第124話 これがほんとの異世界メシの神髄《しんずい》!!その4
「あ~それはですねぇ~。ほらアナタ様、これを見てください」
静音さんはオレの目の前にある先程切り分けた、そのパンの断面を見せるようにと言った。
「普通パンは中身の部分が白色でやわらかいですよね? ですがこのパンは外も中も黒く、所々粒々したのが見えるでしょ? これは小麦だけでなく、大麦やライ麦それに他の穀物を交ぜて作ったからなのですよ」
「あっ確かに、オレもパンの色とか粒々した食感は気になってたんだよ。小麦の他に、大麦とか色んなのを交ぜてるからこんな色になったのかぁ~!」
静音さんの話によれば小麦のみを使った白色のパン、通称『白パン』は高級品であり、一部の貴族や大金持ち、王族くらいしか口にできないのだと言う。
一般庶民は少量の小麦に大麦やライ麦など他の穀物を多く交ぜた黒色のパン、通称『黒パン』と言うのが主食なのだと言う。いつの時代かは定かではないが、パンを焼くにも薪などを調達せねばならず日持ちするからまとめて黒パンを焼いているそうだ。また黒パンは大麦など交ぜるモノによってより固くなり、白パンと比べより長く日持ちするようになるのだと言う。
そしてスープが薄味なのについても、「ここは海から遠いため、塩を調達するのにも日数と輸送料がより多くかかるのでしょうね。それに塩は胡椒ほどではありませんが高価ですし、アナタ様が薄味に感じたのもきっとそのせいなのですよ」どうやらこの世界は胡椒だけでなく小麦も塩も砂糖などなどすべてが、オレのいた現実世界とは比べ物にならない程に高級品なのだと静音さんは説明してくれた。
「マジかよ。まさか食べ物を通して『異世界の洗礼』を受けるとは思ってもいなかったなぁ~」
オレはぶつぶつ文句を言いながらも、もきゅ子の分を食べ終えさせると、とっくの昔に冷め切った自分の分を食べ始めることにした。
「ふぅ~。お腹が膨れたら何だか落ち着いてきたな!」
天音はまだ食べているオレを他所に、さっさと次の展開に進めようとしていた。
「天音……オレ……まだ食ってるから(ズズッ)」
そんなスープ飲みながらのオレのセリフを飛ばすように、静音さんがジャスミンに話しかけた。
「そういえばアリッサから聞いたのですが、この酒場は『ギルド』も兼ねているのですよね? 何でも『依頼』を受けることもできるとか。ジャスミンが酒場だけでなく、ギルドも仕切っているのですか?」
静音さんは前フリするように、ギルドで受けられる『依頼』についてジャスミンに聞いていた。
「まぁギルドなんて立派なもんじゃないけど、うん。ボクが一応『ギルド』を運営しているんだよ♪」
ジャスミンは天音達の皿を片付けながら、そう受け答えをしていた。
「ほぉ~っそれは感心だな! ほんとジャスミンは働き者なのだな!!」
「ええ。ワタクシも見習いたいものですわね♪」
「もきゅもきゅ♪」
「(もぐもぐ)」
オレはパンを食べながら、みんなの話を聞いていたのだが少しだけ会話に参加する。
「(もぐもぐ)そのさ、ギルドの依頼って……(ズズッ)オレ達でも受けられるのかな?」
「もちろんお兄さん達でも依頼を受けることが出来るよ♪ でも、ギルドを通してじゃないと依頼は受けられないけどね」
片付けが終わったジャスミンは、オレ達のテーブル傍の空いている椅子に座りながら、ギルドの概要を説明し始めた。
「まぁアリッサから簡単には聞いたみたいだけど、もう一度説明するね! ボクのギルドでは困った人が依頼を持ち込むことが出来るんだよ」
「ふむ。それで依頼には当然それに見合った『報酬』があるのだろ? それは誰が決めるんだ? ジャスミンなのか?」
天音が相槌を打ちながら、質問をする。
「ううん、報酬を決めるのはボクじゃないよ。報酬は依頼を頼む人が自分で決めるんだよ。だから当然報酬が安い依頼も含まれるけど、受ける受けないは誰でも自由だからね。ほら、アレを見てよ」
ジャスミンは入り口付近あるボードを見るように指差した。
「あれが依頼の紙が張られたボードなんだよ。依頼を受ける人はあの紙に書かれてる詳細を見てから受けるかどうかを決めて、ギルドを通して依頼を受けて依頼を完了してから報酬を受けるシステムなんだ♪」
「へぇ~。案外ちゃんとしてるんだな。あっいや、今のは『こんな世界なのに』って意味だからな!」
オレは慌てて言葉を訂正した。
「お兄さん。大丈夫だよ。そんな慌てて訂正しなくてもさ。うん。こんな世界だから困ってる人が多いしね。それなのに騙す人も多いし、依頼が完了しても報酬を払ってくれない人いるしね!」
「依頼したのに報酬を払わない!? そんな人までいるのか!? それじゃあ当然『ギルド』ってのは必要になってくるよな!」
こんなご時勢だから、騙す人もいるのだろう。オレは「何とも世知辛い世界なんだなぁ~」っと思っても、現実世界だって同じようなものだと改めて実感することができた。
第125話へつづく