第133話 己の無力さと剣の重さ
「アンタ自分が何なのか分からないのかい? はっ……まったく、よくそんなんで生き延びられたもんさね!」
そう言うとアリッサは呆れたようにため息をついてしまう。その気持ちは言われた本人であるオレでも同じなのだ。
「そう……だよな。オレってさ…………何なのかな?」
まるで自問自答するようにそう呟いたが、一体自分が何役なのか……考えてみても、まったく解答は得られなかった。
「んんっ。……す、少しあたいも言い過ぎたよ。ま、とりあえず魔法は使えないんだろ? それなら剣とか鎧はどうだい? まさかあっちのお嬢ちゃんみたく武道家ってわけじゃないんだろ? なら素手、丸腰なんて自殺行為になっちまうよ」
アリッサはオレが落ち込んでいるのを気にして、わざと咳払いをすると励ますように、オレには何が必要なのか教えてくれる。
「そう、だよな……うんうん! 魔法も素手もダメなら、後は剣とか槍しかねぇもんな! それに弓矢とかだぶん引けねぇと思うし、最初からそれしか選択肢がなかったわ。はははっ……」
オレは明るく振舞ったのだが、最後はやや自傷気味になっていた。
「まずは形から入るってのもあると思うよ! ほらほら、そんな落ち込んでないでさ!! あたいがアンタに似合うような物を適当に見繕ってあげるからさ!!」
そう言うとアリッサは、オレの背中をポンポンっと押し店内を見て回りながら、オレの体に合うような洋服や胸当てそれにマントやベルト、最後にレイピアのような細い剣をオレに見繕ってくれた。
「どうだいどうだい? ちょっとはそれっぽくなったんじゃないかい? ほら、どこをどう見てもさっきよりは断然男前でマシになったって感じがするさね!!」
アリッサの店には鏡が無いので、自分の容姿が見えないがそれっぽい格好をすると、何だか別人にでもなったかのように思えてきた。
「キツイところとか、動きづらいところはないかい?」
「えっ? あ、ああ! 服自体は動きやすくて良い感じだよ。ただ……このマントのビラビラとか、剣が足に当たるのだけは違和感あるよな」
普段マントなど羽織ったことの無いオレは、どうにも動きづらいと感じてしまい、また携えなれていないせいか腰ベルトに下げている剣がふわふわっと動いて、ふともも辺りに当たりまくって痛かったのだ。
「ま、そこらあたりは慣れればどうってことないさね!」
すごく軽い感じアリッサはオレの背中をバンバンっと、まるで布団を干すかのように叩いていた。
「いたっ!? アリッサ力入れすぎだろうがっ!!」
「おっとそうだったかい?」などと、アリッサはわざとらしくおどけてみせる。
「それとさ、この剣……これって細くてレイピアみたいだよな? さすがに細すぎやしないか?」
オレは剣の太さが気になり、選んでくれたアリッサに聞いてみた。
「いいや、それはそれでいいのさ。大体アンタ……剣持つの初めてなんじゃないのかい? 普通剣が足に当たるなんてのはありえないことさね! そんな素人がいきなりそこにあるような剣を振舞わせると思うのかい? 2振りもすりゃ、へばっちまってあの世逝きだよ!!」
そう言うとアリッサは傍に立てて飾られた剣を一本取り出すと、鞘から引き抜いた。
そしてその剣だけをオレに持ってみるように言ってきたのだ。
「ほらっ! 持ってみな!! 両手じゃなくて、片手でだよ。コイツは片手剣の代表格品『ロングソード』だからね。みんなこれくらいを利き手に持って、別の手には盾とか持つんだからね」
それはオレがこの店に来て最初に持ち、振り回した剣だった。
「こんな重いのを片手でぇっ!?」
前に持った時は両手だった。それも1回振り下ろすだけでも、体重をとられバランスを崩したくらいだ。それをアリッサは「片手で持って振れ!」と言っているのだ。無理があるにも程がある。
「ほらよっ!」っと押し付けられ、オレはしょうがなく片手で持ち、天に掲げてみた。
「うぐっ!? お、おもいよな……これっ」
持っている手がプルプルと振るえ、今にも落としそうになってしまう。
「そこから前へと、真っ直ぐに振り下ろしてみな」
アリッサは一言だけそう言うと、オレのそのまま振り下ろすように指示をした。
オレは言うなりになり、そのまま振り下ろしてみた。
ぶ……ん。そんな鈍い音と共に、オレは剣に重さを捕られてしまいバランスを崩してしまう。
「っとと!! あ、あっぶねーな!?」
自分でやっておいて危なさを実体験してしまう。
「そうさ、それが剣の重みってやつさね。アンタはその程度の剣も満足に扱えないのさ。言っちゃ悪いけど、アンタにゃその剣を扱うだけの筋力も資格もないのさね。だからこっちの細っこくて、アンタでも扱いやすいレイピアを勧めたのさ」
「これで分かっただろ?」とアリッサは無力さを知らしめることで、オレの考えの軽さを身を持って体験させる事により戒めたのだ。
「ああ、よくわかったよ。自分の『力』ってヤツを……」
オレは自身の力を身を持って体験させられ、その無力さに落ち込んでしまう。
「ま、最初は誰でもそうさね、っと!!」
ブンブンッ! アリッサは剣を受け取ると、オレが掲げるのもやっとだったロングソードをいとも容易く利き腕ではない片手で天高く掲げ、真っ直ぐに振り下ろした。
「すっげぇー」
オレが出せるのは、ただ単純に自分が扱えなかった剣を簡単に扱える事に対する驚嘆の言葉だけだった。
「ふん! こんなのそこらの子供でもできるさね。それにアンタ剣を持つのは初めてだったんだろ? 姿勢が悪いから剣を持つこともできないし、芯を食わず剣先がブレて真っ直ぐに振り下ろせないのさ。……ま、すべては練習次第でどうにでもなるってことさね。今のアンタは腕も肩も背中も剣を持てる、または持つ続けるほどの筋力が無いってことなのさ!!」
っとアリッサは然も簡単に言い退けてしまい、オレは反論の言葉を口にできなかった。
第134話へつづく