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第123話 これがほんとの異世界メシの神髄《しんずい》!!その3

「もきゅ子がそれを望んでいるからって、何も……何も切らなくてもさあっ!!」


 オレは出来うる限り、叫び止めようとするのだが、


「アナタ様。これは仕方のないことなのです。切らなければ、そうしなければ食べることができないのですよ!」


 静音さんはそう言いながらテーブルにまな板を置くと、オレの元へと一歩、また一歩っと近づいて来ていた。


「も、もきゅ子ぉ~っ!!」

「きゅ~っ!!」

「…………」


 オレともきゅ子は迫り来る恐怖に目を背けるように、抱き締め合い目を瞑ってしまう。


「ほら、もきゅ子も早くそれ(・・)を離してください。離さなければいつまでも切れませんよ!!」


 静音さんはもきゅ子手から強引にそれ(・・)を引き抜くと、テーブルの上に置いてあるまな板に置き、ナイフの刃を当て切り始めた。

 まず硬い表面に軽く切れ目を入れザクッ、ザクッっと、ゆっくりとナイフを動かしてそれ(・・)が1枚1枚切り分けられていく。


「ふぅ~っ。どうにか切ることができましたね。おや、アナタ様。何故目を瞑っておられるのですか?」

「はははっ、こら静音。それは聞くのが野暮と言うものだぞ。きっと刃物が怖いから目を瞑っているのだろう。そうなのであろう、なあキミ?」

「そうなんですのお兄様っ!? ふふふっまるで子供ようですわね」


 切り刻まれる恐怖から逃れるため目を瞑っていることを、天音と葵ちゃんに笑われてしまう。


「(何でコイツらは平気なんだよ!? 静音さん……何枚にも切り分けたんだろう? それなのに切られたもきゅ子を見れるわけねぇだろ!!)」


 っと、オレは悲しみを抑えるように腕の中に居るもきゅ子のことを抱き締めた。


「きゅ~っ、きゅ~っ」


 オレの気持ちに応えるようにもきゅ子が鳴き声をあげる。


「…………っ!?」


 そこでオレはその異変に気付いた。「何故切り分けられたはずのもきゅ子の声が聞こえるのか? いや、そもそもこのオレが抱きしめてる感触はなんだ?」そう思い、そっと目を開けてみると、なんと腕の中にはそのもきゅ子がいたのだった。


「もきゅ子!? オマエなんで!? 静音さんに解体(バラ)されてんじゃなかったのかよ!?」

「きゅ? きゅっ?」


 もきゅ子は「あれ? 何でだろうね?」っと不思議そうな顔をして、オレと顔を見合わせていた。


「さぁ~もきゅ子。パンを食べ易いように一口ほどの大きさに切り分けましたよ。これでも少し固いかもしれませんから、スープに浸してから食べるのですよ」


 静音さんは何枚にも切り分けた、歯形が付いたパンを皿に盛り付けるともきゅ子の目の前に差し出してくれた。


「僧侶のお姉さんって親切なんだね! ボクも見習いたいなぁ~♪」


 ジャスミンは静音さんがもきゅ子の為、パンを切り分け食べ易いようにした行為に感心していた。


「さて、これでみんなで食べられるな。さあさあ……みんなも気を取り直して、席に着いて食事を再開しようではないか!!」


 天音がそう言うと、オレともきゅ子を除くみんなは席に着いて各々パンやスープを食べ出し食事を再開していた。


「し、静音さんがナイフで切ってたのって……『パン』だったの? その……もきゅ子じゃなくて?」

「スッ……へっ? アナタ様何の話をなさっているのですか? ワタシは最初からパンの話をしていましたのですが……」


 スープを飲んでいた静音さんが飲むのを中断し、そう補足をしてくれる。


「ま、マジかよ。オレ、天音と葵ちゃんが『肉! 肉!』って叫んでるから、てっきりもきゅ子を切って『肉』にするのかと思っちまったよ。おかしいよな、ははははっ……」


 オレは自分の間違いを恥じるように笑い、誤魔化そうとするのだが、


「「「「…………」」」」


 みんな何も言葉を発せず、石像のように固まり動かなくなってしまう。


「いや、今のはほんの冗談なんだぜ。冗談っ!! さすがにそんなこと……」


 オレは「さすがにそんな考えをするのは引かれたか!?」っと思い慌てて繕うのだが、


「……ふむ。それもいい考えだな♪」

「……お兄様、ようやくお肉が手に入ったのですね♪」

「……アナタ様にしては、良き考えですね♪」

「……ドラゴンの肉ってさ、高く売れるんだよね♪」


 っと、何故だかみんな賛同し、もきゅ子に視線を送り始めた。その視線はまるで猛禽類(もうきんるい)が獲物を狙う時の目とそっくりだった。

 みんなの視線を一身に受けるもきゅ子は「やっぱり食べられるの!?」っと勘付くと、隠れるように慌ててオレにしがみ付き直していた。


「もきゅ!? きゅ~きゅ~」

「み、みんな冗談だよな? な?」


 オレは落ち着かせるようにもきゅ子の頭を撫でながら、確認する意味でもそう聞いてみた。


「……あ、ああ……そうだな」

「……お肉ぅ~」

「……なぁ~んだ、冗談だったのかぁ~。ボク勘違いしちゃったよぉ~」

「…………ちっ」


 みんな言葉に含みを持ちながらもどうにか否定してくれた……っと思う。いや、そうであると信じたい(ただし舌打ちしている静音さんを除く)。


 そうして、食事は再開されることとなった。オレは守るようにもきゅ子を抱きかかえながら、テーブルの席に着いた。


「ほら、もきゅ子。パンだぞ」

「きゅ~っ!!」


 スープに浸し、やわらかくしたパンをもきゅ子に与えようとするのだが、もきゅ子は先程の硬い印象が強いのか、パンを与えようとしても「いやいや」と首を左右に振り、拒絶する。


「今度は大丈夫だって。ほ~らぁ~もぐもぐもぐ~っと、全然硬くないだろう?」


 オレは通信販売で実演するように、スープに浸したパンを口にすると硬くないことをアピールした。


「きゅ、きゅ~?」


 もきゅ子は「ほ、本当に?」っという顔をしながらも、スプーンに乗せられたスープに浸されやわらかくなったパンに口をつけた。


挿絵(By みてみん)

「きゅ~っ♪ きゅ~っ♪」

「なっ! ちょっとまだ硬いけどさ、食べられるだろ?」


 スープに浸されたパンは先程とは比べ物にならない程やわらかく食べ易くもなっていた。また切り分けたことでパンの中の比較的やわらかい部分にスープが染み込んだ事でより、食べ易くもなっていた。

 もきゅ子はお腹が空いていたのか、催促するように鳴き出していた。


「待て待て。ゆっくり食べないと咽っちまうぞ」


 オレはゆっくりともきゅ子にスープに浸したパンと、スープを食べさせる。

 そこで疑問が浮かび、隣に座っている静音さんに聞いてみることにした。


「そういえばさ、静音さん。どうしてこのパンはこんなに硬いのかな? それに数日前に焼いたものだっても言ってたしさ」


 この物語は他作品の異世界メシとは何が違うのか、その理由を静音さんに尋ねたのだった。



 次話までにその理由を考えつつ、第123話へつづく

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