第117話 店員は呼ばなきゃ出てこない!
前回までのあらすじ!!
ようやく宿屋に着いたオレ達だったが、「宿泊代と食事代とは別料金だ!」とジズさんに言われ「(別料金)これが現実なのかよ……」っと嘆きつつも、天音達が先にいるという宿屋隣に併設された酒場へと足を向けるのだった……
「ここがその酒場か。……にしても、オレ達以外誰もいないんだね」
そして満身創痍で満足に歩けないオレに肩を貸してくれている静音さんへと、そう言葉をかけた。
「まぁ、まだ日が高いですしね。こういった酒場には夜に人が集まるのかと思いますよ。いくらアレな世界でも、さすがに昼間からお酒を飲む人もいないでしょうし……」
っとやや苦笑いしながら、静音さんは教えてくれた。
その酒場は広々として長方形の長テーブルと椅子が所狭しと並べられ、カウンター式のテーブルや暖炉などがあった。暖炉の上にはインテリアなのか、古めかしい弓矢が飾られている。そして壁際の床にはワインが入っている大きな樽がいくつも置かれていた。その内二つの樽には木で作られた土台の上に横に置かれ蛇口コックが着けられている。どうやらこのギルドは依頼をだけでなく、ちゃんとした酒場の役割も担っているようだ。
だがこの酒場では食事が取れると言っても、街の人には日中あまり利用されていないようだ。街の人は主に家でご飯を食べるのだろう。静音さんの言いぶりでは夜には人が集まるらしいが……これではあまり期待できないかもしれない。
っとそんなことを思っているオレに対して、先に来てテーブルを確保している天音達が声をかけてきた。
「遅いぞ二人とも! 一体何をしていたのだ!? さっさとテーブルに着いてくれないと注文できないではないか!」
っと何故か天音からお説教を受けてしまう。オレは『だったら勝手に注文してればいいのに……』っと思い、それに反論する。
「オマエ達が先に行くから、このオレが宿屋の受付で全員分の宿屋代払ってたんだよ。……ってかオマエら、よく無一文なのに先に宿屋に入って、我が物顔でテーブルに着いていやがるよな! もうその厚顔ぶりには寒心するわ……」
そうアリッサからお金を貸し付け受け取ったのは、何を隠そうこのオレだったのだ。だからコイツらは無一文。なのにこの態度である。
「ほんとコイツら置いていって、どっか別の所行こうかな……」とも思ったのだが、
「天音お嬢様、ところで店員さんは呼んだのですか? 何やら見当たらないようですが……」
オレを支えていたはずの静音さんがちゃっかり先に席へと着いてしまい、行き場を失ったオレも泣く泣く席に着くことにした。
「私がそんなのを呼ぶわけないだろうが!! ……うん? も、もしかして……呼ばないと出てこないのか!?」
何やら静音さんの問いかけに、動揺する天音さん。
「いやいや、呼ばなきゃ来るわけねぇだろ……天音よ」
「そ、そんな……バカな……」
天音はこの世の終わりのような顔でテーブルに崩れ去った。そんな天音を見て、「どんだけお嬢様なんだよ……」と学園の時の思い出すと…………悲しいかな、何故か納得してしまった。
オレは痛む頭を抱えながらも、声が通るように椅子から立ち上がり、物語を進める為の言葉を口にした。
「す、すいませーん。……だ、誰かいませんかー? オレ達……食事がしたいんですけどー」
「………………(はーい。今行くから、ちょっと待ってねぇ~)」
っと店の外から女の子の声が聞こえてきた。
「あっ、ちゃんと店員いるんだ……」
てっきりオレが店員を呼んでも無視される流れかと思ったのだが、ちゃんと返事が返ってきた。どうやら店員さんは外で薪割り作業でもしているのか、遠くの方から声が聞こえた気がする。
「…………おっせぇなぁ」
返事から数分経っただろうか、「にしてもさっきの店員さんの声、どっかで聞いたような……」っと思っていたら、
「はぁはぁ……ご、ごめんね待たせちゃって! ってあれーお兄さん達だぁ~♪」
そう、その店員さんとは……ジャスミンだったのだ。そりゃ声を聞いた覚えがあるわけなのだよ。ジャスミンは急いできたのだろう、息を切らせながらもオレ達の姿を見ると笑顔になり嬉しそうにしていた。
「(……もしかしなくても、ジャスミンは自分の店から来たのか? ……そもそもあっちの建物まで声届いたのかよ!?)」
自分の声量に疑問を持ちながらも、ジャスミンと話をする。
「もしかしてジャスミンがここの酒場を仕切ってるのか? オマエあっちの道具屋も経営してて、こっちの酒場でも仕事してるなんて……そもそも店員はジャスミン1人しかいねえのか?」
「うんそうだよ! 従業員雇っちゃうとお金かかるしね。それに昼間は酒場にあんまりお客さん来ないから、ボク1人で十分なんだよ♪ それと酒場は『夜』が基本だからね! 夜には道具屋のお店を閉めてから、こっちの酒場でお酒とかを提供するわけなんだ♪」
そうジャスミンは笑顔を絶やさずそう言い切った。
いくら人を雇うのには金がかかるとはいえ、2つの店を掛け持ち、しかも昼間は客があまり来ないとはいえ同時間帯に経営しているジャスミンにオレは心底驚いてしまう。
「(昨今流行のワンオペレーション(=従業員1人ですべてを運営すること)も真っ青な、ブラック店舗経営術にも勝るとも劣らねぇじゃねぇかよ……)」
そんな事を思いながらも疑問を続けて聞いてみた。
「さっきさ、オレが店員を呼んだ時、声あっちまで届いたのかよ? オレ……そんな大きな声出してねぇよな? それで良くジャスミンは気付けたよな……」
どう考えても向かいの建物までは数十メートルの距離はある。仮に外から大声を出せば店の中まで聞こえるだろうが、如何せんオレは宿屋の中から声をかけたのだ。しかもそんなに大きな声を出していないにも関わらず、向こうの店にいるジャスミンまで聞こえるわけがなかった。
「……まさか商人だから耳が良いとか、そんな単純な理由じゃねぇよな?」
「さっすがにボクでも、この距離で聞こえるわけないよお兄さん(笑)」
オレも冗談で言ったからジャスミンに笑われても仕方のないことなのだが、それでも声が届いた理由が理解できなかった。
その理由を今から次話までの間に考えつつ、第118話へとつづく