「しず……ね……さん?」
そんなオレの声に反応するように振り返ると、静音さんが初めてそこでオレが傍にいた事に気付き、いつもの調子で返答してくると思ったのだったが、
「あ、アナタ様ぁっ!? ……も、もういつから見ていたのですか!! また……また、ぶち回しますよっ!! ぐすっ……すんすん」
そういう静音さんの目からは涙が溢れ出してしまっていた。言葉も途切れ途切れでいつもの調子とは違い、それこそまるで別人のような違和感を懐いてしまう。
「静音さんどうしたの? そんな泣いたりして……何かあったの?」
オレはいきなり泣き出した彼女に理由を聞こうとしたのだが、
「す、すみません。す、少しだけお待ちくださいね……っっ」
静音さんは溢れる涙を必死に指で何度も何度も拭い払い、どうにか溢れる涙を抑えようとするだけだった。
「(一体静音さんどうしたっていうんだよ? いきなり泣き出しちまってさ? あのワンドに……何か思い入れでもあったのか?)」
静音さんが最初泣き出した時「どうせ演技か何だろう?」と勘繰ってしまったが、今の彼女の様子をみるに本当に泣いているようにオレに見えた。
「もしかして、あのワンドが……」
「いえ、何でもありませんよ! ……と、ところでアナタ様はワタシに何か用だったのですか?」
静音さんにあのワンドについて聞こうと思ったのだが、静音さんの言葉で遮られてしまい、聞くに聞けなくなってしまう。
「あっいや、……これと言って特に用事はなかっ……」
「おやおや、今気が付きましたが……アナタ様、その格好は?」
またもや遮るように静音さんが言葉を発してしまう。まるで何か都合が悪い事を隠すかのように……。
「えっ? ああ……これ? 実はアリッサにさ、見立ててもらったんだよ。どう? 似合ってるかな?」
オレは静音さんのその思惑に乗ることにし、わざとらしくペタペタと服やら剣やらを触ってみせる。
「ええ……とてもお似合いになられておりますよ。とても……」
静音さんは先程泣いていたのが嘘のように、笑顔でオレを褒めていたのだ。
「…………そ、そう? ありがとう」
(やっぱ静音さんおかしいよ。だって普通なら『おやおや、アナタ様は馬子にも衣装と言う言葉をお知りではないのですね(笑)』とかオレを馬鹿にするはずなのに、普通に褒められたんだぞ)
オレは戸惑いながらも、素直に褒めてくれたことに対する感謝を述べるだけだった。
『…………』
静音さんの涙が落ちた時にそれがワンドに触れ、少しだけ光を放ったのをオレも静音さんも見ておらず、そして周りにいるみんなも誰も気づいてはいなかった。
『…………(認証を確認いたしました。……マスター)』
ワンドから声のようなモノが聞こえたような気がした……。
第135話へとつづく