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第131話 妥協案

「ほんなら姫さん、ワテはもう用済みですわな?」


 そう言うと、ジズさんは宿屋の中にその大きな巨体のまま帰って行ってしまう。

 オレはジズさんがどうやってあの大きな体で建物の中へと入るか気にはなっていたが、そんなものを見る余力が残されておらず、ただただ土と草とお友達になるので精一杯だったのだ。


「アナタ様、それでお金の方はいくらぐらい下ろせました?」


 そんなオレを気遣い、静音さんは勝手に物語を進めてくれるようだ。


「…………」


 オレは無言のままポケットから、丸めたお札を取り出すとそのまま静音さんに投げつける。


「おっと! アナタ様は乱暴なのですね……まったく」


 っと言いながらも静音さんはATMで下ろしたばかりのお金、諭吉大先生を数え始める。


「…………」


 オレは横になると、静音さんが数えてる様子(さま)を眺め「静音さん……アンタほんと守銭奴だよねぇ~」っと呆けながらに眺めていた。


「……28、29、30っと。ちょうど30枚のようですね」


 静音さんが万札を数え終えると同時に、オレもようやく思考が追いつき静音さんに聞いてみた。


「……静音さん、それでいくらぐらいになるのさ? え~っと……シルバーか?」


 色々と恐怖体験をしてきたせいか、この世界の貨幣単位すらも忘れてしまっていた。


「あっ、はい。そうですねぇ~……日本円で30万ですからね。ちょっと待って下さいね!」


 そう言うと静音さんは考え込み始めていた。たぶん頭の中でシルバーに換算してくれているのだろう。


「……ちょうど3000シルバーですね!」

「3000……シルバー」


 正直それを聞いてもピンっとこなかった。宿屋が1人1泊5シルバー。オレ達はオレを含めて5人、1泊あたり25シルバーかかる。っということは、ざっと見積もって120日分の費用である。


「……それってさ、多いの? それとも少ないの?」


 まだピンとこないオレは、静音さんへと直接聞いてみることにした。


「そうですねぇ~。正当なレートだとは思いますよ。素泊まりとはいえ、宿屋が1泊5シルバーですよね? これを現実世界の価値に換算すると、500円ほどになります。500円なら相当に安いお値段ですよね?」

「あー、うん。そうかもしんないね……」


 オレは未だにピンとこず、静音さんが言うがまま従うことにした。


「うむ! どうやら話は終わったようだな? それではジャスミンに報告に行くとしようか!」


 天音が空気を読んだのか、それともただの勢いだけなのか、さっさと物語を進めようと提案してくれる。

 オレはただ黙ってそれに従うように宿屋へと入り、ジャスミンがいる酒場へと足を向けたのだった。



「今帰ったぞ!!」


 天音が開口一番、まるで自分の家に帰ったようにジャスミンへと帰還のあいさつをした。


「あれぇ~っ!? もう解決しちゃったの!? ほんとのほんとにぃ~っ???」


 ジャスミンは疑いながらも、オレ達が問題をすぐさま解決した事に大層驚きを隠せない様子。


「ええ。もちろんですよジャスミン。我々がきっちりと解決してきましたよ」


 静音さんは何もしていないのにも関わらず、そう胸を張りながら威張っていた。


「そうなんだ!! ほんと助かったぁ~♪」

 

 ジャスミンは井戸の問題が片付き、ホッとしたように胸を撫で下ろし安堵していた。


「……それで、井戸から見えた光と声の正体は何だったの? やっぱり魔物だったのかな?」


 ジャスミンが詳細を知りたいと、オレ達にそれを聞いてきた。


「あ~……」


 オレはどう説明してよいのやらっと、考えてしまう。

 さすがにこの世界には存在しないATMについて話わけにもいかないし……。そうこうする内に、静音さんが代わりに説明をしてくれた。


「ええ、そうですね。ですが、特段危険のないものでして……これからも人に危害を加えることはないと思うので、もし光や声を聞いても安心して下さいね」


 未だかつてこんな適当な説明があっただろうか?

 内容をこれっぽっちも説明せず、大丈夫だから……の一点張り。そんなので一体誰が騙されるというのだろうか?


「あっそうなんだぁ~。それなら安心だね♪」


 っとジャスミンは静音さんの説明を鵜呑みにしてしまう。


「(おい!! いいのかよそんなんでさ!? ジャスミン、オマエ警戒心というものを知らねぇのかよ!?)」


 オレはそんなことを思いつつも、口を挟むとロクな事がないと思い口を開かなかった。

挿絵(By みてみん)

「はい! じゃあこれが約束の報酬だよ♪ 少ないけど、100シルバー入ってるからね♪」

「100シルバーも!? いいのかよそんなに貰っても!?」


 オレは依頼の内容とその報酬とが見合っていないことに驚き、そんな声をあげてしまった。


「えっ? でも……これは報酬だから……」


 ジャスミンはオレの驚きに対して、困ったような表情を浮かべてしまう。


「いや、ほんといいって! 早めに解決もできたわけだし、それに別に大した事してねぇしさ。あとジャスミンにはいつも助けてもらってんだから、これくらいは……」


 別にそれは謙遜ではなく、ほんとに大したことはしていなかったのだ。「ただATMで金を下ろしただけで、こんなに報酬を貰えるわけがない!!」そう思い、オレは辞退しようと断りを入れた。


「うーん、さすがに『無償』ってのはボクも都合が悪いんだよね……」

「うん? 何でだ?」

「うん。ほらボクってギルドも運営してるでしょ? それなのに自分の都合で依頼をして、いくら簡単に解決できたとしても、無償だと……」

「角が立つ……っというわけですね」


 静音さんが察したように、ジャスミンをフォローする。


「角?」


 オレは「何の事だ?」っというように、静音さんへと話を振った。


「ええ、いくらジャスミンがギルドを仕切っているのだからと言って、我々に無償で依頼をしたとなると、ジャスミン自身とギルド全体の信用に関わってくるのですよ。簡単な依頼なら誰でも無償になる……とね」

「あっ……そっか」


 そこでようやくオレはジャスミンの言いたいことを理解した。


 依頼とは対価を得てするものであって、無償つまりボランティアではないのだ。もし一度でも無償で受けてしまうと他の依頼事案にも影響するだろうし、依頼を受ける側にとっても悪い影響となってしまう。

 それに無償になるとそこに責任というものがなくなってしまい、依頼する側も困ることになる。


「(そう言った意味も含めて、ジャスミンはオレ達に対して対価としての報酬を受け取って欲しいって事なんだろう)」


 オレはその説明を受けて納得はしたが、本当に何にもしていないので受け取るのを躊躇(ためら)ってしまう。


「お兄さん、受け取ってくれないの? うーん……困ったなぁ~」


 ジャスミンもオレと同様に、報酬を受け取らないことに頭を悩ませていたのだった。

 そこでオレは妥協案として、別のことを提案してみることにした。


「……ならさ、ジャスミン。金は受け取らずに食事代と相殺ってのはどうかな?」

「えっ? 食代って……そんなので本当にいいの? お兄さん達がさっき食べたのだって、大体15シルバーくらいなんだよ? 全然割りに合ってないよ!?」


 だが、オレも一歩も引かない姿勢を察したのか、ジャスミンはこう切り出した。


「じゃあさ、お兄さん達は数日くらい泊まっていくんでしょ? それならその間食事代をもらわないってのはどうかな?」

「えっ? でもそれだと……そっちの方が高くつくよな? 1食15シルバーだと6食も食えばそれになっちまうしぞ」


「ふふっ、それでいいんだよお兄さん♪」っとジャスミンもオレと同様に、引くつもりはないようだ。


「ったく、ジャスミンも負けず嫌いだよな? ははっ……」


 オレは呆れたように負けを認めると、「じゃあ、それでお互い良いよな?」と納得することにした。



 第132話へつづく

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