第130話 ダメならもう1度やるだけですよ♪
「おいマジかよ!? いきなり真っ暗になって何にも見えねぇよ!?」
突如として役目を終えたATMはその光を失い、井戸の中は真っ暗で何も見えず、再び得もいえぬ恐怖がオレに襲い掛かってきていた。
「お、おーい! みんなぁ~!! 貯金下ろしたからさ、引き上げてくれよぉ~!!」
オレは居た堪れなくなり、上にいる天音達に「早くここから出してくれ!」っと助けを求める。
「…………」
だがしかい、一切の反応がなかったのだ。
「おい! 何でみんな返事しねぇんだよ!? みんなそこにいるんだろう? 早くここから出してくれよ!! マジで暗くて寒くて、怖ぇぇんだよ!! 聞いてるんだろクソメイド!! 早く引っ張りやがれっ!!」
オレは無視され段々と言葉が過激になっていく。
「おっ……」
ガラララララララララッ。再び声をかけようとすると、いきなりロープが凄い勢いで引っ張られ振り落とされそうになってしまう。
「おわわわわわわっ!? マジかよマジかよ!? ……っ!? ぶ、ぶつかるぅぅぅっつつ!!」
地上にある滑車を支える部分まで、物凄い勢いで引っ張られ、ぶつかる寸前まで迫っていた。
ガララッ……ピタッ。
「ぅ~~~っ!? ……う、ん??? ま、眩しっ!?」
いきなり暗い井戸の中から、久しぶりの外の光をまともに受けてしまい、とても眩しくて目が開けられなかった。どうやら滑車はぶつかる寸前で止まってくれたようだ。
「……ちっ。……おやおや、アナタ様。生きておられたのですか?」
静音さんはしれっと何食わぬ顔でそう言い放って、オレが無事だった事を舌打ちしながら喜んでいた。
オレはぶつかる恐怖を押さえ込み、息を整えるとそのクソメイドに怒鳴った。
「オマエ、マジで馬鹿じゃねぇのか!? あんな勢いで引き上げるヤツがいるかよ!? どうやって……あー」
オレはその勢いよく引き上げてくれた張本人を目にして納得した。
「おう、兄さん。怪我はありまへんでしたか?」
そうジズさんが勢い良くロープを引っ張ってくれたのだった。
「アンタが原因だったのか……」
オレは安堵したと言うよりも、「こんな馬鹿デカイドラゴンがロープ引っ張りゃ、そりゃ~勢いもつくよなぁ~」っと呆れ果ててしまう。
「そうですわ。姫さんが何やらワテに手伝って欲しいって仰いましてな。それで手伝どうたんですわ」
「もきゅもきゅ♪」
もきゅ子は「良いアイディアだったでしょ♪」っと満足そうに喜んでいた。
「あー、うん。ありがとうなぁ~……もきゅ子にジズさん」
「もきゅ♪」
「そんな兄さん、礼なんていりまへんわ」
オレはジズさんともきゅ子に礼を言うと、傍に居た静音さんへと話しかけた。
「……もしかし、静音さんがもきゅ子を嗾けたのか?」
「あっ、はい♪」
屈託の無い笑顔で静音さんはそう答えた。
「ってか静音さんさ、マジであの勢いでロープ引っ張るのはヤバイってば!! マジでこのガラガラ……滑車の部分に頭直撃するとこだったもん! もうちょっとさ、こ~うゆっくりと引っ張って欲しかったよ」
「あー……そうでしたか。それはすみませんでした」
オレがロープの勢いについて抗議すると静音さんは、素直に謝ってくれた。
「それではアナタ様のご希望と言うことなので……もう1度最初からやり直しますね♪」
「んんっ!? な、何そぉれ~~~~っ!!!!」
静音さんはそう言うと、ジズさんに向かって指示を出すように親指を下へとビッ! っと下げる動作をした。すると、その途端ロープを咥えていたジズさんは口を離してしまい、オレは再びほの暗い井戸へと吸い込まれるように落下していった。
「マジかよクソメイドがぁっっっっ!!!!」
オレは落下する時でさえも、静音さんへの暴言を忘れない。
「落ちる! 落ちるっ!! 落ちるぅぅぅっっっ!!!」
先程とは比べられないほどの落下速度にオレは、必死にロープにしがみつき、宇宙飛行士のように無重力体験をしながら井戸底へと落下していた。
「ぶつかる! ぶつかるっ!! ぶつかるぅぅぅっっっ!!!」
再びオレの目の前に水面が顔を覗き込ませ、目前まで迫っていた。オレは水面に叩きつけられる怖さと死の恐怖から目を瞑ってしまう。
「(マジかよ!? こんなアホみたいな理由で死んじまうのかよ!?!?)」
そんな矢先グンッ!! っとロープが引っ張られ、水面に叩きつけられるのをなんとか回避することが出来たのだった。
「……助かっ……たのか?」
オレは恐る恐る目を開けると、汲み桶が水面まであと数センチのところで止まっていることに安堵し、胸を撫で下ろした。
「アナタ様ぁ~、準備はよろしいですかぁ~?」
「はぁっ!? 準備ぃ~? な……」
「何のだよ?」っと聞こうと思ったがガララララララララッ。っと勢い良くロープが引っ張りあげられ言葉を口にする余裕が無かった。
「マジかよマジかよーーーーっ!? ぶつかる!?」
もう何度目か分からない恐怖、そして迫り来る滑車部分。
だがしかし今度もガラララッ……ピタッ。っと再び上まで上り詰めると止まってくれた。
「どうですかアナタ様? 満足されましたかね?」
静音さんは「もう一回やりますかね?」っと満面の悪魔の微笑みを浮かべ、再びオレに聞いてきた。
そんなオレに唯一できることは、「(ぶんぶんぶん)」っと首を横に千切れんばかりに振り、その問いかけを拒絶することしかできなかった。
そうしてどうにか井戸から這い上がると、オレは地面へと倒れこんでしまう。
「うん? 何だキミは? そんなに井戸の中は怖かったのか? だらしなぁ~」
「お兄様は怖がりなんですわね。うふふふっ」
「もきゅ~?」
天音達は各々オレへの気遣い労いの言葉をかけてくれたのだった。
第131話へつづく