第118話 もしかして……これがオレの天性の才能?
「じゃあ何で、ジャスミンはオレの声が聞こえたんだよ?」
「ふふふっ、それはねぇ~っ」
もったいぶったようにジャスミンはバーカウンターに向かうと、そこに飾られていた『モノ』を手に取り、再びオレの前まで来るとそれを見せてくれた。
「これは……魔法石だよな?」
目の前に差し出されたその魔法石を前に「この緑色の魔法石が何か?」っという顔でジャスミンに目を差し向ける。
「お~っと、お兄さん。これはねぇ~ただの魔法石じゃ~ないんだよ! なんと遠くに離れた同じ種類の魔法石へと‘音’を届けることができるんだよ!!」
「遠くに音を……これが?」
そうジャスミンは自慢げに説明してくれた。
「……声を遠くに届けてくれるだってぇ~っ!?」
「まぁ『遠くに』って言っても、酒場とボクの店くらいの距離がせいぜいだから、あんまり遠くには届かないんだけどね」
苦笑いしながらジャスミンが、その魔法石をオレの右手へと手渡してくれる。
正直オレには何ら変哲のない『ただ緑色をした綺麗な石』にしか見えなかったが、そうゆう効果がこの魔法石には秘められているらしい。
要はこの魔法石の能力は、オレ達の世界で言うところの『電話』と同じ機能を持っている事になる。
「そんな機能まで魔法石にはあるのか!? まるで『電話』みたいだな……」
「デンワ??? デンワってなにお兄さん?」
オレが呟いた声が聞こえたのか、ジャスミンも言葉を繰り返したがその意味までは知らないようだ。
電話を知らないジャスミンにどう説明してよいのやらと迷っていると、
「『電話』というのは、まぁ要するに……『この魔法石』と同じようなモノですよ。遠くの人と会話をできる機械仕掛けの装置みたいなモノとお考えください」
「へぇ~お兄さんの世界でもこの魔法石みたいな、そんな便利なのがあるのかぁ~。……何だかボク、お兄さん達の世界に興味が湧いてきたよ♪」
静音さんがオレの代わりにジャスミンへと説明してくれると、ジャスミンも納得してくれた。
「……で、お兄さん達は食事がしたいんだったよね? どんなのがいいのかな?」
「ああ、オレ達腹ペコなんだわ。とりあえずメニューを……あっいや……」
ジャスミンは「何を注文するか?」と訊ねてくれたのだが、オレは既に何かを食べている天音と葵ちゃんへと目を向けると、
「何だか変な味だがするなぁ~。葵よぉ~(カジカジ)」
「そうですわねお姉様。きっと『生』だからだと思いますわよ~(カジカジ)」
「もきゅ~っ!! もきゅもきゅ!!」
そしてその光景を背けるよう視線を戻すとジャスミンにこう言った。
「……な、何でもいいからさ、なるべく早く食べれるものを頼むよジャスミン。も、もきゅ子が本格的に食われる前に……さ」
もきゅ子はまだ齧られてるにすぎない。もしこれ以上時間が経ってしまえば、お腹を壊すのを覚悟で『生』で食されてしまうだろう……ウチの天音と葵ちゃんに、だ。
「そ、そうだね。スープなら昨日のがあるから、あ、温めるだけだからすぐ持ってくるよ! あとついでにパンも~~っ!!」
その光景を直接目の当たりにしたジャスミンは笑顔を引き攣らせながら、厨房がある奥へと走って行った。
残されたオレはただ静音さんの隣に座り、真正面でもきゅ子が天音と葵ちゃんによって、頭から齧られてる姿を見守ることしかできなかった。
「きゅ~きゅ~」
もきゅ子はまるでオレに助けを求めるように切なそうに鳴き声をあげていた。だが、オレに出来るのは……
「…………」
ただ無言で座ってることしかできなかった。
「(すまんもきゅ子! 何もできない無力なオレをそんな泣きそうに『うるうる』とした瞳で見つめないでくれ!!)」
「あ、あのアナタ様。こんなこと言いにくいのですが……」
そんなもきゅ子の視線に耐えられなくなり、テーブルに突っ伏してうな垂れるオレに静音さんが声をかけてきた。
「もきゅ子が二人に齧られてるのに、何もできない無力なオレを……静音さんは罵りたいの?」
少しだけ顔を背け、静音さんの方に向けると嫌味を込めてそう返答した。
「……あっ、いえ。ワタシ達もただこうして座ってないで、ジャスミンを手伝えばより早く食事を用意できるのでは? っと思っただけでして……」
「…………っ!? た、確かにそうだよねっ!!」
(何でオレはそんな単純なことに気がつかなかったんだよ!! そうだよ……オレにもできることはあるんだよ!!)
静音さんに言われて初めて『それ』に気付くことができたのだ。
もうオレは、考えるよりも先に即行動に移すようにジャスミンがいる奥の厨房へと駆け込んだ。
「じゃ、ジャスミン!! オレにも手伝えることはないかな!?」
「へっ? ……あ、ああ! じゃあお兄さん、そこの棚にある皿を5枚取り出して、そこに並べて置いてくれるかな?」
鍋でスープをかき混ぜ温めていたジャスミンはいきなり厨房に入ってきたオレに驚いたが、すぐにその意味を察すると皿を並べるよう指示をしてくれた。
オレはジャスミンの指示通り、ジャスミンがスープをかき混ぜているコンロ横にある棚から皿を取り出そうとする。
「(スープを取り分けるんだよな? なら……)」
少し深めで丸い皿を5枚取り出すと、ジャスミンが取り分け易いように鍋の横へと並べた。
「おっ! お兄さんよくそれだって分かったね! ありがとう♪」
どうやらこの深皿で正解のようだ。まぁ尤も、他の皿は真っ平らな『平皿』ばかりで、とてもスープを分けられるような形状ではなかったのだ。
もしもこっちの平皿でスープを取り分けようにも深みがないため量を取り分けられないし、そもそも持ち運ぶのが困難になるだろう。また食べる際にもスプーンで掬えず食べにくすぎるのだ。まさか直接皿に口をつけて食べるわけにもいかないしな。
「あっ、あとパンを乗せる皿も必要だよね! お兄さん!」
「おう! まかせとけ!」
オレは同じように棚から平皿を5枚取り出すと、深皿の隣に並べる。
「よし、っと! もうスープが温まってきたね。じゃあボクが取り分けるから、お兄さん……悪いんだけど、みんなの所まで運んでもらえるかな?」
「ああ、もちろんだ!」
オレは笑顔でジャスミンに返事をした。ただ皿を並べるだけ。スープが入った皿を運ぶだけ。
たったそれだけの事だったが、自分が何かの役に立てることが嬉しかった。
「もしや……これがオレの天性の才能なのかもしれない……」
っとファンタジーの主人公にあるまじき行為、給仕に喜びを感じつつ、常に画竜点睛の如く、第119話へとつづく