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第119話 スープを目の前にして、野生のお嬢様が二人誕生?

 前回までのあらすじ!!

 無力で何もできないオレは、少しでも早く腹ペコでもきゅ子を齧っている仲間に食事を提供するため、厨房にいるジャスミンを手伝うことにした。まぁ手伝うと言っても、皿を何枚か出し並べ、よそったモノを仲間に届ける給仕だけしかできないのだったが、初めて人の役に立てたオレは得もいえぬ喜びを感じていた……


挿絵(By みてみん)

「んっ、と。はいお兄さん、まずは2人分取り分けたよ♪」


 ジャスミンは、一滴も零すことなく深皿にスープをなみなみと注ぎ、オレに手渡してくれる。オレはそれをファミレスのウエイターのように右手と左手に持つ。


「あちちっ!? 熱いなこのスープ!?」


 スープは無色透明だったが、スープの中身は白菜みたいな白い茎に緑色の葉が付いた野菜と、人参やじゃがいもなどがふんだんに入っていたのだ。そしてスープ表面からは温かそうな湯気が立ち昇り、空腹なオレにとってはまさに見るからに美味そうだった。


そんなオレの気持ちを表現するように、「ぐぅ~っ」っとお腹の虫が音を奏でてしまう。


「うにゃ?」


 ジャスミンは何の音という顔をしてから、オレの顔を見て納得したように笑顔になっていた。


「あっはははっ。わ、わりぃな……行儀悪くてさ」


 オレはバツが悪そうに両手に皿を持ちながらジャスミンに言った。


「ううん。そんなことないよ♪」


 ジャスミンはそう言ってくれたが、恥ずかしい事この上ない状況だった。オレは何だか居た堪れなくなり、それを誤魔化すかのように、「じゃ、じゃあまずは2皿運んじまうからさ、残りも頼んだぜ!」っと厨房を後にし、天音達が待つテーブル席へと向かって行くのだった。


「ほらみんな!! あったかいスープができたぞ! まずは……天音と葵ちゃんから、っと」


 オレはまず最初に、空腹でもきゅ子の頭を齧っている天音と葵ちゃん食竜(しょくりゅう)コンビからスープを提供することにした。そして左右に持っている2つの皿に盛られた透明なスープを零さぬよう、ゆっくりと天音と葵ちゃんの前に置いた。


 ゴトリッ。スープ専用の深皿の為か、手にしても熱くないようにと考え皿が厚手に作られているのか、テーブルに置いた時に重量感がある音がした。


「っと。熱いから火傷するなよ二人とも。あっ……す、スプーン忘れてた」


 スープを食べるのに肝心なスプーンを持って来なかったと、二人の目の前に置いてから気付いてしまったのだ。


「ご、ごめん二人とも!! 少し待ってろ……」

「うおっほぉ~っ!! これはとても温かくて美味しいな葵!!」

「そうですわねお姉様! この温かさはまるで、空腹のお腹を優しく包むように響きますわね! ワタクシこんなに美味しいスープは初めてですわ!」

「……よな」


天音と葵ちゃんはお嬢様にあるまじき、両手で皿を掴むとそのままスプーンなしで直接皿に口を付けスープを飲んでいたのだった。


「…………」

(さ、皿に直接口付けるって……コイツらほんとにお嬢様なのかよ!? マナーも何もねぇじゃねぇかよ!? ……いや、まぁそれだけ腹が空いているってのはあるだろうけどさ……それにしてもだよコレは!?)


 っと二人の食事風景を見て、オレは呆れ果ててしまうのだった。まぁ尤も「空腹に勝る調味料は無い」「料理を目の前にしては、お金がある人も無い人も、その身分に関係なく、誰もが平等(・・)である」って言葉があるくらいだ。ましてやもきゅ子を『生』で齧り空腹を凌ごうとする二人なら、この行動も致し方ないのかもしれない。


「「おかわり!!」」


 オレが薀蓄(うんちく)(補足解説)を言い終えると同時に、二人は空の皿をオレに差し出すと揃いも揃っての「おかわりコール」をしてきやがった。


「……ったく。コイツらときたら……」


 給士をしているオレだけでなく、もきゅ子もまた静音さんだってまだ一口も食べていないってのに、おかわりを要求する二人のお嬢様の傲慢(ごうまん)さ。その食欲・食べる(さま)ときたら、まるで『野生のお嬢様』と言っても過言ではない。


 オレから見れば二人は一応『お嫁さん候補(仮)』なのだから、言うなれば今の二人はさしずめ……『野生のお嫁さん候補(お嬢様)』っと言ったところだろうか?


「(『野生のお嫁さん候補(お嬢様)』……うーん、自分で言ってて意味分かんねぇよ。お嫁さん候補(・・・・・・)! ……なのに野生(・・)みたいな?)」


 考えれば考えるほどより意味が分からなくなっていた。


 そしてそんな二人に呆れるようチラリッと静音さんともきゅ子を盗み見ると、「私達には構わず、お先にどうぞ」っと言った顔をして肩をすくめ両手を広げていた。


「(まぁもきゅ子の場合、二人がスープに夢中になって自分自身が食べられない分マシって顔してるんだけどね)」


 そんな二人の野生のお嬢様に文句を言っても始まらないので、差し出された空の皿を回収し、ご所望のおかわりとやらを持って来る事にする。


「ジャスミンわりぃ……おかわりもらえるかな?」


 っと言いながら慌てて厨房に戻ると、ジャスミンに2枚の空になった皿を見せた。


「うにゃにゃ? もう食べ終えたの!? あんなに熱いスープを!? あははっ……うん! いいよいいよ♪」


 3枚の皿に注ぐ間にあんなに熱々のスープを、見るも止まらぬ速さで食べた事に驚かれ、そしてやや乾いた笑いを浮かべてから気を取り直したように、ジャスミンは空いた皿におかわりのスープを注ぎこんでいた。


 見るとスープが入った鍋の隣には、既に3人分の皿にスープが注がれていて湯気が立ち昇っていた。こちらの3つを先に持って行こうかと悩んだのだが、「どうせ先にこっちを持って行っても、あの野生のお嬢様共に食われるだけだよな……」っと思い、ジャスミンがおかわりのスープを注ぐのを待つことにした。


 スープを注いでる最中、オレは重要な事を言い忘れていたことに気付き、ジャスミンに伝えた。


「あっジャスミン。そういやさっきオレも忘れてたんだけどさ、スープを飲むスプーンか何かないかな?」

「あーそういえばボクも忘れてたよ!! ……あれ? でもそれならこの2つの皿はどうやって食べたの???」


 そうスプーンなしで空になった皿に疑問を持ったようだ。さすがにウチのお嬢様共が、「皿に直接口を付けてガブガブ飲み干しました!!」とは言えずに「まぁ……気にするな」と一言声をかけ誤魔化すことにした。



 119話目にしてタイトル回収を終えつつ、第120話へとつづく

※食竜=あな嫁独自の語句。食人(しょくじん)(ドラゴン)バージョンを指す

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